第21話 来たる欧州危機の中のでのフランス
久しく書かないでいると何について書こうかと迷う部分もあり、どんな内容を書こうかと多少悩んだ節が今回ある。しかしながら結局私は単純な人間なようで派手なものが好きらしい。ここ数週間で私の目に入り印象に残ったのは自分の国の首都である花の都を彼ららしい主張で壊そうと動く若きフランス人の姿であった。日本人のDNAと言ってもいい武士道精神なんて現代の日本人なんて欠片もわからないだろうし意識もしないだろうが、私は暴徒と化す若きフランス人の姿を見て彼らのDNAともいえる革命精神は今なおあるのだろうと感心した。今回の一連の暴動は革命というにはあまりにも小さいが私がここで言いたいのはフランス人は政府に対してNoと行動で表現する、よく言えばたくましく、悪く言うと原始的といえるだろうか。
まぁどちらにせよ自分たちの政治体制のルーツに対してそれなりの理解があるという点は一部の日本人よりはマシな点だろう。現在のフランス大統領であるマクロン大統領は「革命」という著書を発表し自分のやりたいこと・自分の歴史・自分の思想を広く世界に知らしていてそのやる気には我が国の政治家を含めて見習う余地があるだろう。しかしながら彼の最近の行動を見ていると一応の世界の方向性である「保護主義と戦う」という道へ進んでいるとは言えないのではないかと疑問を持つところがいくつかある。さらに言えばここ最近の欧州情勢は急速にその姿を変えていこうとしている。
ドイツで長く政権にいたメルケル首相の引退宣言
イギリスのEU離脱
イタリアのEU懐疑政権誕生
スペインの政権交代
ウクライナとロシアの対立
欧州に広がった右派(反移民受け入れ派)の成長など
他にもいくつもあげられるだろうがこれだけ欧州の情勢が急に変わりEUでリーダーシップを発揮してきたドイツのメルケル首相が引退するとなると、欧州の中でEUを引っ張っていく新たなリーダーが必要になるだろう。この重要なポストを若きフランスの大統領は狙っているのだろう。その姿にはかつてのシャルル・ド・ゴール大統領がうっすら重なるのは私だけだろうか。強いフランスを目指しフランス国内と世界と戦った救国の英雄シャルル・ド・ゴール。個人主義的傾向が強く自己の主張を暴力的に表現する一部のフランス人こそ、シャルル・ド・ゴールという男の最大の障害であっただろうと私は見ている。彼は海外勢力の依存からの脱却を掲げNATOと対立したこともあった。内政改革や軍事増強。他国の外圧を恐れず行動しフランスが脆弱になることを恐れた。計画経済に反対というわけでもないところに彼の特異性を見ることができる。強権的だと批判はあるだろうが全てのフランス人のためを思い「独自路線」を貫き自分の政治を行った。彼はまさしくフランスの英雄とされるのにふさわしい人間だろう。私はこのシャルル・ド・ゴール的な性格をマクロン大統領は出してきていると考えるのだ。保護主義と戦うという名目でアメリカのトランプ大統領を批判し、欧州軍の創設を高らかに謳い欧州の独自性を主張し始めた。フランスの利益という点で考えれば今お茶の間で大人気のカルロス・ゴーンの問題に連なるルノー・三菱・日産の関係に対してのフランス政府としての発言に見えてくる。仮にも元社会党所属でオランド大統領時代に経済分野を担当していたのもあり、ここぞとばかりにルノーとの連携を、持ち株を盾に主張しているように私には見える。ここにマクロン大統領の二つ目の特徴が出てくる。シャルル・ド・ゴールはどちらかというと右派の人間というイメージが強いだろう。しかしマクロン大統領は右派的性格を持つ外交だけでは有権者との約束が守れないだけでなく自分の政治ができないのだ。先ほどにも書いたがマクロン大統領は元社会党所属でオランド社会党政権時に経済担当大臣だったのだ。すなわち彼の思想はシャルル・ド・ゴールを苦しめた左派的な要素を持っているのだ。ではこの相反する思想をなぜ彼は政治的行動の中に含ませているのか。それは彼の大統領選挙中での発言と行動に見ることができる。左派右派のあらゆる良き意思を結集して左派でも右派でもない政治を目指すという方針。彼が現在所属する政党「前進」も右派でも左派でもない政党ということを主張し、久しく聞く進歩主義の政党だと彼は言っているらしい。まさにこういうことなのだ。外交上「強いフランス」を目指したシャルル・ド・ゴール。内政上「大きな政府」を目指した歴代社会党政権(ミッテランやオランド)。マクロン大統領はこれらの歴代政権のいいとこどりをしながら自分に取り込み独自の政治姿勢を作っていこうとしているのではないか。政権誕生時から防衛費の削減や増税などに起因する内政への反発(デモや暴動)というのもあるだろうが、それらの反発は彼もまたわかっていて意図的にやっているに決まっているだろう。彼はフランス人にはわかりにくいかもしれないであろう形であるが現状のフランス内政を革新し再び強いフランス、欧州内での新しいフランスの立場を目指して行動しているのだろう。私はマクロン大統領の著書は読む気にならなかったが、この私の文章を読んだ後に彼の著書を読んでみるのもいいのではないだろうか。ある程度腐敗した時代を正すのは大体憎まれ役だ。国民に政治意識を生み出し考えさせるのは憎まれ役が政権の座にいるときだろう。私はこの若く柔軟性を表現しようと努力する一人の大統領に見切りをつけるのはまだ尚早だと考える。支持率はえらく酷いようだが決して諦めてはいけない。何事も貫き切った時の達成感は果てしない。自分を信じ「前進」することが彼らしさではないだろうか。私はそうでもないのだがきっとマクロン大統領は「Je t’aime France」と心から思ってるかもしれない。
さてここで終わると個人的に嫌なので書き足しておくが、欧州の政治的混乱が予測される中、欧州だからと言って日本にはまったく関係ないなんて思ってはいけない。日本政府はまさにこの欧州の政治的混乱をどう日本に有利な方向へ持っていくかという新しい課題が待っているわけだから入管法改正という日本人労働者の賃金を上げずにより安く雇える外国人労働者を連れてきて現在、富裕層の人間がより富裕層へとなる、この日本人の大多数に不利な状況を生み出すこの法案を審議している場合ではない。選ぶ政党がないというのもこの国の抱える危機的な問題の一つだろう。組織票が動かす政治体制が終わらないと「日本を愛してる」と宣言し実行できる政権の誕生は難しいのかもしれない。
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