幕間 彼女は一目惚れを語る
その時私は初めて、男の子をキレイだと思った。
カッコイイと思った。
一目惚れだった。
なんて、なんて――。
なんて綺麗な背側骨間筋!!
◆
「ちょっと待って」
たまらず、緑川は遮った。
どっぷり懐かしさに漬かっていた二宮は、きょとんと目を丸くした。
「……何? その、『背側骨間筋』って」
「指の骨と骨の間にある筋肉のことですよ? 物を掴んだりパーにしたりするのに重要な筋肉で――」
「いや、詳しい説明じゃなくて!! ……え? 何? 顔じゃなくて、手に一目ぼれしたの???」
混乱する緑川に、二宮は力強い笑顔で答えた。
「私、人の顔は覚えづらいけど、手は一発で覚えられるんです! 誰の手とかはもちろん、その人がどういうことを考えているかとか。特に、嘘をついているかは手でわかります!」
「なにその特殊能力⁉ ってか筋肉の名前とか、小六時点でそんな難しいもの覚えていたの⁉」
「いえ、その時はただ綺麗な手だなあって思っただけです。田月くんのことがあって、ようやく私は顔じゃなくて手に惚れるんだなあとわかって。それから具体的にどのようなところが好きなのかなあって調べて、覚えただけで……しがない能力です」
「いや大分特殊だから! 普通そこに注目しない――」
「エリ」
まくし立てる寸前だった緑川を、茅野が静かに止めた。
我に返った緑川は、今の自分の行動と、本日やらかしてしまったことを思い出し、反省する。人の話をろくに聞かず、自分の思い込みだけで話した結果、誘ってくれたシャルルと遊園地でケンカしたのは誰だ。二宮が田月との関係について話したいと言って、話を聞くと決めたのは自分ではないか。なのに、自分が話を遮ってどうするのだ。
「……ごめん、杏寧ちゃん」
「? いいえ?」
謝罪する緑川に、不思議そうに二宮は返した。不快に思ったわけじゃないとわかり、緑川はホッとする。
それでー、と茅野が言った。
「アネさんは『節』派―? 『血管』派―?」
「どちらも捨てがたいですが、選ばなければならないならダントツ『節』ですね!!」
「良い答えだ」
「なんの話⁉ ねえこれなんの話⁉」
いつの間に手フェチの話になってんの⁉
っていうかブルータス、お前もか!!!
更に混乱する緑川を置いて、二宮と茅野は嬉々として『男の手』について語っていく。
こうして、夜は更けていったのだった……。
つづく!
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