五人寄れば文殊の知恵

「次の話題に移ろうか」

 進くんがリードして話が進んでいく。私もお話の輪の中に入りたいんだけど、やっぱり聞こえなかったらどうしようって考えちゃってなかなか口を挟めないの。

「じゃあ逆に月子ちゃんのやつ考えてみる?誰にも迷惑かけずに死ぬってやつ」

 麻紀ちゃんがそうやって私の話を持ち出した。なんだか、みんなが自分のこと話してるのって恥ずかしいな。

「迷惑かけずに……かあ。そもそも死ぬ時点で家族には迷惑かけてるしなあ」

 進くんの言う通り。確かに、お父さんが怖いから逃げたいっていうのが死にたい理由だけど、でもお父さんが嫌いなわけじゃないし、お父さんに迷惑をかけたいわけじゃない。でも、その方法が分からない。

 ……とかって考えても、口に出せるわけじゃないから、必死で首を縦に振った。そしたらなんでか分かんないけど麻紀ちゃんに笑われちゃった。

「あはは……まあそうなんだよね~。赤の他人に迷惑かけないってならどうとでもやりようはあるんだけど家族もってなると……」

 そう麻紀ちゃんが言ったあと、みんなちょっと考え込んじゃった。なんかこうしてると申し訳なくなってきちゃうな……。

「はいはぁい!明日香意見言いたい!」

 突然、入ってきてからずっと静かにしてた明日香ちゃんが手を上げながらそうやって声を上げた。皆の視線が一斉に明日香ちゃんの方に向く。

「あのあのぅ、自殺じゃなくて事故ってことにしちゃえばいいんじゃないかな!?さっきぬまっちの言ってたトリックとか使って☆そうすればぁ、パパとママもちょっと落ち込むかもしれないけどぉ、迷惑はかからないんじゃなぁい!?」

 明日香ちゃんは相変わらずのかわいい声で意見してくれた。さっき怒鳴った時はビックリしたけど、やっぱりこうして見るとかわいいな。さすがアイドル。

「ちょっとまて、『ぬまっち』ってまさか僕のことか?」

「まぁまぁ!そんなことはいいじゃん☆いいじゃん☆」

「よくない」

 うーん、やっぱり明日香ちゃんは気難しそうな永沼くんとは性格が合わなそうだな……。

「とにかく!あんたは明日香の意見どう思うのよ」

 二人の(どうでもいい)会話が延々と続きそうだったから、麻紀ちゃんが間に入って、永沼くんに訊ねなおす。麻紀ちゃんになだめられて、永沼くんも不服そうだったけどとりあえずクールダウンしたみたい。

「……まあ、一理あるだろう。完全な解決策かはさて置き、その方法が家族に対してかける迷惑の量が少ないのは確かだ」

 永沼くんはメガネを直しながらそう言った。でも、本当に頭がいい人って嫌いな人の意見でも納得したら受け入れるんだね。

「フッフッフー!さっすが明日香!天才過ぎて自分がこわいにゃあ☆」

「そしたら選択肢の一つとしといていいかもね」

 進くんは明日香ちゃんの高テンションを華麗にスルーして、話をまとめた。

「ねえねえ、それ、決まったこと書いといた方がよくない?いや、忘れることはないだろうけど、いろいろ話してたら覚えきれないっしょ?」

「確かに」

 麻紀ちゃんは時々気の利いたことを言うなあ。その、見た目はちょっと派手派手だけど、中身はすっごい真面目でいい子なんだな。

 麻紀ちゃんの提案で、進くんはノートを一冊出して「殺人に見せかける、事故に見せかける」ってメモをした。なんていうか、進くんの字は男の子っぽいっていうか……綺麗な字とは言えないかも。

