結果
やべー、あたしクラスの不良気取りからツキコを守っちゃった~。これあたしが男だったら絶対惚れられてるっしょ。少女マンガ展開あるんじゃね?
……とかって浮かれてもいられないんだよね。ツキコんちまで付き添って、その流れで家に帰ったらニュース見まくんなきゃ。ちょっとでもアスカのニュースが確認できたら適当なところにタレこみする。面倒くさいことこの上なし!
まず公衆電話のある場所なんか知るわけないし。駅とかにあるイメージはあるけど、駅は遠いし、それ以外はどこにあるか知らない。どこかしらにねぇもんかな。
イメージ的には歩道橋の下とか公園とかにある感じもするけど……そこの歩道橋の下にはない、か。なんかだいぶ前に公衆電話がどんどん撤去されてるとかいうニュースあったような気がする。なんで撤去しちゃったんだよ~……まあ普段は絶対使わないけど。
あーもー疲れた。これ以上公衆電話を探し回るなんて無理!素直に諦めてコンビニ寄って帰ろ。……あった!へえ、コンビニに公衆電話ってあるんだ。初めて知ったわ。果報は寝て待てじゃないけどあたし運よくね?
さてと、そしたらさっさと家に帰ってと……夕方のニュース何ちゃんがいいかなー。NHKとか意外に夕方ってニュースやってくんないんだよね。――あと浮気の報道とかあんまししなそうだし。適当に民放のニュースつけとくか。
『毎日テレビの生放送中にアイドルでタレントの高校生、綿貫明日香さんが自殺を図った事件で……』
適当に付けたのがたまたまアスカが自殺しかけたテレビ番組の局だった。やっぱ自分のとこの番組で起こったから、他の局が落ち着いてもまだとりあげてるんだね。
でも、アスカの闇〜とか共演者の話〜とかが中心で、スキャンダルみたいな話はないっぽい。つーかナガヌマたちちゃんとやれてんのかな。あいつらが失敗してあたしは永遠にニュース見続けるとかはまじで勘弁って感じ。
「お、麻紀がニュースを見てるなんて珍しいな」
引き戸を開けて、奥の部屋からパパが出てきた。発狂したママの相手をしてたのか、かなり疲れ切った顔をしてる。
「ん、まあね」
適当にあいまいな返事をして、なんとなく立ち上がる。ママが動かない今、ごはんを作るのはあたししかいないんだよね。つってもレトルトとか冷凍食品ばっかだけど。パパも味噌汁とかくらい自分で作ってくれりゃいいんだけどね。
一応、ご飯の準備してる最中も、テレビから聞こえる音に耳を傾けてたけど、結局スキャンダルらしい話題は一度も出ないまま、次のよく分からないクイズ番組になっちゃった。
「いただきます」
ここでまたNHKのニュースに回したら、それこそパパが変なこと勘繰りそうだからやめておいた。てか、これだけ待っても出てこないってやっぱりあいつら失敗したんじゃないの?信じらんない。ここ最近のご飯は美味しくなかったけど、今日は格別美味しくない。
……と、その時、テーブルの上にあったあたしのスマホが震えた。メッセージアプリ以外のバイブは切ってるから、多分自殺部の誰か。残り僅かのご飯をかきこんでスマホを開く。
予想通りナガヌマからだった。
『ネットニュースを見たか?』
その一文だけ、メッセージは送られていて、その下にURLが添付してあった。そのままタップする。
某検索エンジンのニュース画面に、太字で『自殺未遂アイドル 浮気か』というタイトルが表示されていた。もちろん、そのままスクロールして続きを読む。そこには、ちゃんとナガヌマたちが行った様子、話した内容が細かく書かれていて、ご丁寧なことにモザイク入りの動画まで付いていた。
『じゃあ、もうタレコミ行った方がいい?』
そうやって打ったら今更ながら緊張してきた……。だってあたし今からテレビ局の人とかに嘘つくわけでしょ。見破られたらただで済むわけないじゃんそんなの。
『ああ。できればテレビ夕陽、夕陽新聞とかがいいかもしれない。毎日テレビと対立関係があるからな。食いつくだろ』
あー、やっぱり行かなきゃいけないのねー……。あーもう分かったよ。行けばいいんでしょ行けば。
「ちょっと外行ってくるから」
「え?どこへ行くんだ?」
「ポストに手紙出してくる」
事前に用意しておいた受け答えをして、そのまま家を出た。うまくやらなきゃ。彼氏様の頼みだもん。あたしならできる、多分。
※ ※ ※
朝。カーテンから漏れる日の光を遮りつつ状態を起こす。
――この時点で、既に昨日と雰囲気が一変していることはすぐに分かった。家の前のざわざわ感がどう聞いても昨日より俄然多い。
私は心の弾みを抑えきれずに、ベッドから降りてすぐにカーテンへ駆け寄った。
道を埋め尽くさんばかり、とまではいかなかったが、それでも私が自殺未遂をした日と同じくらいのカメラは並んでいた。しかも、そのほとんどがテレビカメラで、かなり注目しているらしいことは分かった。
――これでしばらくは先生の手から逃れられる。殺されずに済む。そう思うと気が抜けて、へなへなとその場に座り込んだ。
少しの間、そのまま感涙を流していたが、すぐに私のために尽力してくれた彼らのことを思い出した。礼をしてもしきれない。まさに命の恩人と言って差し支えない。
すぐさまベッド横の電気スタンドに置いてあったスマホを手に取り、メッセージを送った。
『ありがとう』
言いたいことがまとまらなくてたった一言しか送れなかったが、みんなはすぐに返事をくれた。
『いいってことよ』
『どういたしまして』
『当たり前のことをしたまでだ』
『気にしないでいいっつの』
それを見て、私の涙腺はまた緩んだ。私ってこんなに泣き虫だったっけ。本当に、みんなに出会えて良かった。
――そうやって考えたところで、ある事実を思い出してしまった。
そうだ、彼らはこれから自殺してしまうんだ。こんなにも温かく、優しい関係なのに、本質は自殺でつながった仲間。こんな悲しいことって……。
私は先生に殺すと宣言されてから今まで、自分さえ生きていればそれでいいと思っていた。自分さえ死ななければいいと。でも、彼らがこの世を去ってしまえば、私はまた一人ぼっちだ。もうテレビ業界にも戻れない。学校にはもちろん友達もいない。親にすら見放されている。そんなんじゃ、生きてても死んでるのと変わらないじゃないか……。
死んでほしくない。私は初めて明確にその想いの存在に気付いた。もちろん、彼らがいないと生きている実感が湧かないというのもそうだが、彼らが死ぬこと、それ自体がワタシにとってはすごく悲しい。私は――この短い期間で、こんなねじ曲がった関係だけど、曲りなりに彼らのことが好きになっていたのだ。
しかし、彼らは何かしらのつらいことがあって自殺しようとしているのだから、引き留めたら彼らをそのつらさの中に残しておくことになってしまう。それはあまりにも身勝手かもしれない。
でも、身勝手でもいいと思った。これは完全に私のエゴだ。私は彼らから嫌われようとも、絶対彼らに生きてほしい。生きられるように、私が支えたい。
今でこそ、先生に殺されそうでうかつに動けないが、ことが収まった暁には――五人で普通で平和な日常を、普通に仲良く笑って過ごしたい。
それは実現不可能なことでは、決してない。私はそう思いたかった。
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