石井先生

「後は世界に名を残す……だっけ?自殺だけでそんなことできっかなあ」

 頬杖つきながら本音を口にしてみた。正直、他の要望は頑張れば叶えられそうな気がするけど、ナガヌマのこれに関してはちょっとまじで浮かばない。

「諦めたらそこで試合終了だよ」

 ススムの言う通りなのは分かるんだけど……でもやっぱ浮かぶ気がしねぇな。

「ていうかそもそもあんた、どういう風に有名になりたいわけ。アスカみたいにテレビで売れればいいのか、それとも本当に悪目立ちでもなんでもいいから目立ちたいのか」

「僕はこの頭脳を残したいんだ。そういう意味では僕というより僕の頭脳が有名になってもらえると助かる」

 なんだそりゃ。ナルシストにも程があるでしょ。

「それなら何も自殺に絡ませなくても、その頭脳を有名にすることはできんじゃん?」

「科学者でもなんでもないただの普通科高校の男子高校生が研究者の理論を批判しただけで世界的に有名になれるとでも?」

 まあ、戯れ言で片付けられて終わりだろうな……ほら、やっぱ難しい。

「かと言ってさあ、自殺の時に『この理論はどうたらこうたら』って言って説明すんのもなんかダサくない?」

「それで頭脳が認められるならそれでもいいさ」

 認められるなら手段は選ばないとかどんだけ認められたいんだし。

「じゃあ例えばアスカに『こんな天才がいるんでぇす☆』みたいに宣伝してもらえばいいんじゃないの?そうすれば少なくとも日本全国くらいには知名度上がるよ」

「……」

 流石に天才(笑)さんも長考を始めた。まあそりゃそうでしょ、そもそも自分一人で解決できるなら部活で考える必要もないんだから。自分でいい答えが出せないからここにこの問題を持ってきたんでしょ。

「まあ、初日はこんなものかな。みんな、思った以上にいいミーティングになってたよ」

 膠着状態になっていたのを見かねて、今まで黙って入口の辺りに立ってた先生が口を出した。そう言えば先生の存在忘れてたわ。

「まあ、そんなに焦らなくても時間はいくらでもあるからね。ゆっくりいい方法を考えていけばいい。それじゃ僕はそろそろ先生の仕事があるから――」

「ちょっと待ってください」

 先生が今朝からずっと変わらない微笑で部室を後にしようとすると、ナガヌマが引き留めた。ミーティングが終わりかけてるのに今更なんなの?

「先生、一つだけ聞かせてください」

「今更もったいぶってどうしたの」

 先生の言うとおりだよ。言いたいことあるならさっさと言えばいいじゃん。色々あって忘れてたけど、あたし買い物行かなきゃならないんだし。

「先生……あなたは何者ですか」


※ ※ ※


「先生……あなたは何者ですか」

 永沼がそう言った途端、部屋の空気が一変した。ミーティングで和やかな空気になってたのが、一瞬で生唾を飲む音が聞こえるほど静かになった。

「何者ですか……ね」

 先生は顎に手を当てて考えているフリをした。本当に考えているわけじゃない。その笑みには何か企んでいるのが見える。

「じゃあ君たちにだけ特別に教えようかな、僕の秘密」

「秘密?」

 杉田が反芻した。つまり、やはりこの先生はただの高校教師ではないということだ。しかし、では一体なんだというのか。

「――皆さんは六年前に起こったある事件を覚えていますか」

「事件?」

「そう。××県で起こった連続女子生徒殺人事件。結果的に中学生と高校生合わせて9人が殺された大事件だ」

 なんでその話が出てくるのだろう。これは先生の身の上話ではなかったのか。不意に私の背筋に寒いものが走る。永沼も気付いたのかうなだれている。

「そしてその犯人は未だに捕まっていない――それが事件の顛末」

「それが先生とどんな関係があんの?」

 福原はまだ察していないようでそんな質問をする。いや、察していてもその事実を認めたくはない。

「僕がその『犯人』だ」

 ――やはりそうだった。直接言われてようやく分かったらしい3人が目を見開いて先生を見つめた。

「でも君たちには関係ない話だろう?君たちは死ぬためにここに集まっているはずだ。殺人犯がいようが気にする必要はない。それに、僕は今の時点で君たちを殺そうとは思ってない。安心して普通の学校生活を送ればいい」

 先生は変わらない笑顔でそう言った。目はギラギラと光り、目尻が下がっているがその奥には魔物が暴れている。メンバーはそれぞれ畏怖と見れる表情をしたが、私は逆に感情を高ぶらせていた。――やっぱりこの人は神だ。

「『今のところは』ですか」

「あ、そうそう部活の決まり事でもう一つ大事なことを忘れていたよ」

 永沼の睨むような視線を受け、先生は更に付け加える。

「この部活から抜けることは許されない。もし抜けようとしたならば――その時には僕に殺されても文句は言えないよ」

 先生は眩ゆいばかりの笑顔でそう言い残すと、ドアを開けて行ってしまった。それから、多分一分くらい、誰も何も喋らなかった。痺れを切らして、私が沈黙を破ることにした。

「ね、ねぇ!そろそろ帰ろうよぉ!ほら、もうミーティングも終わったんだしぃ」

「ん……ああ、そうだな」

 静寂に不釣り合いなテンションの私に、杉田は苦笑いながらも合わせてくれようとしている。他のみんなも、硬直してたのが若干動き出した。

「確かにいつまでもここでぼーっと仕方ないからねー」

 福原も顔はまだ多少ひきつっているが、ほぼ通常運転になったらしい。永沼に関しては何も喋りはしないが、持っていた本を鞄の中に仕舞っているので、多分帰ろうとはしてるんだろう。

「じゃ、じゃあとりあえず部室出ようぜ」

 杉田の提案でみんな立ち上がり、自分の荷物を持って廊下へ出た。

「あれ?もうこんなに真っ暗なの?」

 杉田が窓の外を見てそう呟く。かく言う私も驚いていた。部室にきたのはHR終わってすぐ。30分40分話してたとしてもまだ二時を回らない程度のはずだ。

「何言ってるんだ。暗くもなるだろう、あれだけ曇っていれば」

「曇ってた?めちゃめちゃ綺麗な夕焼けだったじゃん」

 それぞれがてんでバラバラなことを言っている。そしていずれも私の時間感覚とは当てはまらない。

「おかしいな……あんなに青空だったのに」

「そんなことはどうでもいい。僕は先に帰るぞ」

 永沼を皮切りに、私たち5人はバラバラと暗い道を帰り始めた。校門を出る時に校舎の外壁の時計を見ると、短針は「6」を指していた。

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