パラレル・ストーリー 〜僕が歩いた分岐点〜

黒田真晃

第1話 爆弾発言

ふわあ・・・・


教室のカーテンが、風でふんわりとふくらむ。


ぼーっと僕は、その様子を眺めていた。どちらかというと、頭の中で目に

映している映像を見ていた。


あの子に、会いたいなあ。夢でみた、ツインテールのあの子。

所詮は、夢物語なのかなあ・・・


また、魔女にあの夢を見せられていたのか?

或いは、死神に見せられていたのか?


なぜだろう。片方の相手にしか会っていないのに、まるで両方会ったみたいだ・・・


まるで、この謎を解かないとあの子に会えないような気がする・・・


「いよっ、ワタル!」


ポン、と僕の両肩を両手でたたきながら素早く現れたのは、僕の同級生。


ムシバこと、飯原めしはらけん。そして、マー坊こと、新田にった真広まさひろ


僕は今、ワタルって呼ばれたけど、僕の名前は海藤かいどうわたる


私立高校に通う、高校二年生。自己紹介がおくれた。


「いつとなく、メランコリーになっちゃってない?」と言うのは、マー坊。


「そ、そんなことないよ・・・?」と、僕はなるべくポーカーフェイスに

なってから言った。

そしたら、アホのムシバが、


「おまえ、川栄かわえいに気があんだろ?」と、言いだした。

「そ、そんなんじゃないよ!・・・ムシバこそ、彼女に気があるんでしょ」

「俺のことはいいんだよ」

僕とムシバの会話に入ったマー坊が、

「川栄さんは、この学校にファンクラブがあるほどだからねえ、まあ、

彼女はアイドルだから当たり前だろうけど」

話は、ムシバが引き継いだ。


「とくに、ワタルは川栄のかげながらのおっかけだもんな。

ファンというより、命って言うかよお。

三度のめしよりほたる?寝ても覚めてもほたる?お風呂の時もほt・・・」


「だあああぁ!うるさーい!あんまりうるさいと、ムシバ!

お前にテキサスクローバーホールドかけるぞ!」

そう言って、僕はムシバにつかみかかった。


「ひえ~、かあちゃんかんべ~」と笑いながら言うムシバ。

誰がかあちゃんだ。

「あはははははははははははは・・・」

と、他人事ひとごとみたいに笑うマー坊。


ちなみに、川栄というのは、うちの学校のマドンナ的存在。

クラスメイトの川栄かわえい美明みはる

今は父親の川栄康範やすのりが社長をつとめる、プロダクションで、

川栄ほたるという芸名のアイドルをやっている。

彼女のシングルは飛ぶように売れ、一年に3枚出したCDがどれも

ダブル・プラチナに認定するほどだ。


僕が、彼女の特集記事を見て笑っていただけなのに、さっきの

連中に”川栄が好き”というイメージをつけられてしまった。


まったく、面倒なことは嫌いだ。

僕にはただでさえ、懸案事項があるってのに。

放課後。僕は、さっきの連中と一緒に校門の外まで歩いていく。

「じゃあな」と、ムシバ。「バイナラ」と、マー坊。

「うん、また明日」と、僕はふたりに別れを告げた。

今日はまっすぐ家に帰ることにした。


誰も居ない道を歩いていく。僕は、昨日の夢で魔女に言われたことを

反芻はんすうしていた。


(あなたには、今日からとして働いてもらいます・・・)


まったくわからない。どういうことなのか。宗教しゅうきょうにでも入れられた気分だ。


「あ、はーいはいっと」

そう言って、誰かが僕の肩をたたいた。


「うわぁ、ごめんなさい!」

「んー!?何あやまってるの?」そこに居たのは・・・


うわさのあの子、川栄ほたるだった。


「あ、か 川栄さん・・・」

「ねーねーにかちゃんだよね。」

「え?にかちゃん?なんのこと?」

「だってー、二階堂にかいどうワタルでしょ?二階堂だから、にかちゃん!」


僕は、体の体幹たいかんがくずれたようにずっこけた。

「あのねえ、僕はじゃなくて、かいどう!」


「あ、そっかあ、じゃあ、わったーだね!ワタルだからわったー!」


初めてのニックネームをつけられてしまった。

「まあ、なんでもいいよ・・・それより、僕に何の用なの?」

早く相手の欲求にこたえて帰ってしまいたい。


「ンフフ~あのね、私・・・」

「うん」


「好きです。私と付き合ってください」


「へあっ!?」


爆弾発言だった。



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