第5話 彼女と初登校
翌日、朝起きてリビングに行くと優雅に紅茶を飲んでいるルカさんがいた。
「へっ!?」
「おはようございます、来人さん」
「あ、ああ、おはよう」
驚いているオレに向かって、にっこりと笑顔満開であいさつするルカさん。
何故ここにいるんだ? という疑問も吹き飛ぶような笑顔を見せられると、こっちも負けずと笑顔になってしまう。
「朝食の準備が出来ましたのでどうぞ」
言われたとおりにテーブルを見ると、スクランブルエッグに生ハム、オニオンスープとサラダ、トーストの組合せで美味しそうな香りが漂っていた。
一体、いつの間に……というか、いつ家に入ったんだ?
「実は昨日、友里さんに合鍵をいただきました」
友里……もうお前の中ではルカさんは身内扱いなんですね。
2日目にしてすっかり驚き慣れしてしまったオレは「そうなんだ」としか言えなかった。
遅れて起きてきた友里は、一瞬だけルカの存在に驚いていたが朝食が並べられているテーブルを見て「美味しそう!」と呟いただけで特に違和感を覚えていないようだ。
オレも人のこと言えないけど、妹はこの雰囲気に順応するのが早すぎる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そういえば来人さん、数学の宿題やってきましたか?」
当たり前のように横に並んで登校している途中でルカさんが尋ねてくる。
「あっ忘れてた!」
ヤバい、昨日のことで頭がいっぱいで宿題のことを忘れていた。
数学の高橋先生は宿題に関してはすごくうるさいんだよな。
「それはいけませんね。本当はいけないことですが後で私が教えてあげます」
「あ、ありがとう」
た、助かった……。
ルカさんって頼りになるなあ。にっこりとルカさんに微笑み掛けると彼女は少し顔を赤らめて「こ、今回だけですよ」と念を押してきた。
普段はクールな表情を見せているルカさんが、時折こういう照れた表情をするのがまたオレをドキドキさせる。
歩いているときは伏し目がちにしつつも、ときどきこちらにチラッと視線を向けてくる。
その様子はまるで小さな子供が自分から離れていかないように見張っているようだった。
ルカさんと付き合うといっても現状では何かお世話されているみたいで落ち着かない。
本当にどうしてこうなったんだろうか。
こんなに綺麗な人がオレの横にいるのが未だに信じられない。自分でもそう思うのだから、他人から見たら不思議な光景に違いない。
現に今も周りから放たれる興味津々の視線を強く感じる。
「あの人、この前転校してきた子よね。すごい綺麗」
「モデルさんみたい」
「横にいる人って誰? 何で一緒にいるのかしら」
「美女と何とかってやつ?」
キャハハハという声が聞こえてくる。
くそ、聞こえてるぞ。
オレがしかめっ面をしているとルカさんはオレの手を握ってきた。
「ふえっ!?」
驚いてルカさんを見ると、うふふ、と微笑んでいる。
「周りのことは気にしないで。私は来人さんと居られればそれでいいのですから」
オレは細くて柔らかい手の感触に頭がボーっとしながらルカさんを見つめていた。
さすがに手をつないだまま教室に入るわけにはいかないので、学校に着いてからは手を放して玄関に入る。
「おはよう、来人」
下駄箱の前にいた和彦があいさつしてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
和彦は死角になっていたオレの背後から突然現れてあいさつするルカさんを見て目を丸くする。
「ああ、おはようございます……」
「それじゃ、先に教室に行ってますね」
そう言い残して先にスタスタと廊下を歩きだすルカさんを見送りながら和彦は口を開く。
「お前、いつの間に初芝さんと仲良くなったんだ?」
「ええと、昨日から、かな」
オレの答えに納得がいかない表情を浮かべる和彦であったが、「へえ、そうか」と言ったきりその話題は終わりになった。
詳しい話をしてもきっと理解してもらえないだろうと思っていたオレは和彦のスルーっぷりに感謝した。
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