いっしょに世界を旅しよう

藍上央理

第1話

ボクの名前はルイ。生まれたところは小さな星なんだよ。ボクの世界にはたくさんの星があって猫耳の人たちが住んでいるんだ。


でもボクは旅に出た。だからもうずっと遠くにその世界はある。




空は真っ暗だって思うだろ? でも違うんだよ。空にはたくさんの星屑が光ってるんだ。星の上に立って眺めていると星屑が集まってきて、キラキラとボクの回りを回り始めるんだ。


星屑はチリンチリンと鈴の音のような軽やかな音を立てて、踊りながらまた次の星まで渡っていくんだ。


そう、ボクの住んでいた星以外にもたくさんの星がボクの世界にはある。


たくさんの世界もある。ここ以外にも。


なんでそんなことを知っているかって?


ボクが小さな星に乗って他の星のことを考えたり、星屑たちが去っていった方向を眺めたりしているとき、ボクの星の横をおおきな彗星が通りかかったんだ。


ボクの星の何倍もあるほうき星のことだよ。


暴れ馬のように世界から次の世界へめぐって飛んでいるんだ。


ボクは彗星に声をかけてみた。


「君はボクを乗せて飛ぶことはできるかい?」って。


彗星は答えた。「もちろんだよ。俺はどんなものも乗せて飛ぶことができるよ。どんな星屑たちよりも早く飛べるのさ」


「ボクが乗せてって言ったらその背中に乗せてもらえるかな?」

「いいとも!」


それから、ボクは彗星に乗って旅をしてるんだ。




ボクは彗星に乗っていろいろなところへ行った。


おおきな星に住む人達と話をしたこともあるし、星屑が来ないような明るい世界を渡っていったこともある。


空と地面が分かれている場所も知ってるよ。


星に乗ってない動物たちにも出会った。


白くておおきな翼を広げて彗星よりかは遅かったけれど、空をかけていく動物がいた。その動物はペガサスだって名乗った。


ペガサスが教えてくれた。「友達を探してるんだ」


「友達ってなに?」ボクがたずねるとペガサスが答えた。


「一緒に旅する仲間だよ」

「じゃあ、ボクたち、友達になろう」

「だめだめ。君は彗星に乗ってとっても早く飛んでいってしまう。とてもじゃないけど追いつけないよ。同じ仲間を探したほうが良いよ」


ペガサスはそう言って空の向こうへ飛んでいってしまった。


「友達かぁ」


ボクはボクと同じ友達を探すことにしたんだ。


ところでボクと同じ友達ってなんだろう?


