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 地球では戦争の影が忍び寄っていた。

 大江戸幕府が事実上の盟主となった地球に対し、火星、小惑星帯、土星の衛星タイタンなどでは反感が高まっていた。独立の気運が高まっていたのである。

 恒星間宇宙船を送り出すことに重要な役割を果たした太陽軌道上のレーザー砲門は、それ自体で極めて強力な武器となる。各惑星連合軍は、太陽軌道レーザーを占拠し、地球に対し独立を認めるよう脅しを掛けた。

 地球もまた惑星連合に対し、支配権を確立するため世界中の国々に招集を掛けた。応じる国もあったが、反対に惑星連合に帰属しようとする動きもあった。もう、遠く離れた恒星間宇宙船のことなど、構っている暇はないのである。

 太陽軌道上のレーザー砲を、どちらが多く占拠するかの戦いであった。地球と惑星連合同士の宇宙戦争が勃発した。

 後に「宇宙の関が原」と呼ばれた戦いが繰り広げられ、月面植民地が最終的に惑星連合を裏切り、態勢は決着した。

 この後、地球で最初に「大江戸」に味方した国家は親藩とされ、惑星連合の植民地は外様藩という扱いを受けるようになる。

 戦いの最中、地球のある大学の研究室では、画期的な理論が発表された。

 四つの力「弱い力」「強い力」「弱い相互作用」「強い相互作用」を統一する理論である。すなわち「大統一場理論」だった。

 重力が人工的に作り出される理論は、それまで夢物語であったワープ航法を現実のものとしたのである。

 新たな理論で完成した超光速宇宙船は、それまで旅立った無数の無人殖民船の航跡を辿り、地球からの援助がないまま独自の発達を遂げた殖民星を再発見する。

「大江戸」幕府は早速、出先機関である奉行所、代官所を設置したが、地球での戦争の結果に鑑み、強制的な支配権は放棄することにした。殖民星は地球とあまりに違った発展を遂げ、「大江戸共栄圏」に組み込むにはそぐわなかったのである。殖民星は「大江戸」幕府にとっては、外国と同じ意味を持つ存在であった。慎重な交易が始まり「幕府支配による平和パクス・バクフ」が樹立されたのである。

 この物語の主人公、但馬世之介たじまよのすけは、そんな平和な時代に生を受けたのだが……。

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