7話 隠し神(前編)



ん?ここは見覚えがある風景だぞ。



そうか!ここは俺の生まれ故郷。京都だ!

そうそう、この公園で猫を吊るし上げて遊んでたキッズ達から、猫を助けてやったっけ。



「ニャア〜」



お!あの時吊るされていた猫じゃないか!

元気にしてたか?



「ニャア〜ゴロゴロゴロ」



そうか、それは良かった。

そうだ、早くみんなにも合わないと!

まずは連絡を取るためにスマホで……あれ?なんで圏外なんだ?



「はぁ…当たり前だろ、だってこれはお前の夢なんだから」



マジか…猫が喋った…てことは……




*************




目を覚ますとそこは、牛若丸というより一応俺の部屋だった。

やはり夢だよな…そう簡単には帰れないし、そもそも本当に帰れるのか?


まあ、とりあえず起きるか……いや、さっきから身体がやけに重い…。


俺は自分の布団の中を確認すると、そこには半裸?の女性が寝ていた。



えーっと……どういう状況?

しかもこの顔、どこかで見たことあるような…。



俺が1人悩んでいると、女性は軽く目をこすりながら俺を見るなり、おはよう、義経。と挨拶をした。



「……えっと、もしかして弥生か?」



俺がそう言うと弥生は、コクリと頷き。そのまま起き上がった。



……って待て?!半裸かと思いきや全裸とは何事だよおおお!!

服を着ろ!服を!!



俺は弥生の身体を見ないように、弥生に服を着るよう、指示をしたが弥生の返事は、着物を着るのは苦手だわ。と返された。



確かに着物を着るのはめんどくさいが、だからって裸でいい訳ないだろうが……。



「あぁ…わかった。せめて羽織くらいは着て、頼むから」



「わかったわ」



弥生はそう言い立ち上がろとしたところで、タイミング悪く。襖の向こうから、若様、失礼します。と言う声が聞こえると、襖がスーッと開かれた。



「…お取り込み中、失礼致しました。また後で出直してまいります」



この光景を見て、微動だにしない兼房は、ある意味すごいよ。



「いや、待て兼房!てか弥生は、ささっと服を着ろ!!そして兼房は用件は何?」



俺はそう言いながら布団を片付けると、兼房は、いえ、大した用ではありませんが。と言うと話を続けた。



「そろそろ若様の専用の武器を作りに行ったほうが良いかと思いまして」



「俺専用の武器か。悪くはありませんが、今使っている太刀じゃダメなの?」



「今、若様が使っておられる太刀ですと、魔物相手だとなんとかなりますが、それ以上の者の相手ですと、いずれかは壊れてしまわれます。なので大阪にある鍛冶屋専門店へ行くことを、お勧めします」



なるほどね。

確かにいいかもしれんが、暇がある日にでも行ってみようかな。



「わかりました。暇な時にでも行ってみようと思います。それじゃ俺は学校にでも行く準備をします」



俺がそう言うと、兼房は、はい。いい武器が見つかるといいですね。と言うと、でわ、失礼しました。と言い残し、俺の部屋から出て行った。



さてと……


「弥生、いつまでここにいる気だ?俺はそろそろ学校に行かないといけないし、弥生も早く自分のところへ帰ったらどうだ?」



「そうね。弥生も義経と一緒に学校へ付いて行くわ」



……は?なんでそうなるんだよ。

まあ、別にいいけど。




*************




子供の姿に戻った弥生と、寺子屋に向かう途中。

なにやら町がいつもと違って、やけに騒がしい。



「いやああああああああああああッ!!!そこを退きなさい!!私の私のおおおおおおおッ!!!あああああああああああッ!!!」



何やら向こうの方で、人集りが出来ていて、女性の嗚咽混じりな叫び声が京の町に響き渡る。



「一体何事なんだ?」


「わからないわ。義経、行ってみる?」



弥生にそう言われ、どう返すか少し悩んだ。

正直、凄く気になるが、野次馬になって被害者の方に嫌な思いをさせるのもアレだけど……



「よし、少し様子でも見てるか」



俺がそう言うと、弥生はコクリと頷き、俺の後をついてきた。


俺たちは野次馬を掻き分けながら、前の方へ進んでみると、そこにはむごい殺され方をされた子供が、吊るされていた。



「マジかよ……悪趣味ってレベルじゃねえぞ。マジで笑えん」



俺が独り言を呟いていると、隣で弥生が、アレ、見て。と指差した方向を見てみると、壁一面に血で文字が書かれていた。



"時ハ満チタ 神ナル子ヲ 殲滅スル。隠シ神ノ名ノモトニ。"



まるで自分に向けられたメッセージのようだな。

まさか、あの時のことを根に持っているのか?

