1. ピクニック

 「――というわけで、部員がひとり増えることになって」

 「…うんうんそっか、で、少しよろしいでしょうか」

 「一昨日にそんなすごいことあったんならとりま昨日の時点で話そう!?」

 晶が優しく挙手したけどもう私は我慢できなかったこれはツッコむしかない、というか360°ツッコミどころしかない。恒例外ランチの木曜日なのに、一番めんどくさがりの利津が珍しく買い弁で公園ランチなんて言い出したから、何かと思えば人払いだったらしい。そこで聞かされた話は……何から何まで予想外すぎるどんでん返しの連続すぎて、最後の最後までサンドイッチ目の前に放り出して聞くだけで精一杯だった。なんだこれ晶残業時のメッセと同レベルの破壊力。

 「でも具体的には何も進展はなかったわけだし。これそんな急いで聞きたい話?」

 「「聞きたい話ですね」」

 「えっ」

 「というかこれ聞かずして何を聞くレベルなんだけど!?」

 「利津は切れ者なのにヘンなとこ天然だよね!?」

 「そ、そうかな…?」

 めっちゃ被せまくる我々の剣幕にタジタジな利津というのもなかなか見られるもんじゃない、けどそれくらい言われて当然。斎藤の宿直連続交替事件の真相が暴かれたのはよかったとして、あろうことかその理由に感銘受けた利津が斎藤に告ったどころかそのまま猛攻して部員にしたって、これなんていうハッピーエンド?…って今はもはやそんな場合ですらない、

 「それで付き合う付き合わないのほうの話し合いは!?」

 「そっちはさすがに会社で片手間にってわけにいかなかったから、日を改めようかってことになったよ」

 「そりゃ然り…むちゃんこ気になるけどそりゃ然りだね……ううう」

 すでにテンションMAXな晶は口調が武士と女子混じって意味不明状態になってたけど、もう今はそれにツッコむ時間すら惜しい。

 「じゃあそれこそ次回の部活時に…!?」

 「それなんだけど、まあ斎藤も忙しい身だからさ、しばらくは月一くらいで勤め先通って店の酒制覇してくかってことになって」

 「ちょま、それってさ!?」

 「ええ今の彼にできる精一杯のデート提案なんじゃないですか?私考えすぎですか?深読みしすぎですか?」

 「いや晶、少なくともその気もない相手をそんなわざわざ近くに呼ばないよね!?」

 「それな樹!この時点で確率として50%は越えてる、それだけは絶対に絶対です!!」

 「そ、そうかな……?」

 私達二人の総攻撃にもはや防戦一方の利津。まあごはんも食べようよと宥められて、鼻息荒いままの晶がようやくツナマヨおにぎりの最初のひとくちをかじる。

 会社から徒歩5分内、ビルとビルの間にある小さなこの公園には遊具もなくてベンチのみ、平日のサラリーマンがこうやってランチに来る以外は特に用途もなさそうな緑地帯だ。空に雲はなくて…というか気付けばもう10月なので、正直天気がよくなかったら屋外で1時間近く過ごすのには無理がある。久々に3人だけの気心知れた空間、の中にズケズケと侵入してくる大量のハトを追い払いつつ、利津はチキン棒片手に口止め確認をする。

 「斎藤から2人分だけ許可はもらってるけど、くれぐれも他言無用でね。勿論言いふらすなんて思ってないけど念のため」

 「もちあたぼーよ!!」

 「うん。妹のことは、同期にはいつか言おうと思ってるらしいから」

 「了解、その日まで黙っとくって伝えて」

 ありがと、と利津が笑顔を見せる。それがなんだか今までの利津とはどこか違った表情のような気がして…なんでだろう、斎藤のために笑ったから…なのかな?晶の時には見事に何ひとつ気付けなかったけど、私も恋バナリスニングのランクが少しは上がったんだろうか。

 「まあ、絶対だいじょぶだと思うけどね。利津ほどの才女フるとかないない」

 「ていうか部活のその出来事自体がもはや夫婦漫才だしな」

 「そ、そうかな………」

 「あそーだ、これからは斎藤に利津のこと部長って呼んでもらわないとね!示しがつかぬ!」

 「誰に?…ってか今そこ要ります?晶さん」

 「そういえば晶、玉城くんとの食事会はどうなってる?」

 さすが抜け目ないというか、突如設定にこだわりだした晶の脱線を逃さず利津がサクっと話を変える。途端に晶の視線が若干泳いじゃうのがまた予想通りで面白いというか、なんかかわいいというか。いよいよ『トキメキめいたもの』の正体に近づく運命の日?がやってくる。

 「……来週の金曜にはって言ってくれてるけど、正直まだ電算室落ち着いてないよね…?樹」

 「だね。宿直申請はなくなったけど、残業は途切れてないみたいだし。延期提案してあげてもいいかも」

 「待ってその前に確認。ランチじゃなくてディナーよね?」

 「…ハイ、ディナーデス………」

 「よろしい」

 同じ片思い?の話をしてても、何故か晶より利津のほうが強い?のが不思議だ。しかしまともな恋愛経験もなく、というよりなんなら後輩女子に告白された経験だけならある私にその理由がわかるわけもない。聞くだけでなんだかフワフワするのに、手が届かないほど遠いもの――あの時の私にとって、恋とは間違いなくそういうものだった。

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