作戦直前の会合
家に帰ってスマホを開くと、綿貫からメッセージが届いていた。どうやらあと二、三日で作戦を決行できるようにしておいてほしい、ということらしい。
とはいえ、彼氏面してインタビューに答えるだけなので準備も何もないのだが、作戦を練っておかないと痛い目を見るのは明白だろう。仮に綿貫の家を訪問したとしても、誰にも話しかけられなければ意味がない。
どうすれば必ず話しかけてもらえるものか。かといってアピールしすぎればそれはそれでわざとらしい。
それから、どこにどれだけの人が集まっているのかも把握しておかなければならない。報道陣が大勢来ていることが分かっているのに、表から堂々と入るのはあまりにも不審である。かと言って裏から入って誰もいなければ元も子もない。
詳細を頼む、とだけ送ると、しばらくして長文で大体どういった感じかを伝えてきた。
どうやらまだ十人近くが門の前にいるらしく、裏にも恐らく週刊誌の記者であろう人間が二人立っているとのことだった。だったらば、裏口から突入する方向で問題なさそうだ。もちろん、今後帰ってしまう可能性もあるので、当日もう一度確かめなければならないが。
今日の昼まで警官がいたが帰ってしまったらしい。できれば警官がいてくれた方が安全度は高まるのだが、帰ってしまってからでは手の打ちようがない。
さて、当日の動きについてだが、まずは様子見で何もアピールせずに裏口から入り、十分ほどで出てくる。それでインタビューを仕掛けてこられたら渋るフリをして彼氏であることを喋る。そして二人目も同様だ。
もし話しかけられなければ、一人目がもう一度来て、外から名前を呼ぶなどのアピールをした方がいい。戻ってくる理由は「頼まれたものを近所のコンビニに買いに行った」ということにでもして、ビニル袋を引っ提げていればいいだろう。
できればスキャンダルになりそうなことを喋った方がいいので、嘘をついてもいいかもしれない。例えば子供ができたとか……いや、それは流石に綿貫が嫌がるかもしれないが。
しかしどうせやるならば現状維持だけではなくまた報道陣が増えるくらいのスキャンダルは作っておきたい。もちろん綿貫が許す限り。
それについても聞いてみたが、今度の返信は短いけど返ってくるのは遅かった。
『わかった』
本人も思うところがあったのだろうが、背に腹は代えられない。命あっての物種だ。
そうなればインタビューでそういうことを放さざるを得ない状況を作らねばならない。それはかなり演技力のいることだ。それを杉田にやらせたらどうなるか分からない。――そもそも杉田はその役を買わないかもしれないな。
僕とて演技に自信があるわけではないが、少なくとも人並みには演技ができるはずだ。僕が一番手となって起点を作り、杉田がそれを引き継いで流れのままにやってくれさえすれば問題ないだろう。
そうと決まれば杉田にも早めに伝えておかねばならない。恐らく綿貫からすでに連絡は行っているだろうから、今回の作戦の概要だけ伝えておけばいいだろう。
……こんなにスマートフォンを見つめる時間が長いのは生まれて初めてかもしれない。友達なんぞ作らなかったし、憧れなんかも全くなかったからな。これだって友達じゃなくただの同志だ。厳密には仲間とも違う。
杉田に送ったはいいが、どうにも既読が付かない。綿貫とのやり取りですぐに返信が返ってきていたので感覚がマヒしているが、確かにメッセージアプリなんてそんな常時見ているようなものではないのか。
このまま待っているのも時間の無駄だ。仮に杉田が見なかったとしても、明日の昼休みに詰めの打ち合わせをせねばなるまいな。
※ ※ ※
昼休み、また自殺部のメンバーで会合を開いている。なんだかここ数日はほぼ毎日集まっている気がする。
「――という作戦だが、分からない点はあるか?」
ナガヌマが一通り説明し終えて質問があるか訊ねる。
「いや、分からないところはないんだけど……本当に綿貫さんはそれでいいのかな?」
予想通り、ススムが渋り始める。お人よしだねえ。ついでにツキコもススムに同意するみたいに首を小さく振った。仲がよろしゅうございますね。
確かに、「浮気して何人もの男とヤって妊娠したヤリマンです」って言いふらすようなものだし、女としては嘘でもかなり重いものではある。でも本人が死にたくないってなら先生から逃れることの方が先決でしょ。
「命の危機を考えたらそんなことも言ってられないだろう」
ナガヌマもほぼあたしと同意見ぽい。まあ、自殺しようとしてるあたしらが「命の危機」とか言ってんのは馬鹿らしいけどね。
ススムもそれは分かってるんだろうけど、どうにもふんぎりがつかないって感じ?こいつが彼氏だったら「うじうじすんな」って平手打ちしてるところだわ。
「実行は今日の放課後。心の準備はできてるか?」
「……やるとなったらしっかりやるよ。放課後までには気持ち固めとく」
「で?あたしとツキコはどうしたらいい?家でテレビでも見てる?」
さてさて、今回の件、あたしら女組は何もやることがないんだよね。変に着いていって関係を聞かれたりしたら、特に今回の作戦だと困るし、家でテレビでも見てる方がよっぽど安全。
「それなんだが……お前に一つ頼めるか?」
「え、あたし?何なりと言ってよ、彼氏様」
ナガヌマも少しはあたしのこと彼女として認識してきたのかなあ?
「作戦のあと、テレビ、ラジオ、なんでもいいがそのニュースを目にしたら、すぐに僕の指示した会社にタレコミの電話かけてくれるか」
「タレコミ?」
「綿貫が浮気してるらしいっていうタレコミだ。第三者からの情報があった方が辛評性が上がるだろ。もちろんタレコミだから家から離れた電話ボックスからな」
ええ、めんどくさ。いや、別にやってもいいけどさあ、やってもいいけど、まず電話ボックスのある場所なんて知らないし、それにあったとしてそこまで行くのダルすぎでしょ。しかも下手なこと口走れば嘘だってバレる可能性もあるし。今回の件で一番損な役回りじゃね?
「彼氏様のお願いなんじゃー仕方ねー」
「ああ。頼むぞ」
せっかく「彼氏」の部分強調してんのにしかとすんなよ。この件終わったらまたストーカーするかんね。
「おや?君たち、こんなところで何やってるのかな?」
唐突に聞こえたその声に全員が凍りついた。――先生だ。
「お昼も食べないでこんなところでお喋りなんて、仲がいいね」
教室で見せるような温厚な態度を示しながら階段を上がってくる。でも、どう考えてもその言葉選びには探りを入れる意図が丸見えだった。
「いえ、全員煩いのが苦手なので」
ナガヌマが咄嗟に言い訳する。ちなみに自殺部は非公認(当たり前か)のため、主つ以外ではそのことについて話すことは明らかにタブーだ。ナガヌマもそれを分かっていて、慎重に答えている。
「なるほどね。でも、たまにはクラスのみんなと仲良くした方がいいよ」
先生自身も部室以外では他人行儀でいなければならないので、それだけ言って去っていった。――今回の作戦、下手をすれば私たちの自殺計画さえも大きく狂うかもしれない。
「……今回の作戦、絶対に成功させるぞ」
ナガヌマは決意にも近い言葉を、私たちに聞こえる最小限の声で、力強く囁いた。
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