3

【リーゼント山】!

 男の教えた岩山の名前として、これ以上に相応しいズバリとした名称は、考えられないかもしれない。

 ぐっと持ち上がった巨大な山塊は、砂岩でできている様子で、侵食で縦に深い溝が刻まれ、それが頭髪のように見えている。やや上部が平坦になっていて、ぐっと張り出した前半分と、ほぼ直角に立ち上がった後頭部は、まるでリーゼントの頭そのものである。

 これが自然に出来上がった地形か、或いは意図的に作られたものか、世之介には判断できなかった。オーストラリアの「エアーズ・ロック」と似たような形成原因があるのかもしれなかった。

「岩山の、どこに【ウラバン】は、いるんだ?」

 世之介の質問に、男は微かに冷笑を浮かべて、答えた。

「知らねえよ……」

 世之介は「きっ!」と男を睨みつけた。世之介が浮かべた表情に、男は再び真っ青になって、慌てて答える。

「本当だ! 【ウラバン】は【リーゼント山】にいるって話だ。でも、実際に会えるのは【ウラバン】が認めた〝バンチョウ〟か〝スケバン〟だけと決まってるんだ」

「それには、どうすればいい? 何が【ウラバン】に会ってもいいと認めさせることができる?」

 世之介の矢継ぎ早の質問に、男はたじたじとなった。唇が細かく震えている。あまり深い事情まで、知ってはいないのだろう。

 ゆっくりと首を振ると、じりじりと後じさりを始める。

「知らねえ……知らねえよっ!」

 甲高い声で叫ぶと、くるりと背を向け、転げるように駆け出す。世之介は追いかけようかと一瞬ちらっと思った。でも結局、そのまま見逃した。

 他にも、ここには沢山の人間がいる。もっと事情を知っている人間が、どこかにいるかもしれない。

 茜がふいごのような息を大きく、吐き出した。見ると、顔が興奮のために、真赤になっている。世之介の会話を、息を詰めて聞き耳を立てていたのだ。

「やっぱり、お兄ちゃんは【ツッパリ・ランド】に来ていたんだね……」

 呟くと、茜は世之介の顔を見詰め、ニッコリと微笑んだ。

「ありがと、世之介……。これでお兄ちゃんを探す当てができたわ!」

 世之介は何とはなしに、肩を竦めた。

 茜の呼びかけが「世之介さん」から「世之介」と呼び捨てになっている。

 それが何だか、くすぐったい。

 ぐううう~っ、と世之介の胃が、空腹で不平を訴えている。

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