団結
「やっほーツキコ! 元気?」
「ま、麻紀ちゃん!? それに永沼くんも……!」
「二人がどうしてもお見舞いに行きたいって聞かなかったからな」
進くんは毎日来てくれてるからそれが当たり前になってきてたけど、麻紀ちゃんたちはあの日の学校以来だからなあ……元気そうな姿が見れてよかったな。
「はいこれ! ただのお菓子だけどよければ食べて!」
「ありがとう、大事に食べるね」
「……ってあれ!? ツキコ、フツーに喋ってるじゃん!?」
「あ、うん、そうなの。進くんのおかげ(?)で少しは喋れるようになったよ」
「すごいじゃーーん!! タケノコもう一箱上げるわ!!」
「い、いやいやそんな悪いよぉ」
麻紀ちゃんがいるだけでその場全体が明るくなる。もちろん、私の心も。最初はちょっぴり押しの強さが怖く感じていたけど、今はその明るさがとても嬉しい。
……こうやって仲良くしてると、昨日進くんと話したみたいに「死んでほしくない」って気持ちが強くなる。まだ二人とも死にたいって思ってるのかな……。みんなのこと、大好きだもん。これも多分、私のエゴなんだと思う。でも……でもやっぱり死んじゃうのは嫌だ。
「あ、あのさ! 二人とも……」
「あ、そういえばこの前さあ――」
私が勇気を出して聞こうとしたとき、麻紀ちゃんがそれに被せて別の話をし始めた。一瞬間が悪かったのかな、と思ったけど、すぐに麻紀ちゃんが口の前で人差し指を立ててることに気付いた。
――そうだった。数日前、明日香ちゃんが情報をくれたんだっけ。
『生徒手帳に盗聴器が仕込まれてる。聞かれたらまずいやり取りはメッセージでして』
まさかそんな身近なところから情報を抜かれていたなんて……ちょっと先生のことは超能力者か何かだと思ってたけど、ずる賢いだけのただの人間だったことが分かって少しだけ安心したんだ。相手が人間ならきっと何かしらの対抗策があるはずだしね。
そういうわけだから、私と進くんが「死にたくない」ってことは声に出して話しちゃいけない。死にたくないって言った明日香ちゃんを先生は執拗に脅してた。もし私たちが死にたくなくなったって分かれば私たちを殺しに来るかもしれない。――麻紀ちゃんは私がそういうことを言おうとしてるのも分かってたのかもしれない。麻紀ちゃんてものすごく周りをよく見てるから。
「そのお店でさぁ、あいつが――」
麻紀ちゃんは適当に話を繋ぎながらスマホの画面を見せてくる。そこにはこう書かれていた。
『あたしとナガヌマはしばらく死ぬのやめたから』
……よかったぁぁぁぁぁ!! 嬉しくて思わず声が出ちゃうかと思った。何が二人をそうさせたのかは分からないけど、とにかくよかったぁぁ……。
同じ画面を見た進くんも分かりやすく喜んでる。ってことは自殺部のメンバーは全員死ぬことをやめたってことなんだね。そう考えるとなんだかあべこべ。
次に進くんも同じように画面を麻紀ちゃんたちに見せる。きっと私たちも死ぬのをやめたよってことだと思うけど……それを見ても麻紀ちゃんと永沼くんはそこまで驚かなかった。やっぱり予想してたのかな……二人って方向性は違うけどどっちも頭いいよね……。
「やっぱあそこの店行くんならさあ――」
そうやって麻紀ちゃんが場を繋いでる、その最中だった。スマホが震える。それは私のスマホ含めてみんなのスマホに来ているみたいだった。私も手を伸ばしてメッセージをチェックする。それは明日香ちゃんからだった。また何かに気付いたのかな……? と思ったけど、今回はそれよりも一歩踏み込んでた。
『今日ですべてを終わりにする』
※ ※ ※
「ツキコ元気そうでよかったね~」
福原がさっきコンビニで購入した唐揚げを食べながらそんなことを言う。
「これで自殺部の活動も再開できるな」
「それな。いよいよどう死ぬか考えないと」
僕と福原、二人して心にもないことを言う。綿貫が生徒手帳の中の盗聴器を発見したからだ。実際には既に自殺部全員が死にたい気持ちを捨てている。あの胡散臭い教師の魔の手から逃れるために嘘を喋り続けなければならない。その点、福原はぺらぺらと口から出まかせを言うので、見直した一方で信用したくないなとも思った。
それにしても、福原を引き留めた時に制服を着ていなくて本当に良かった。あれを聞かれていれば恥さらしであるだけでなく死のうとしていない人間がいることがバレてしまうところだった。その前にも怪しい発言はしているが、断定はできなかったんじゃなかろうか。
生徒手帳だと分かっているなら持ち歩かなければいいのではないかと普通は思うだろうが、急に持ち歩かなくなったら奴に盗聴器の存在を知ったことを気付かれる可能性がある。だから直接奴をどうにかするまでは持ち歩いて気付かないフリをするしかない。
「あ、今日かなみんちにお泊まりだから親に言っとかなきゃ」
福原はそう言って僕の方にウインクしてくる。……一線を越えた仲とはいえこういうことは未だ慣れない。一生かかっても慣れないかもしれない。
それはともかく、福原の発言は僕と綿貫の策略に対してのやる気をアピールしているのだろう。先ほど津田の病室にいた時に綿貫からメッセージが届いたが、実はそれに関しては既に僕が関わっていた。綿貫が奴を誘い出し、僕が根回しをしてとどめを刺す。福原にも一仕事打ってもらうつもりだ。綿貫のメッセージはその詳細を三人に伝えるためのものだった。
この感じ、綿貫を奴から遠ざける作戦の時と似ている気がする。今回ばかりは一発勝負、失敗は以前にもまして許されない。
「じゃあナガヌマ、また明日」
福原が交差点を曲がっていく。この光景を最期にしないために、僕は必ず勝たなければいけないんだ。
※ ※ ※
「ただいま~」
「おかえり、今日遅かったね」
「友達のお見舞い行ってた」
ミホは既に小さいテーブルの上に夕ご飯を置いて待ってくれてた。もー、もんなできた子なのにどうしてあんなクソ男に引っかかっちゃたかな~……。
「お、シチューじゃん。いただきま……」
「こら、ちゃんと手洗いなさい」
「うーい、もーミホってば本当のママみたいじゃん」
ぶつくさ言いながらもミホから言われる分には別に嫌でもなんでもなかった。なんだ、あたしが生まれた家庭があたしに合わなかっただけじゃん。血が繋がってんのに合わねえなんて、神様、世界の作り方間違えたんじゃねえの?
「あ、そうだミホ」
「うん?」
「今日友達んち泊まるから八時頃家出るけど、いい?」
「えー? ……まあ高校生だからお泊まりもするよねぇ。事前に言ってくれたから許す」
「ありがとー! ミホ大好き」
「調子のいいこと言うな」
ミホと談笑しながらも盗聴器にあたしが外出するのはお泊まりのためだと吹き込む。これであそこに寄りながらアスカの家に行けばいい。……ってナガヌマが言ってた。ナガヌマが言ってるなら間違いないでしょ。
「じゃあ改めまして、いただきまーす」
ミホと一緒に食卓を囲んでぺちゃくちゃと他愛ない話をする。この生活が、だんだん気に入り始めたみたいなんだ、あたし。だからウザい邪魔者は早く排除しなきゃいけない。スプーンを持つ手に、少しだけ力が入った。
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