第5話

 この辺りで改めて一座のメンバーを紹介しておこう。誰に向かって言ってるのかって?それは言っちゃいけないぞ。


「皆さま、初めまして。我ら旅の音楽家、マクレイン一座に御座います!ほんの些細なひと時ではありますが、座員一同真心込めて演奏致します。どうか、ごゆっくりと聴いていかれますようお願い申し上げます!」


 俺の視線の先で口上を述べているナイスミドルな初老の男性、彼がこの『マクレイン一座』のリーダーを務めるマクレインその人である。やや白髪交じりだが、その表情や体格は若々しさを残している。素性の分からない俺を世話すると決めた張本人。その決断にはどんな意図があるのか、そんな風に考えてしまったりするのが恥ずかしいくらい人間が出来たお人だ。

 明日からの旅の準備を終えた俺たちは、昨日色々あった広場へと再び繰り出し興行を開始した。ひとり、ふたりと足を止めると、人々の興味はあっという間に伝染していき、数分後には何十人もの住人が集まっていた。

 口上を終えるとそのまま、マクレインは両手に抱えたアコーディオンを奏で始めた。思わず焚火の前で手を繋いで踊りたくなってしまうような、民族調の愉快な旋律が周囲を包んでいく。まいむまいむ。


 最初の曲が終わりを迎えたその瞬間、その柔らかい空気を割くように太鼓の音が激しく響鳴り響いた。途中「ふぅ~っ!」などと叫びながら強面の男が場の空気を一瞬にして変えていく。クンバンチェーロ!とか言い出しそうだ。

 彼――ローディが扱うのはコンガとかボンゴと呼ばれる太鼓の一種だ。多分。先程とは打って変わって激しいリズムと共に曲が展開していき、客のボルテージもうなぎ上りだ。何かを叩いてリズムを刻むというのは、恐らく人類が最初に奏でた音楽だろう。聴いているとまるで本能を呼び起こすかのように心が躍ってしまう。


 そんな激しいリズムに合わせて、今度は栗色の髪を持つ二人の女性が情熱的なメロディを重ねていく。

 ロングヘア―の妙齢の女性が奏でるのはフルート。女の魅力たっぷりな体躯のこの女性の名はシルヴェーヌ。彼女が持つ色気が音にもしっかり表れており、男性の見物客の多くは頬を赤くして彼女を凝視している。

 そしてその旋律を絶妙なハーモニーで支えるのが、ヴァイオリン担当、そしてシルヴェーヌの妹であるクリスティーネだ。姉とは対照的な短い髪がその可憐さを引き立てて、彼女の魅力をより一層濃くしている。一部のお兄さんやおじさんたちに大人気である。


 そうして大盛況の中曲が終わると、今度は杏色の髪の少女――アンジュがひとり前に出た。観客たちはまずその少女の美しさに溜息を吐き、打って変わって静謐な場の雰囲気に今度は息をのむ。

 そして彼女がすっと息を吸い込むと、その美しい歌声が一気に辺りを包み込んだ。綺麗な声なのはもちろん、心にすっと入ってくるような癖のない、それでいて温かさを感じる歌声だ。まるで彼女の人柄をそのまま表したようなその声は、あっという間に観客の心を掴んだようで、歌い終えるとこれまでで一番大きな歓声が上がった。


 少し照れながらお辞儀をすると、最後は他の座員も全員参加(もちろん俺は後ろで見学している)で最高潮の盛り上がりを見せ、この街での興行は大成功のうちに幕を降ろしたのだった。

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