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「この御方をどなたと心得る?
助三郎がずい、と前へ踏み込み叫ぶ。
「ええいっ!
静寂が、その場を支配していた。
全員、目を虚ろにし、じーっと光右衛門、助三郎、格乃進の三人を見詰めている。
一人のガクランを着た男が呟いた。
「あいつら、何を言っているんだ?」
格乃進が投射した三つ葉葵の紋所は、空中にハッキリとした形で浮かんでいる。投射された映像を見上げ、その場にいた全員は、首を捻っていた。
「あのお爺ちゃんが、何なの?」
茜がぼんやりと呟く。世之介は、まじまじと茜の顔を見つめた。茜の顔には、何の驚きも浮かんでいない。
世之介は悟った。
番長星の人間は、将軍家の威光というのを知らない! これが他の、幕府の支配を受ける殖民星なら、即座に三つ葉葵の紋所が意味する所を悟り、大いに恐れ入るのであろうが、番長星の人間にとっては、全く意味がないのだ。
イッパチと、木村省吾はすでに格乃進の叫んだ言葉を理解し、とっくに土下座をしてガタガタ震えているというのに、校庭にいる全員は、何の感動もなく、ぼんやりと三人を見ている。単に、賽博格の出した驚くべき大音声に、度肝を抜かれただけだった。
周りから、へへへへ……と、野卑な笑い声が洩れてくる。一人、また一人と肩を怒らせ、番長星の人間独特の、よたりながらの歩き方で近づいてくる。笑い声を上げているが、目はまるっきり、笑ってはいない。
「爺いっ! おめえさんが中納言だろうが、何だろうが、俺たちには関係ねえなあ……。笑っちまうぜ! 頭が高いだとよ!」
典型的な番長星の身なりの男──ごってりと
「あははははは……!」と、背を仰け反らせ、わざとらしい笑い声を高らかに上げる。
「やっちまえ!」
男の声に、その場にいた大量生産の〝伝説のガクラン〟〝伝説のセーラー服〟を身に着けた男女が、わっとばかりに飛び掛ってきた。
助三郎と格乃進は顔色を変えた。
世之介は、二人の賽博格が顔色を変えた訳に思い当たった。
〝伝説のガクラン〟は、着用者を賽博格戦士なみの戦闘力に引き上げる。即ち、助三郎と格乃進にとっては、同じ能力の賽博格戦士が無数に敵対する状況なのである。
世之介一人でもあれほど手こずったのに、今、校庭にいる全員が世之介と同じ戦闘力を持つと仮定したら、冗談ごとでは済まされない!
その時──。
「加勢するぞ!」
出し抜けに、頭上から声が降ってきて、世之介は校舎を見上げた。助三郎と格乃進も、背後の校舎を見上げる。二人の瞳に、希望の光が宿った!
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