第5話16位の実力と教育

国立魔法学院の校門前に直す気もないような寝癖をつけた白髪の女性が立ち止まっていた


(マジでやりたくないけど…やるって言っちまったし……頑張るか…いや、でもなぁ…めんどくさいよなぁ)


「なに突っ立ってんだ?先生」


背後から声をかけられたので振り向く


「レッドか……」


「寝癖くらい直したらどうだ?」


「めんどくさいからいい。むしろこれくらいボサボサの方が落ち着くんだよ」


「そうだ、今日の魔法実技の授業…楽しみにしてる」


そう言うとレッドは足早に昇降口へと走っていく


「……楽しみにしてるって何だよ」


スカルも覚悟を決め、怠惰を抑制しながら職員室へと向かい歩いていく……低速で


◇◇◇


「よーし、それじゃあ魔法実技の授業始めるぞー」


訓練場の真ん中に立ち、全く張りのない声を上げる


(とりあえず昨日のこと謝るか……テキトーなこと言ったしな…素人が1日で【弾丸ショット】は難しいよな……)


「まずは昨日の…」

「先生!これ見て!【弾丸ショット】」


昨日のことを謝罪しようとしたスカルの言葉を遮り、女生徒の1人が魔法を行使した


(1人だけ異常な速度で【弾丸ショット】を覚えたやつか……魔力同調の早さも考えると、才能の塊だな)


「先生、すまねぇ。やっぱり時間が足りな過ぎた。彼女以外は習得出来なかった……俺もまともに指導出来なかった…」


自身が出した無理難題に本気で取り組んだ生徒たちに対し、罪悪感を感じる


「あ、謝るなよレッド…謝んのは私の……」

「先生は俺たちに魔法がどれだけ難しくて、危険かを教えたかったんだよな……先生との試合とみんなへの指導で理解させられた」


またしてもスカルの言葉は遮られ、レッドの言葉にクラスメイト達も頷いている。彼らも自身で魔法の練習をして難しさを体感したのだろう


(待て待て待て!なんか私に考えがあって無茶なこと言ったと思われてるぞ!)


「中断しちまったな……先生、続けてくれ」


「………よし!お前らが私の思惑に気が付いてくれて嬉しく思う。これから厳しく指導するからな」


「「「はい!」」」


スカルの怠惰な性格が出たのか、もうめんどくさいので誤解を解かずにこのまま行くことにした


◇◇◇


スカルは普段の不真面目な態度から考えられないほどに厳格な雰囲気で口を開く


「じゃあ……魔法実技の授業を始めるが、その前に質問だ。お前らは魔法を何だと思ってる?」


その質問に対し、生徒達は様々な答えを出す。魔物に対抗する力、不思議な異能、魔神の影響、身体機能の一つなど…


「確かにお前らが今言ったことは正しいのかもしれない。事実、それらはすべて諸説ある物だ。だが、魔法が実際に何なのか…人間は理解していない。すなわち……魔法とは未知だ」


生徒達はまだ疑問を浮かべている


「魔法を上手く使うには、その魔法がどんなものなのか理解しなきゃならない。極端な話、魔法序列を上げたいなら魔法を深く理解すればいい……って言われてもまだ分からないよな……じゃあ、実際に見せてやる」


スカルは両手を前に出し、二つの掌に交互に魔法を発動させていく


「【火炎ファイア】」


右の掌に炎の玉が出現し、すぐに消える


「【流水ウォーター


左の掌に水の玉が出現し、すぐに形を失う


その後も様々な魔法を発動させる


「【旋風ウィンド】」「【電撃サンダー】」「【氷結アイス】」

「【閃光フラッシュ】」「【暗転ダーク】」「【土壁ウォール】」

「【増量ヘヴィ】」「【軽量ライト】」「【硬化ハード】」

「【残像ファントム】」「【爆発ボム】」「【遠視スコープ】」

「【感知ソナー】」「【治癒ヒール】」「【剛力パワー】」

「【反射ミラー】」


「本当はこんなもんじゃないが全部使ってると時間なくなるから……まぁ初級で使いやすい魔法でもこんだけある。それら全てを理解してこそ、上へ上へと向かっていける。少なくとも私はそうだったし、私も師匠からそう教わった」


生徒達はあまりの魔法の切り替えの早さについて行けなかった。凄まじい数の魔法を両手で交互に発動させていた上に、まだまだ使える魔法があると言う


「とりあえず、今日はもうあんま授業時間がないから実践はまた次だとして……最後に魔法による戦いを見てもらう。魔法を理解するには、最初に魔法を見なきゃならない……ってわけで特別ゲストだ」


(レッドに楽しみにしてる……とか言われたから相談のために電話したけど、まさか本人が来るとは思わなかった……)


訓練場の扉が開かれ、1人の男性が入ってくる。その男性を見た途端、生徒達の目が見開かれる


「ゲストとして来た。ヴォルガ・クラリスだ」


生徒達が騒がしくなる……なにせ生きる伝説。魔法序列5位の【無尽蔵アンリミテッド】ヴォルガ・クラリスが来たのだから


「私と師匠が今から試合するから、よぉく見とけ……イメージしろ……こいつらを超えるんだって…超えるべき対象が居れば、人は強くなれる」


(今いいこと言ったな……私。これは株の急上昇待った無しだな…この勢いで師匠にも勝っちまうか…そうすりゃ実力の証明にもなって人気も出るだろうし、師匠も少しくらいサボっても許してくれるかもしれない)


体面上はいいこと言っていても、内面で考えてることが最低ゆえに、スカルは人間性の悪さを指摘されるのだろう


生徒達を訓練場の観戦室に移動させ、フィールドに残ったのはスカルとヴォルガのみ


「師匠と試合すんのは久しぶりだけど……本気で勝ちに行くからな」


「一度も勝ててないくせに何を言うか」


その言葉を皮切りに、勝負が始まった

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