第106話 精神障害者2級と生活保護

 精神病院に入院して、一年以上経っていた。


 院長に「そろそろ退院に向け、外泊してみましょう」と言われた。部屋の掃除をすると言う名目で、マンションに帰る事になった。しかしマンションに帰ると言う行動が精一杯で、何も出来なかった。


 僕はマンションの三階の角部屋だった。夜になると、上下隣と一斉に女の喘ぎ声のハーモニーを聞かされた。防音壁で無く、声が筒抜けで、夜中の三時四時までセックスする声が聞こえた。


 外泊した時も女の喘ぎ声を聞いた。外泊を繰り返し、退院する事が決まった。


 僕は、うつ状態のままだった。僕の住んでいるマンションは、家賃が月七万五千円した。日の出屋を解雇された、無職の僕に払うお金は無い。


 親父が、川崎市の福祉職員を連れてきた。生活保護の申請をする為だ。部屋は散らかり、無精髭をはやし、廃人の様になって口も利かない僕を見て、職員は生活保護の受給を認めた。


 「精神障害者二級を認めます。」


 死刑の判決を受けた様だった。 

 

 近くの風呂無しのアパートを紹介されて、そこへ入居した。家賃三万五千円で、部屋にはトイレと小さなキッチンが付いていた。


 近くに銭湯もあった。親父がいなければ僕はホームレスだな。これからどうすればいいのか見当もつかない。


 大師支所の福祉が、デイケアを勧めて来た。福祉の人とデイケアに参加した。ビーズを作ったり、麻雀したりして社会復帰を目指す、リハビリセンターだ。


 その中に貴子さんがいた。先輩の澤田さんにそっくりだ。貴子さんの名字も澤田さんと言った。僕は人見知りなので、声をかけられなかった。 


 しばらくして澤田さんに昼食に誘われた。貴子さんの話をすると、それは俺の妹だと言い、統合失調症だと話した。同じ病気だと言う事で、親近感が沸いた。


 貴子さんには、障害者としての事を、いろいろ教えてもらった。 


 まず障害者手帳を作る事。この手帳でいろんな特典がある。映画を千円で見られたり、川崎で運営している温水プールに無料で入れたり。国立美術館に、場所によるが無料で入れるらしい。


 川崎市内の無料バス券も、一年有効のモノが年に一度もらえる。バス券は紛失すると、再発行してもらえない。


 障害者になり、少し得した気分だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る