超絶バイト推奨ハイスクール

ちびまるフォイ

いいから金稼いでこいやァァァァー!!!

「みなさん、人生において大事なことは何かわかりますか?」


「愛?」

「友情」

「才能だろ」


「金です!!!」


教師はバンと教壇をたたいた。


「みなさんはまだ若い。将来の選択肢は無数にある。

 だから、私のように安月給なうえ、サービス残業ありまくり。

 さらに休日は部活動をも顧問しての、休日返上の生活なんて絶対避けてください!!」


「せ、先生……」


教師の待遇についてはニュースでも見ていた生徒たちも、

当人から赤裸々に語られると引いてしまう。


「というわけで、今日から定期試験はなくします」


「「「 よくわかんないけどやったーー 」」」


「その代わり、成績を先生から購入してください」


「「「 えぇーーーー!? 」」」


喜びの生徒たちの表情はすぐさま賽の河原で石を積んでいるような、

この世の地獄をマラソンした直後の顔になった。わからないね。



国語:1…無料

国語:2…5万円

国語:3…10万円

国語:4…20万円

国語:5…40万円


「しかも高い!!!」


「教師の安月給なめんな。こちとら子供も生まれて金がかかるんじゃ。

 わしは、お前ら生徒がどんなに生活に困窮しようとも、

 おのれの子供が健やかにそだちゃあそれでええんじゃ」


「キャラも変わってる!!」


教科書とペンが不要になった代わりに必要になったのは金だった。

まずはクラスで一番頭のいい男がやってきた。


「先生、すでに僕は名門大学への進学が決まっています。

 のちのちは良い企業に入ることが保証されているでしょう。

 ですから、今は手持ちがなくても好成績をつけておくことが先生の信用を……」


「うっせぇ! 金かせいでからこいやーー!」


先生は生徒を教室の外へと追い出した。


「いいか! 学校で学ぶ勉強なんて社会にでてなんの意味もない!

 勉強だの成績なんてのは、しょせんオトナが査定する用のものなんだよ!

 いくら成績よかろうが金を払わないやつに用はねぇーー!!」


「なんか闇金の取り立てみたいなことを……」


生徒たちはめいめいにバイトをしてお金を稼ぐことにした。

一番人気はやっぱりコンビニだった。


「バイトとかやったことないけど、バイトと言えばコンビニだよね」


けれど、その実情はあまりに悲惨だった。


「ちょっとレジ並んでるよ!! 急いで!」

「ええ!? 荷物の受け取りに、料金の支払い!? わかんないよぉ!」

「掃除に品出しに揚げ物に……ゴミ捨て!?」


コンビニバイトをはじめた生徒たちはぐったりとして戻って来た。


「こんなに頑張って……成績まで全然もらえないなんて……」


やっとの思いで稼いだお金も高成績を買うにはとても安すぎた。


「いいか。印象や周りに流されて働く場所を考えてはいけない。

 そんなことをしていると、先生のように掃きだめの職場で働くことになる」


「だったらぁ、私は正解ですよね。せ・ん・せ♪」


クラスでも不釣り合いなほどグラマラスな身体の生徒がやってきた。

近寄るだけで甘い香りがしてくる。


「現役高校生って、ソッチの方面で需要あるんですよ?

 大事なのはぁ。今自分の商品価値を理解すること、ですよね♪」


グラマラス生徒は大量の万札を手に入れていた。

おおよそのバイトの内容はわかった。


ついで、男の方もやってきた。


「おっす! 先生! たくさん稼いできたッス!!」


こちらも万札をたくさん手に入れている。


「高額バイトなんていくらでもあるっす!!

 頭使うのは苦手っすけど、体をめいっぱい使って金稼いで

 成績貰えるなら超楽勝っす!!」


「おお、さすがだよ」


女性徒と男子は高成績を手に入れた。


「この調子でまた頼めるかな?」


「もちろんよぉ♪」

「よゆーっす!!」


即答した二人だったが、次に来ることはなかった。


「知ってる? あの子、妊娠しちゃったんだって……」

「あいつカニ漁船で旅に出たっきり戻ってこないな……」


クラスでの噂が本当かどうかはさておいて、先生は忠告した。


「みなさん、お金をすぐに稼ぐことは簡単です。

 ですが、安定して続けることはもっと大事です。

 先生のように社畜にならないよう、考えて稼いでくださいね!」


「いちいち職場の悪口言わないとダメなのかな……」


生徒たちは、バイトでお金を稼ぐことよりも

最初のバイト選びが肝心だと感づいてじっくりお金を稼ぐことを考え始めた。


株などに手を出すもの。

怪しい占いを始めるもの。

治験などのバイトを始めるもの。


最初とはうって変わって、さまざまな職種へと散った。




が、誰もが上手くいかなかった。



高校生の浅知恵で大人がばっこするマネーゲームに勝てるはずもなく、

株やらを始めた人はむしろ大損してしまう。


怪しい霊能占いを始めても、むしろ大事なのは相手を丸め込む技術で

人付き合いの浅い高校生は年上相手に駆使する話術などない。


楽な高額バイトを始めた人も、薬の副作用ではなく

「何か起きるのでは」という不安で勝手に体調を崩してしまう。



「みなさん、どうしたんですか。このままじゃ成績は全員1ですよ。

 これから社会に出て行けば、もうやり直しもできなくなるんです。

 今のうちにどんどん挑戦してください!」


「そんなこと言ったって……」


クラスメートがありとあらゆる方法で失敗している。

もう普通に稼いだほうがいいのではと思っても、稼いだところで高成績は買えない。


「みんな! お金を集めよう!

 ひとりひとりが稼ぐのじゃだめなんだよ! お金を集めるの!」


「あーーあ。ついにギャンブルですか。そういうのが一番ダメなんですよ。

 先生もね、この安月給に愛想つかして競馬に挑戦したことあります」


先生は自分が大逆転をかけて勝負したギャンブルで大損した話をはじめた。

でも生徒は構わずに自分たちのお金をかき集めた。


「そのお金でどうするんです?

 ギャンブルで一気に膨らませてみんなの成績を買うとか?

 はいはい。まさに失敗する人の典型じゃないですか」


「いいえ、そんな使い方はしません!」


「じゃあ、みんな平等に成績を買うとか?

 だとしても全員の成績はせいぜい「2」どまりですよ。

 わざわざ全員のお金を集めて再分配する意味もない」


あざけり笑う担任。

そこに校長先生がやってきた。


「君!! 今後の学校運営費を底上げしてくれると聞いたが本当かね!?」


「はい! 私たちのお金を使ってください!」


「おお助かったよ!! これだけあれば待遇改善はもちろん、

 職員の給料もアップできる! いやぁ資金繰りに困っていたんだ!!」


生徒のお金を使って教師の待遇を大幅に改善できる。

もう休日出勤も安月給もサービス残業もない。

校長は悩みの種が消えたと大喜び。



「……さて、先生?」



生徒たちの目の色が大人以上に悪い色をしていた。



「私たちの成績を悪くして前の社畜生活に戻るのと、

 私たちのお金でいい暮らしが始まるのと、

 どちらが賢い選択か教えてください?」



担任はすでに絶対服従の全裸土下座を行った。

生徒全員が高成績を記録した。

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