セーラー百景

園生坂眞

第1話 始まりのセーラー女子

 紺色や黒、濃緑。学徒の制服であるから、落ち着いた色が一般的である。一方、スカーフは赤や青、緑といった、鮮やかな色である事が多い。

 大きなセーラーカラーに、原色のスカーフ。襞の織り成すプリーツスカート。

 凛とした制服でありながら、華やかな装いでもある。それは、よくよく見ればアンバランスと言えない事もない。男子の学ランのような一本気はない。

 しかしながら、そこにはある種の高度な造形がある。

 私はそう信じてやまない。


 二十数年前、私は中学校に入学した。

 男子も女子も、皆一様に真新しい、少し大きめの制服に身を包んでいた。

 小学生だった頃は、男子の学ラン、女子のセーラー服を見ると、自分とは一段階上のお兄さんお姉さんといった存在だったが、いざ自分がそういう立場になると、特段意識に変化は無い。ただ、新しい環境、クラスメイトに馴染めるかと不安だけがあった。

 きっかけは忘れたが、隣の席の女子と話せるようになった。

 多分、向こうから話しかけてきての事だったろう。彼女は気さくな子だったし、私は今も昔も、異性とフレンドリーに話しかけられるような人間ではない。

 彼女は、女子の中では大柄な子だった。ボリュームのある癖っ髪を後ろで纏めていて、頬は常に赤みを帯びていたように思う。大柄と言っても太っている訳ではないし、顔もけして不細工ではない。しかし、私は大方の例にもれず、小柄で華奢な、女の子らしい子が好みだったので、彼女に特別な気持ちは皆無だった。

 まして、未だ入学したばかりの一年生の頃。異性に興味はあるものの、恋だの愛だのというのは、まったく考えた事の無いガキだった。

 ある日の休み時間、私は彼女の席の横に立って雑談していた。

 記憶は朧だが、彼女は書き物だったか何か作業をしていたように思う。彼女は私の話に相槌を打ちながら、しかし視線はずっと机の上に向けられていた。

 前傾で作業に没頭する彼女の胸元がだぶつき、そこから少し膨らみを見せる胸と、その先端を垣間見た。

 俯く少女。大きなセーラーカラー。色鮮やかなスカーフ。そして白い肌、女性のカーブ……私は、その姿、光景を美しいと強く感じた。

 その美は憧憬と性的興奮と結びついている。その不思議な気持ちに内心狼狽しつつも、美しき彼女から目が離せなかった。

 それはきっと、誰もが思春期に持ちうる青い春。その気持ち。

 そして、私が初めてセーラー女子という存在を意識し、本当の意味で邂逅した瞬間だった。

 あのセーラーは、良かった。

 その後、良いセーラーもあれば、悪いセーラーもあるという事を知り、私は段々と擦れていくが、始まりのあのセーラーだけは忘れた事がない。

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