第77話 成長する上での苦闘
薮田さんの指導により役職で呼び合う様になった。
僕は兄を社長と呼び、兄は僕を専務と呼んだ。最初は違和感があったがすぐに慣れた。
店長は野川を指名した。野川は夜学に通いながら日の出屋でアルバイトをして、卒業後そのまま社員として働いていた。日給研に加盟する前から在籍していた。
仕事が忙しくなると、野川は店長として人間関係で苦しんでいた。配達のバイトがなかなか育たない。入ってもきついと言って辞めてしまう。ひどいのになると午前中車で同行して、配達中逃げ出して行方不明になった者もいた。
僕は厳しく野川を指導した。
「太陽グループなんて嫌いだ。以前の日の出屋は、家庭的で人間味があり良かったのに」
そう周囲に漏らしていた。僕は常にポジティブだった。
経理部長に松木という女性がいた。経営コンサルタント会社から引き抜き、人間性も文句なく早稲田大学卒の、日の出屋に取り無くてはならない人物だ。
配達は、トライアスロンの様だ。運転して車を降り、配達する弁当をセッティングして、お客さんの所にダッシュして車に戻り、次のお客さんへ向かい、それを昼まで繰り返す。
配達に欠員が出て、急きょ僕が行く事になった。
陰で野川が「専務は絶対時間内に行けない。配達の辛さを知れば、厳しい事は言わなくなるだろう」と言っていた。
僕は基本的に配達に出ない。場所の分からないお客さんもある。初日は、戸惑いながらも配達が終わったが、昼を十五分過ぎていた。
野川が「ほ見ろ、間に合わないじゃないか」と言う。僕が、時間に間に合わない事が嬉しい様だ。
二日目は、十二時五分前に配達を終わらせた。
「なんだ間に合ったのか」残念そうに野川がつぶやく。
三日目の配達は、十一時半に終わった。野川は無言になる。
四日目は、十一時十五分に配達を終わらせた。
たった四日間で配達時間を一時間短縮した。
野川は「ここまで来たら嫌味だね。一人でやっていろよ」と、吐き捨てた。
僕と野川は険悪になった。松木が間に入り、野川と話し合いになった。野川の指摘に僕が反論する。松木が野川に、頑張れ頑張れとエールを送る。
僕は兄の代理で、経営者として話をした。野川は、アルバイトに甘すぎる。僕達はお金を稼ぐために、日の出屋に集まっているのだ。お友達を作りたいのなら、他の会社に行けば良い。
野川に僕の考えを伝えると「もうやってられません。日の出屋を辞めます」そう言うと、野川は事務所を出ていった。
野川最後の勤務が終わると、常務が帰り際バッタリあったそうだ。
「なぜ辞めるんだ。何かあったらいつでも遊びに来なさい」常務の言葉に野川は「二度とこんな所に来るかよ」と、捨て台詞を吐き去っていったという。
僕は松木と事務所にいたが、野川は顔も出さなかった。
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