コインロッカーの天使

大神 椿生

第1話

「黒田一人」


僕の名前は黒田一人(くろだ かずと)

この名前のせいで弄られハブられたりもしたが今では友人もいる。

いい友人に恵まれているのか、大人になり弄るのにも飽きたのかはわからないが。


話に戻るが、軽く自己紹介でもしようと思う。


平凡、僕を一言で表すならその一言に尽きる。

平凡と言っても他人から見れば平均より幸せなのかもしれないし不幸なのかもしれない。

それでも主観的に言えば平凡そのものである。


適当で気分屋、そのくせ周りに流され易く産まれてから24年が経っていた。


自分の代わりなんていくらでも見つかりそうなほど平凡な人生。

人生を振り返ると大した面白味もなく、

幸せを感じた事と言えば遊びで投げたバスケットボールがスリーポイントシュートが入ったくらいのものである。


特技や趣味も特になくズバ抜けた才能なんてものは都市伝説レベルの話なんじゃないかと疑うくらい何もない。


そのくせ不幸な体験談はゴロゴロ出てくる。

いくつか抜粋して書くならば、両親の交通事故死や、

約一年前に高校生の頃から交際していた彼女が音信不通になり自然消滅など。

結婚を考えなかった訳ではないがフリーターで収入が安定していない甲斐性なしと「今すぐ結婚します」なんて軽口を叩ける女性はそう居ないだろう。

両親の保険金は使わずに貯金している。

10年は働かずして生活出来るほどはあるが

長い目で見れば、やはり結婚には行き着かないだろう。

そもそも彼女が結婚を考えていたのかどうかはわからないが、先の見えない関係に終止符を打ちたかったのかもしれない。


僕の人生24年間、総合的に見て幸せのバランスが悪い。

そう思って生きていた、あの扉を開けるまでは。


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いつも通りアルバイトと就活に追われる日々、

リクルートスーツも着慣れてきた。

面接ではいつも

「特技を教えてください」

「青春時代打ち込んだものはなんですか?」

この質問達に詰まらされる。


僕は何をして、何を学んで、何を得たのだろう?

現実を突き付けられて初めて自分の無力さを知った。

いつも通り適当に気分で流れに身を任せて、辿り着いた先で頑張ればいい。

そう思っていた。

だが、現実はそんなに甘くない。

「悟ってなんかないよ!逃げてるだけじゃん!」

彼女と最後にした喧嘩のセリフが頭を過ぎった。

何であんなこと言われたんだっけ?

あの時何の話をしてたんだろう。


答えのない疑問は置いといて、とりあえずバイトの用意をしなくちゃ。

その後に飲み会が待っている。

今日は愚痴でもこぼしながら酔いたい気分だ。


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バイトが終わり、急いで飲み会に向かう。

「あ、もしもし?コインロッカーにバイトの制服だけ置いたらそのままそっち向かうわ。」

友人に連絡を入れる。

「久々に会うんだからここ最近の面白い話期待してるよ!」

逆立ちしても出ないであろう友人の無茶な要望は無視するとして、早く向かおう。


コインロッカーに荷物を詰め込み、駅のホームに向かう。

電車と同時にホームに着いた、今日はラッキーだ。

小さな幸せを噛み締めながら電車に乗りこんだ。


目的地に到着した僕は挨拶をそこそこにビールを一つ頼んだ。

別れた彼女の愚痴や就職活動が上手くいってないことを吐き出し、周りからの共感やアドバイスなどをアルコールで流し込んだ。


いつも酔っていてもちゃんと終電までには帰ることにしている。

今回もいつも通り早めに切り上げて最寄り駅のトイレに向かった。


人も少なく多目的トイレが空いていたため、ゆっくり用を足したかった僕はそこを使うことにした。

用を済ませて、トイレから出る時

チャリンッ


僅かに何かが足に当たる音がした。

酔っていた僕は、何かもわからぬままそれを拾った。


コインロッカーの鍵だ。

忘れていた、荷物を取りに行かないと。

危うく鍵を落としたまま取りに行くのを忘れるところだった。


就活やバイトで疲れていたのもあり、荷物を取り出しタクシーで帰ることにした。


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朝、頭に響く音で目が覚めた。

アラーム?それともインターホン?

まさか寝過ぎてバイト先から電話が来てるかもしれない。

二日酔いと寝ぼけているせいで頭が働かない。


眠い目を擦り周りを見渡す。


「…えっ?」


更に状況が掴めない。


音の正体は赤ん坊の泣き声だった。

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