上等じゃねぇか。殺れるものなら殺ってみろ……って強い主人公なら言いそうな台詞だけど…俺、別に強くないし、もう痛いのとか勘弁なんだけど…マジでヤベェ奴に目つけられたな…どうしよう。



俺が一人、意気消沈していると、遠くの方から大きな声で叫ぶ、男の声が聞こえてきた。



「新撰組だッ!!道を開けろッ!!」



新撰組…ああ、いたね。そんなの。

でも今の俺は、それどころじゃないんだ……。



「相変わらず、煩いな。新撰組の犬というのは」



また、何処からともなく。白い軍服を着た、女性の集団が現れた。

これが、噂で耳にする。白ノ帝国陸軍、通称、殺戮のホワイトキャットか。

初めて見たが、美人で巨乳でケツがエロい…ヤバイ、一瞬オッサンに戻ってしまった。



スラッとしたモデル体型の白人が、前に出ると、近くにいた目つきの悪い男に、「ここからは、アタシたちの仕事だ。無能な犬はささっとお家にでも帰りな」と、女性が言うと、周りいた女性たちもクスクスと笑い始めた。



美人の割には攻勢的だな。



「言わせておけば、随分と偉そうな口ぶりだな。クソ猫集団が」



眉間に皺を寄せながら、女性を睨みつける男性も反論してきた。

まあ、女に馬鹿にされては漢の名が廃るから、この人の行動は間違ってはないな。



「なんて品の無い言葉なんだ。アタシらがクソなら、貴様らは、虚仮集団がお似合いだな」



フッと笑う女性に対し、男は舌打ちしながら、愚弄するのもいい加減にしろよ。と言ったところで、横から明るい声で、はーい!そこまでー!と言う青年というか、前に家まで送ってくれた沖田総司が現れた。



「土方さん、もう少しは女性を優しく扱ってあげなきゃモテないよ」


「は?総司、お前バカか?このクソアマに女という字があるわけねぇだろうが!」



呆れた様子で返す男に、反論するかのように、別の女性が現れた。



「貴様!アネット大将になんていう口の利き方をする!それに、この事件に関しては、我々が調査を進めるはずだが…どうやら服装から見る限り非番のようだな。それでここに居合わせたということか」



女性がそう言い終わると、目つきの悪い男は溜息交じりで、あぁ、そんなところだ。と返事をした。



女性は「やはりか。だが、口の利き方には気をつけるんだな」と言うと、そのまま仕事へと取り掛かった。



女性が去った後、苛立ちを隠せない男は舌打ちするなり、おい、総司。もう行くぞ。と言いながら、その場を去って行く。



その後ろで沖田は苦笑いをすると「カリカリしてるなー。それじゃあホワイトキャットの皆さん。お仕事頑張ってください。それでは僕たちは失礼するよ」



と言いながら女性たちに手を振って、その場を去って行く。

女性たちも、沖田に対しては嬉しそうに手を振り返すあたり、やっぱり、ああいう男はモテるんだなーっと感心した。



「あ、そうだ!こんな所で油を売ってる場合じゃない!急ぐぞ、弥生!」



内心、この後どうなったかは気になるが、学校を休むわけにもいかないし……何より隠し神の存在が怖いんだよな。

まあ、何とかなるだろう。たぶん…。




************




その後、白ノ帝国陸軍の中で一番偉いアネットは、吊るし上げられた子供を地面にお下ろすと、そっと目を閉じさせ、身体を布で覆い被せると、子供に一礼し、そして遺族にも一礼し終えると、近くにいた兵隊に、遺族を別の場所へと誘導させた。



「フフフッ。なんだか不吉なメッセージね。私も隠し神の人と一線ヤリ合いたいわね」



フワッとした物腰で笑う女性は、ゆるふわに巻かれたミディアムショートヘアーを耳にかけながら、うっとりと壁に書かれた字を見つめる。



有坂ありさか少将。相手をあまり見くびらない方がよい。奴はやり手だ。いくら有坂少将が強くても、一瞬の油断が命取りになるだけだ」



有坂と呼ばれた女性は、更にうっとりし始めると「だからいいんじゃない。自分の身体が傷つけられれば、傷つけられるほど、燃えるでしょ?

それに、相手の身体を嬲りたくなるのも快感のうちよ」と柔らかく笑いながら言う有坂に対し、アネットは小さく溜息をついた。



あらかた現場の調査が終わると、大きく手を振りながら、1人の少女がアネットの方へ近づいてくる。



「アネット大将ー!只今、帰還に戻りました!みーんなのアイドル、いろりんだよッ!」



決めポーズでウインクしながら言う少女に、その後を追うように背後から、怒った様子で、また少女が現れた。



あまね大佐ッ!帰ってくるなり何ですか、その態度はッ!そ、それにスカートの丈は膝下と決まってます!」



周と呼ばれた少女は、頬を膨らませるなり、少女に反論し返した。



星宮ほしみやちゃん。スカートの丈関係なくなーい?それに女は脚を見せてナンボだよ!それに、星宮ちゃんくらいだよ。そんなに長くしてるの。だからほら、星宮ちゃんもスカートの丈短くしよッ!」



「ちょッ!やめてください!私は膝下でも短いと思っているのに、貴女の場合はしゃがんだ時に…み、見えるからよくないですッ!破廉恥ですッ!」



そんな2人の戯言を聞きながら、アネットは溜息をしつつ、隣に立つ有坂に、後は頼んだ。と言うと、その場を離れていった。

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