信じて送り出した転生者が

寒晒 てんのすけ

信じて送り出した転生者が

 私は転生者を異世界に送る仕事をしている。君たちの言葉で言えば神様かもしれないし悪魔かもしれない。


 この仕事をしている上でミスや手違いは起こり得る。誤って誰かを殺してしまいお詫びに何らかの贈り物をして異世界に送るだけではない。そんな失敗談をいくつかしようと思う。


ケース1 最低系オリ主の場合


 魔法陣から光があふれだし、背の高く引き締まった体をした美少年が現れた。龍宮院鏡夜、17歳、成績優秀で運動に秀でる今回の案件だ。


「ここは……」

「私は転生者を異世界に送る仕事をしている。君たちの言葉で言えば神様かもしれないし悪魔かもしれない」


 鏡夜は僅かな説明で事情を理解してくれた。今回の案件はある世界にスキルを満載した異物を送り込む、そうする事で別の世界にも変化を及ぼす。


 詳しい事は私にも聞かされていない。無数の世界を内包する組織の事だ全貌を知りえたとしても理解できないだろう。あえて近いニュアンスを示すとすれば風が吹けば桶屋が儲かり、蝶が羽ばたけば竜巻が起こると言ったところだろうか。


「では準備はいいかね。スキルや神具はすべて上げよう。君はかなり自由が利く上流階級の家に生まれ、幸福かつ健康に育つ。容姿端麗で銀髪のオッドアイ。何か要望はあるかね」


「記憶を取り戻すのを今と同じくらいの年齢にして欲しい」

「ふむいいだろう」

 そうして、彼を異世界に送った。


 それからしばらくして彼がどうなったのかモニターで様子を見てみる。

「んほほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおメスイキしちゃうううううう」


「おう」

 思わず目をそらす。銀髪の少女と見紛う少年が、ダンディな貴族とその何だ営んでいた。


 彼の送った世界では男と少年との恋愛に寛容で、その空気の中で育った彼はごく自然に恋人ができてドはまりした。初めから記憶があったらまた違った結果だっただろう。


 彼は恋人との事しか頭になく。この世界をどうこうする気はないらしい。記憶を取り戻した当初はかなり混乱したようだが、適性があったのか、調教済みだったのかすぐに受け入れた。


 その後、アフターケアで何か困っている事がないかと夢の中で聞いてみたら、メスの顔しながら恋人と添い遂げたいと言ってきたので叶えてやり。彼を送った時点でこちらの目的は達成しているのでサービスは打ち切った。


 幸運スキルや災い除けの神具がある事を考えると彼にはその気があったのか、とても幸せそうだ。そろそろ精神的にきついので私はそっとモニターを閉じた。


ケース2 ミリオンブッキングの場合


「では特典は人型起動兵器開発の才能と知識で生まれは錬金術師、そちらに行っている転生者同士うまくやってくれ」

 また一人、転生者を送ったこの世界にこれで1000人目だ。


 先日の転生者のように好き勝手諸々の条件を調整できるわけではない。送る魂、生まれる環境、特典などによって他の世界にも影響が出るのでどれだけ転生者の願いを聞き入れるのかは場合によってかなり異なる。


 さて、今回の世界は大量に転生者を送るだけあってかなり危機的な状況だ。

フォービデンスライムの大量発生。たかがスライムと侮るなかれあらゆるものを食らい無限に増殖、進化し他の生物や機械を乗っ取る。果ては次元を超える。


 その上数は現在その世界の宇宙に司令級が20正ほど、端末の数は不明。

2×10の41乗、200,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000である。


 ゼロが多ければいいってものではない、一部で増えすぎてブラックホール化しているとの知らせもある。情報部の奴らめ何故こんなになるまで気づかない。


 憤っていると連絡が入った。

「例の世界の事なんだが、直ぐに転生者を送るのを取りやめろ」

「何があったんですか」

「実はな、フォービデンスライムの大量発生で現場が混乱してしまい命令が重なってしまった」


「といいますと」

「ミリオンブッキングだ」

「ダブルブッキングではなく」

「ああ、百万人の担当者の下に同じ命令を送ってしまって、現在転生者が多すぎてその世界の人口を越えてしまっている」

 

 モニターを見てみる。フォービデンスライムの方は転生者たちによって倒されたがこんどは多すぎる転生者によって争いが起こり戦国時代になっている。


 流石組織だやらかすこともデカい。これの後処理はどうするのだ。


ケース3 逆恨み転生者の場合


「良くもあんな世界に送ってくれたなあああ!!」

 ある日の事、魔法陣が光り仕事場に予期せぬ来客が現れた。口ぶりから察するとこの青年、私の事を恨んでいる転生者のようだ。

「話を聞こうか」


 多くの転生者を送っていているので一々覚えていない。ひょっとしたら何かの間違いか平行世界の私がやらかしたとばっちりかもしれない。

「五月蠅い。話す事なんかない!!」


 逆上した来客に持っていた刃物で切り付けられて意識が遠のく、使い捨ての末端などこんなものだ。


 気が付くと眩い光の中に立っていた。光が収まり、目の前に若い女がいた。

「始めまして、私は女神のエレアと言います……」


 この状況、長年の経験則から間違いないと確信した。今までさんざん転生者を送る立場だった私が送られる立場になるとは因果なものだ。


「説明は結構、まずは選択可能な条件と向かう世界の情報をください」

「え?」


「何、多少経験はある。信じて送り出した転生者がといった思いはさせないよ」

 その後、女神エレアによって私は異世界におもむいた。


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