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「持ち歩いていたのを落としたとか」
「それはあり得ないでしょう」
「わぁっ!」
ビクンッと肩が跳ねる。振り向くといつもの様に黒いオーラを纏っているミクリさんがいた。貴女は見た目からちょっとホラーなんだから、毎度毎度驚かさないでくれ。
「毎度毎度驚かないで下さいよ」
それは無理だろ。
とは言えないままミクリさんを見る。多分、どこかの店のおばちゃんに着せられたであろうフリースの割烹着と軍手が最高にミクリさんには似合わない。トングよりも何が入っているか分からない大鍋をかき混ぜる、柄の長いお玉とかのほうがしっくりくる。
「相変わらず失礼ですね」
え? まだ何も言ってませんけど? 普通に怖いんですけど? 心読まないで。
「それ」
「え?」
「多分、主婦が落としたんじゃないと思いますよ」
あ、すりこぎの話?
「明らかに新品でもないし」
「じゃぁやっぱりどこかのオフィスで使われたものがポイ捨てされたんでしょうかね」
掌にすりこぎを乗せてミクリさんに良く見えるようにする。こう見ても普通の汚いすりこぎだ。
「いいえ」
「え、違うんですか」
「オフィスじゃないでしょうし、ポイ捨てでもないと思います」
まぁ、確かにすりこぎをポイ捨てするってのもおかしいよな。サイズどうこうよりも、すりこぎポイ捨てって。
「多分落し物です」
「すりこぎを? こんな所に?」
「はい」
ミクリさんはすりこぎを手に取って言う。まるであの探偵のように。
「ほら、ここを見てください。この紫のシミ」
「紫のシミ」
確かにうっすらと下の方に紫のシミがある。
「きっとヨウシュヤマゴボウの実を潰した汁だと思います」
「ヨウシュヤマゴボウ」
「子供のころ潰して遊びませんでしたか? ほら、あのブルーベリーみたいな実をつけるやつですよ。少し前まで河川敷に沢山ありましたよね」
なんとなくその実が脳内に思い浮かぶ。あの潰したらドッと色の出る奴で、服につくと母親に怒られるアレだ。
「だから多分、子供がこれで遊んでいて落として帰ったんだと思います。それが溝に落ちちゃっただけかも」
「へぇ、よくわかりましたね。ミクリさん凄い」
「私もよくそうやって遊んでいましたから」
と、言葉を聞いて想像してみる。・・・器一杯に実を集めてすりこぎでぐちゃぐちゃに潰している姿・・・なんだかよく似合っている。
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