私的神話

私的神話

 

 原初の海があった。

 昏い混沌の奔流である。

 私はその中にあった。

 海から地を引き上げることも

 天と地を分か断つこともできず、

 ただ漂うばかりであった。

 (なぜこんなにも無力なのか)

 そこには朝の光も無く

 夜のような闇ばかりがあった。

 (まったく上も下もわからぬ)

 唯一

 獣を創り出すことのみが許されたが

 皆この濁水に溺れ死んでいった。

 (ああ、なぜ)

 死骸は地層のように積み重なり

 その内に

 私独りのみが立てる大地が現れた。

 草も生えぬ

 不毛の地である。

 (何を成せば良いのか)

 独りの地はあまりにも心もとなく

 今にも暗澹に侵食されようとしていた。

 (私は孤独だ)

 そのうちに

 もう何かを創り出す力も

 守ろうとする気力も果て

 再び私は暗闇の中を漂うこととなった。

 (何もかもがわからない。私は死んでしまうのだろうか)

 もう随分長い間流されたような気がした。

 一瞬だったのか、永遠だったのか。

 私がまさに還らんとした時であった。

 何かに体が乗り上げた。

 鳥のさえずりと

 さわさわと風に草が擦れる音とを

 私の耳は捉えた。

 (信じられない)

 重い瞼を開けると、

 そこには太陽が高く登った

 青空があった。

 右を向けばそこには清らな水

 左を向けば生命に満ちた黒土があった。

 (ここは私のものでない)

 体を起こせば、

 そこには

 地に満ちた

 草木

 獣

 そして

 人が

 確かに存在していた。

 そこでようやく私は

 自分が神ではないと知ったのだ。

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