「じゃあ、次は『大勢の前で死ぬ』ってのを話すか」

 永沼くんの一言で、また話題が次のものに移動した。なんかこういうのもたまにはいいかな。私、何も喋らないけど。


※ ※ ※


「じゃあ、次は『大勢の前で死ぬ』ってのを話すか」

 珍しく、僕は身を乗り出して他人との話し合いに参加していた。今まで考えもしなかったことを考えるからであろう。

「あれ?永沼の理想って『世に存在を知らしめる』じゃなかったっけ?」

「誰が僕の話をしようと言った。こいつの話に決まってるだろ」

 そう言いつつ、僕は綿貫の方を流し目で見た。綿貫は目が合った途端にピースをして左目にあて、舌を出してウインクをした。俗に言うてへぺろとかいうやつなのだろう。実に馬鹿らしい。先程気楽という言葉に反応していたが、これを気楽と呼ばすしてなんというのか。

「確かにこいつも『世に存在を知らしめる』と言ったが、ニュアンス的に『目立って死にたい』というのが本旨だろ。違うか」

「うぅ~ん……多分そぅだと思う!きっとそう☆」

 ……相変わらずやりにくい。そうならそうだとはっきり言えばいいものを。

「だとすれば答えは簡単だ。テレビで公開自殺すればいい。全国の人達に死ぬ瞬間を見て貰えることになるぞ」

「あー、まあ確かにそうかも」

 福原と杉田が賛同の声を上げる。津田は相変わらず黙ったままで、綿貫は「あったりまえじゃんそんなの!」と返す。

「そんなの分かってるよぉ!だーかーらー!どうやってテレビで自殺するのが一番かって話ぃ!」

 まったくもってやりにくい。普段は温厚篤実な僕も少しばかり殴りたい衝動に駆られる。もちろん、どこかの犯罪を犯す馬鹿とは違って実際に手を出しはしないが。

「……恐らくテレビ局の中に特別なものを持ち込むのは難しいだろう。私服じゃないなら特に。そしたらできるだけそこにあるもので死ななければならない」

 またも福原と杉田だけが賛同の声を上げる。なんなんだこの会議、まともに話を聞くヤツが二人しかいないではないか。まあ、先程まで話を聞き流していた僕が言えたことでもないのだが。

「でもでもぉ、お料理番組とかあるから包丁とかナイフもあると思うよ!」

「あってもスタジオに行くまでに気付かれるだろ。スタジオに持ち込むにしても違和感のないものにしないと」

「なぁるほどぉ☆」

 今度は綿貫の賛同も得られたようだ。いや、別に僕は綿貫の賛同がほしかったわけではなく誰かしらの賛同があればよかった……いや、別に賛同自体ほしかったわけではない。僕は意見を述べてるまで、反応しようとしまいと他人の勝手なのだ。

「でも違和感のないものってなんだろーね。首吊りの縄とか持ってても怪しいし、そもそも縄かけられるとこあんのかな、スタジオに」

「うぅ~ん、照明の所にならかけられると思うよ☆」

「でもそれどうやってかけるの。照明ってめっちゃ高いっしょ」

 福原が意見を出すが、結局話はそこまでで詰まってしまった。

「……例えばだが、照明のコードあるだろ。それをうまく使えないか」

 正直スタジオの様子がどうなっているのか知らないので詳しいことは言えないが、下手に持ち込むよりかはその場にあるものを利用した方がいいのは確かだ。

「使えないことはないかもだけどぉ、でもそれじゃカメラに映らないよぉ?」

「だったら何かしら細工をして放送中にカメラのところに垂れ下がってくるようにすればいい。ついでに絡まっていれば首もかけやすいだろ」

「でも細工って何をするの?」

 僕の意見に対して杉田が質問を投げてきた。その質問はもっともなのだが、それはやはり現場を見てみないことには詳しく計画できない。

「ってことはこの話題もこの場で話せるのはここまでかあ」

 杉田がここで綿貫に関しての話題を打ち切った。あと残っている議題は、僕だけだ。

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