ボクはすごくたくさん考えた。いろいろな世界を通り過ぎるあいだずっと考え続けた。いろいろな人と出会ったけれど、ボクと同じ友達はいなかったんだ。


ボクはずっとひとりなんだなって思っていたんだ。


ひとりが寂しいのかそれとも楽しいことなのかわからないけれど、ボクは友達っていうものがとっても大切なモノなんだろうなってことはわかってきた。


それならボクにとって大切に思える人を探してみることにしたんだ。




ある日、空が桃色に輝く世界にたどりついた。


すごくいい香りがする。甘いキャンディーの香りだよ。


キャラメルの香りかもしれない。


わたあめみたいな雲がふわふわと浮かんでいるんだ。


星はまばらでとなりどうしとっても遠かった。


きっと大きな声で話しかけても聞こえないんじゃないかって思える。


ボクは、小さな星々に乗ってボクを見ている人たちを眺めながら通りすぎようとした。


その中に、ふらふらとしている星が一つあった。すごく小さな星だ。コンペイトウみたいな形の星は小さな頭の上に真っ赤なチュチュを着た女の子を乗せている。


その女の子も上手に片足でバランスを取ってるけど、とってもふらふらしててたよりなさ気だ。


ボクは彗星で女の子の近くに行ってみた。


「やぁ」ボクは女の子に声をかけてみた。


「ハイ」女の子はボクをちらりと見ると挨拶を返した。


ツンとした鼻に小さな口。大きな瞳がとってもかわいい女の子だ。


「猫耳さん、どこからきたの」

女の子がボクに聞いてきた。


「ずーっと遠くからだよ。僕はルイ。君は?」

「あたしはリボン。ねぇ、そんなに遠くからなにしに来たの?」おおきなかわいいリボンをした女の子は不思議そうに聞いてきた。

「旅をしてるんだ」

「旅? そんなことしてどうなるの」

「旅はおもしろいよ。いろんな世界を見たり、いろんな人達に会って話をしたりするんだよ。今まで知らなかったことがたくさんあるんだ」

「ふーん」


リボンは興味なさげにツンと上を向いたけど、なんだか彗星のことが気になるみたいだ。


「彗星に乗ってみる?」ボクは誘ってみた。


リボンは一瞬うれしそうに笑ったように見えたけど、すぐに興味ないふりをした。


「いいわ、べつに」


リボンはゆらゆらと揺れながら空の向こう側を見つめている。


ボクはリボンの見つめている先を眺めてみた。わたあめのような雲が漂っているだけで何もない。


リボンは何度も彗星を気にしている。


ボクはゆらゆら揺れているリボンの星のことをたずねた。


「ねぇ、君の星は少し小さすぎるんじゃない?」

「そんなことないわ」

「でもすごく揺れてるよ」

「ちょうどいいの」

「星が落ちちゃうんじゃないかな」

「もうずっと落ちてないんだから大丈夫よ」

リボンは頬をふくらませて言い返した。

「片足でずっと立ってるのは疲れちゃうよ?」


「平気だわ」

リボンは強がって言った。


「だってずっとこんなふうだもの」


ボクはリボンが無理してそんなふうに言っている気がした。ほんとは頼りない星に乗っているのが怖いんじゃないかなって思った。だから星に聞いてみた。


「星さん、リボンには君はすごく小さいんじゃない?」


コンペイトウみたいな星が小さな声で答えた。


「ずっとリボンが小さなころから支えてきたけれど、もうちょっとでも大きくなったら落っこちてしまいそうさ」


それを聞いてリボンは顔をクシャリとしかめた。ぎゅーっと寄った眉毛が悲しそうな形になる。


「そんなことないでしょ? あたしはすごく上手に片足で立てるもの。それにちっとも大きくなんてならないわ。もう何も食べないようにするんだから」

「なにも食べないと病気になっちゃうよ?」ボクは心配になって言った。

「平気よ! あたしにかまわないで!」


リボンは怒ってしまって唇をとがらせた。でも瞳がキラリと光ってダイヤモンドみたいな涙が見える。


今にも泣いてしまいそうだ。


ボクはそんなリボンのことが気になって仕方なくなった。小さな星が落っこちてしまったらリボンはどうなってしまうんだろう。ずっとずっと落ち続けて、どこかに消えてしまいやしないだろうか。


「ねぇ、リボン。ほんとうに小さな星は君を支えられないんじゃないかな? じゃなかったら星が君にそんなことを言うはずがないもの」


ボクの言葉にリボンがしくしく泣き始める。声を押し殺してなく様子にボクはオロオロとしてしまう。ポケットからハンカチを出してリボンに渡そうとするけど、リボンはそんなものはいらないと嫌がった。


「あなたはなんでそんなひどいことを言うの。あたしの星は本気でそう言ったんじゃないもの」


リボンの言葉に今度は星が困り果てたようにため息をついた。


「リボン、おおきくなった君を支えられるおおきな星を見つけたほうが良いよ。君を嫌いになったんじゃないんだ。君が落っこちてしまわないように言ってるんだよ」


リボンの両目からポロポロと宝石みたいな涙が落ちた。


ボクは困ってしまってリボンを見つめていたけれど、いいことを思いついた。リボンはボクとよく似てる。どこが似てるかって言われたらはっきりとは言えないけど、とっても彗星を気にしてるところが似てると思う。


ボクの星も小さかった。もしもボクがそのまま星に乗っていたらきっとリボンの星のようになってしまったかもしれない。


「ねぇ、リボン。君さえ良かったら彗星に乗ってみない? そしてボクと一緒に旅に出るんだ。一緒に世界を見て回るんだ」


リボンが顔を上げた。涙が溢れて落ちているけれど瞳が大きく見開いて驚いているようだった。


「無理だわ。だって星を離れたことなんてないもの」

「そんなことないよ。ボクも前は小さな星に乗っていたんだから」

「あたしはあなたとは違うもの。この星を離れてどこかに行くなんて考えられないわ」


するとコンペイトウみたいな星が言った。


「リボン、この男の子についていくと良いよ。君が落っこちてしまうくらいなら、君が男の子と旅をしている方が幸せだ」


リボンが不安そうに星とボクを見つめる。


「星から離れたら、あたしどうして良いかわからないわ」


リボンが唇を噛んで泣き声を上げまいと我慢している。


ボクにはリボンの心細い気持ちがよくわかった。ボクも時々自分の星を思い出すから。星はひとりぼっちでどうしてるかなって。


でもボクの星を言ったんだ。「旅に出なよ。そして時々思い出しておくれよ」

きっと星はひとりぼっちじゃないんだと思う。心のなかでボクと星は一緒にいるんだ。


「リボン、ボクがついてるよ。ずっと一緒にいる。星もずっと一緒にいるんだ。君の心のなかに」

「そうだよ。消えてしまわない。ずっとここにいるよ」星がささやいた。


リボンはボクを見つめる。「星は寂しくないのかしら」


「寂しくないよ。それよりも君が落っこちてしまうほうが悲しいんだ」


星の言葉にリボンは悲しそうな顔をした。


「あたしも星が落っこちてしまうのは悲しいわ」

「だから、彗星に乗りなよ。君と星が幸せになるために。ボクと一緒に行こう」

「あなたと一緒に行けば、星は落ちてしまわない?」

「そうとも。そしてこれからは君を守るのはボクだよ」


 リボンはためらっているようだった。


「さぁ、ボクの手を取って」


リボンはボクをじっと見つめた。


「さぁ、勇気を出して」ボクは辛抱強くリボンを待った。


リボンが片手を伸ばして、ボクの手を取る。ふわりとリボンの体が浮き上がり、あっという間に彗星の背中に乗っかった。


「星さん、ずっとありがとう」


リボンは小さな星にお礼を言った。星は嬉しそうにキラキラとまたたいた。


「リボン、さようなら。いい旅を」


ボクは彗星に次の世界に行ってくれるように頼んだ。


「リボン、これからはボクが一緒だよ。新しい世界を一緒に見よう。いろんな世界やものを発見しよう。君が困り果ててもボクが守ってあげる。君が悲しんだりしたらボクが慰めてあげる。君が不安になったときはボクがそばについてあげる。だって君はボクの友達になったんだもの」

「ほんとうのほんとうね?」


リボンがボクに言った。


「ほんとうさ」


ボクは胸を張った。ボクの手を握るリボンの手の力が強くなる。


彗星が光を撒き散らしながら風を切って先へ進んでいく。


リボンとボクは手を繋いで新しい世界に向かっていった。


旅はもっと楽しくなる。ひとりでいるよりもずっと。

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いっしょに世界を旅しよう 藍上央理 @aiueourioxo

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