EMPRESS 弓華

文月アキナ

第1話はじまり

「はぁ……はぁ……。」

リクルートスーツを着て周りから見ればできるキャリアウーマンだろう。そんな女性会社員は息を切らし走っていた。女性は思った。こんな全速力で走ったのは高校生以来だろうと。もちろん理由はある。会社に遅刻?そんな訳はない。マラソン大会に出るからそれに備えて走る……そんな社会人いるわけない。

「なん……なのよ……あれ!!」

息を切らしながら女性は呟いた。ヒールを脱いで走ったので素足が痛い。足の裏はストッキングは破れ、切り傷もしている。

「それにしても何で人はいないし、車ひとつも通ってないの⁉︎」

彼女の周りは嘘のように人はいなく、そして車も通っていない。まるでゴーストタウンと言っても良い。

「……これ夢じゃないよね?」

彼女は心の中からジワジワと絶望が押し寄せてくる…………。

「そうよ。昼休みウトウトしちゃって……」

壊れ始めて行く彼女の心。そして容赦無く突きつけてくる現実。

「足が痛い……何で……これ夢じゃないの?」

…だっ…だっ…だっだっだっ。

泣きじゃくる彼女をよそに静かに現実が徐々に迫り始めてきた。

「ぐがぁぁぁーーー!!」

「………っ!!」

現実が彼女に迫ってきた時彼女の目の前は一瞬で真っ暗になった。




「また通り魔事件あったみたいだよ。」

「本当イヤになるよね〜。あれのせいでバイト禁止になったじゃん!」

「だよね。今月欲しい服あるのに買えないのはマジで辛い………。」

「ガラララ〜」

「おはよう。」

入ってきたのは黒いロングヘアに整った顔立ち、周りから見ても清楚で美しいと思わせる少女、霜月弓華は軽く微笑み挨拶をする。

「あっ、霜月さんおはよう。」

「弓華ちゃんおはよう。」

「ところでみんな……どうしたの?」

弓華は質問をする。

「弓華ちゃん今日朝ニュース見た?」

「ニュース?」

弓華は首をかしげる。

「見てないんだ。また起きたんだよ通り魔事件。」

「また⁉︎」

「そうまた。本当警察は早く捕まえて欲しいわよね………。おかげでこっちはバイトはできないわけだし。」

「ハハハ………。(実は私こっそりやってるんだけど)」

実は弓華がニュースを見てないというのは理由がある。それはアルバイトの方で上がる時間が遅くなり、自宅に戻ったのが22時過ぎその後自分の夢である声優で今できる練習をしていたせいで朝ギリギリで起きニュースを見ていなかったのだ。

「本当に早く捕まえて欲しいよね通り魔。」

「ホントホント〜〜。」

3人のため息と同時にチャイムが鳴る。3人はそれに合わせて席に着く。

「……何で通り魔事件の為に私の夢の資金稼ぎが禁止にならなきゃならないのよ。私は早く養成所に入ってそしてなるのよプロに!」

弓華は席から窓の景色を見つつ誰にも聞こえないように呟いた。



「お疲れ様でーす!」

「お疲れ。」

夜20時最近起きてる通り魔事件の影響か人は全く入らず早上がりとなった。

「……本当早く捕まって欲しい。」

その影響もあって人件費削減でシフトもカットされ中々入れなくもなっている。

「……もっとお金いいとこ探そうかしら………。例えば……」

弓華はスマホで求人サイトを開く。しかし高時給の求人のところを開いても高校生はお断りばかりだ。

「……何で高校生お断りなのよ!!別にいいじゃない!!」

スマホを握りしめ弓華は声を荒げた。

「……かくなる上は……そんなこと……で……できるか!」

一瞬考えたのは援助交際だ。しかし声優を目指す弓華にとってそれはできない。

「大体何で知らない人しかもおじさんとやろうとするのよ。ああいうのって好きな人とやるんじゃないの?全く信じられないわ……。それにしても……。」

街の周りを見る。人1人いない。店は開いているのに店員はいない。まるで一斉にバックれたみたいな感じだ。

「通り魔事件が騒がれてるから街に歩いているのは私1人ってのは分かるけどどの店も店員1人もいないのはおかしくない?」

心の中に密かに侵入してくる不安と恐怖。それを早く解消したいが為に確認をすべきことがあった。

「バイト先、バイト先に行ってみよう。」

もし店長や他のバイトの人がいたら今日は他の店がそんな日だったんだろう。店長の見る目がなかったんだろうとプラスに考えていた。

「絶対にいる……絶対にいる。」

重い足取りでバイト先に近づく。

「お疲れ様でーす。わすれ……。」

弓華が店に入った時に見たのは絶望だった。店には人が誰1人いなかった。

「嘘でしょ⁉︎店長!!店長ーーー!!」

弓華が叫んでも反応はない。無残にもテーブル上にお酒と食事が置かれている。

「そうだ……厨房……。」

厨房を確認する。厨房も無残にも人1人いない。

「どういうこと……?」

突然のことに頭が追いつかなく弓華。

コツ、コツ。

「誰かいるの?」

誰もいない店内に響く足音。今の弓華にとって希望だ。

「もしかして店長?……誰でもいいわ!!」

弓華は足音のある元へと向かう。しかし……。

「何……あんた?」

そこにいたのは人ではなく人の形を影の化け物だった。

「ニヤリ。」

その化け物は静かに歩き出し、そして弓華へと一気に走り迫る。

「がぁぁぁぁ!!!」

「いゃゃゃゃあ!!」

弓華は恐怖で腰が抜けて動けない。

「えっ……私ここで死ぬの……?」

時が止まったかのような感覚。霜月弓華はもう死ぬんだあの化け物に殺されるんだと思った。

「私……まだ声優にもなってないのに……?」

悔しさで涙が出る。まだ入り口にも立ってもいないのに。

「嫌だ。私まだ死にたくたい。」

そう思った時だった。

「……汝よ創造せよ。」

「……っ!!」

「時は来た!汝創造せよ!!」

頭から聞こえる謎の声。今はどうでもいい。今は……今は!!

「あいつを倒す力が欲しい!!」

弓華がそう願った。そして弓華の目の前に強い光が発した。

「……これは?」

「があぁぁぁぁぁ!!」

「考えてもしょうがないわ!」

弓華は目の前から出て来た物で攻撃をした。

「はぁぁぁ!!」

「ぐぎゃぁぁぁ!!」

弓華が踏み込んだ一閃が化け物に入る。そして化け物は断末魔と共に塵となって消えていく。

「はぁ……はぁ……。」

弓華に握られていたのは一本の薙刀だった。そしてこの一本の薙刀を生み出したことをキッカケに彼女の忘れられない4ヶ月が始まることになる。

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