第177話 クレーム処理
僕はクレーム処理もやっていた。
二十歳の頃、日の出屋がまだ小さい時、商店に使い捨てのお弁当を卸していた。取引先は五件くらいで食数も少ない。
あるお店でレタスに青虫が入っているとクレームが入った。
兄は出かけていない。
このクレームのお店の社長は個性的で僕の親父並みに怖いので有名だ。行けば殴られるだろうと思った。
お店に行き社長が出てくると「貴様何しているんだ!」といきなり拳で殴られた。僕は親父に殴られ慣れている。この社長のパンチなど屁でもない。
「すみませんでした」と言う僕に背中を向け泣いていた。
このクレームが原因で卸のお弁当は全て止めた。
羽田空港のビルから来たクレームも印象深い。五目巾着の中に部分入れ歯が入っているというのだ。急いでお客さんの所にお詫びに行った。
現物を見て驚いた。
僕は土下座して「今日のお弁当代は注文された分、全て無料に致します。後日この五目巾着を製造した業者を連れ、なぜこんな物が入ったのか説明に参ります」そう言うと会社に戻り、業者を呼び現物を見せ打ち合わせした。
五目巾着は中国産で調べようが無いという。
後日、この業者を連れお詫びと説明に行った。僕は、担当者に「このような商品を扱う業者とは、取引を停止処分にして縁を切ります。申し訳ありませんでした」と言い頭を下げた。同行した業者は驚いていたが、僕も食うか食われるかの世界で真剣勝負をしているのだ。
僕のこの熱意が担当者に通じ、取引を継続してくれる事になった。
社長を連れて来いと言うクレームも多数あった。
その都度「僕には社長と同等の権限が有ります。製造も僕が中心で作業しています。必ず改善致しますのでお許し下さい」と頭を下げた。
一番強烈だったのが東京都のホームレスの仕事でのクレームだ。
夕食を配達して事務所から電話が入った。
「味噌汁が腐っている。すぐ来い」という。
兄はこんな時に限って留守にしている。クレームの報告をすると、取りあえずお客さんの所へ行けと指示がでた。
調理した社員に聞いたら、昼に味噌汁が残ったので具材を捨て、その残りの汁を使い味噌汁を作ったという。
お客さんの所へ一人で行き、味噌汁を飲むと酸っぱい味がして確かに腐っていた。幸いすぐに職員が気付いて食事に出さなかったそうだ。
「どうだ?」と聞かれ「すみません、確かに腐っています」と答えた。
「お前じゃ話が分からないだろうから、明日にでも担当者に連絡する。」そう言われ帰された。
後日違う業者が入り日の出屋はこの仕事から外された。
朝、昼、夕と千五百人分の食事を準備するのだ。この仕事を外されたのは痛い。
食中毒が出なかったのが不幸中の幸いだった。今年で四度目の年末年始の行事だった。
思い出したくない経験だ。
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