第4話師の悩み、弟子の過去
ガチャと扉が開く音が聞こえた。愛弟子が帰ってきたのだろう
様子でも見てこようと、立ち上がろうとした時、部屋の扉が乱暴に開かれる
「師匠!あんなめんどくせぇ仕事なんて聞いてねぇぞ!ガキ共をテキトーに見とけばいいって言ってたじゃん!」
(はぁ……我が弟子ながら性格面は最悪だな)
そんな事を思いながら、口を開く
「俺は国立魔法学院の教師として、未来の若者たちを指導してこいと言ったんだ。お前が勝手な解釈をしたんだろう」
(まったく……弟子にしたばかりの時はもう少し可愛げがあったんだかな……)
初老の男は目の前のやる気の感じられない女を見て昔を思い出す
◇◇◇
「ヴォルガ中将!障壁外で任務中の部隊から救援要請が!」
障壁外……過去に人類が生存圏を獲得するために張った魔物を寄せ付けない絶対防御の壁。各国の軍人は生存圏をさらに広げ、魔物という脅威に怯えずにすむ未来を夢見て障壁外での魔物討伐や、資源獲得の任務に当たる。そんな障壁外からの救援要請……十中八九、危険性の高い魔物……もしくは未知の新種に遭遇したのだろう
「内容は?」
「ファーストから北西の方角に哨戒任務に出ていたガンズ大尉の部隊が正体不明の魔物に遭遇。ガンズ大尉を含めた8名が現在逃走中です」
(正体不明……大尉クラス…しかもあの大盾のガンズが逃走さえ困難となればかなり危険な魔物だろうな……)
「緊急令を発令しろ!ファースト北西に推定レベル8+相当と思われる魔物出現。大尉以上の者に各4名ずつ隊員を配置し、障壁防衛に当たれ!俺は救出に向かう。場合によっては討伐のために最上位魔法を使う。誰も付いてこないように伝えろ!」
「りょ、了解しました!」
通信兵は執務室から出て行く。おそらくあと数分で緊急令が放送され、部隊編成が始まるだろう
(この基地に居る中将クラスは俺だけだ。他の奴が付いてきても足手まとい……これでいい)
ヴォルガは戦闘服に着替え、障壁へと向かう
◇◇◇
「こ、これは………」
ヴォルガは驚愕していた。救援要請があった方角へ進んでいたら、耳をつんざくような鋭い爆発音が聞こえたのでそこに向かいここに着いた
障壁外は人の手が加えられていないので、自然が豊かな場合が多い。場所によっては砂漠や火山など自然のない場所もあるが、ファーストの北西は雪が降る季節があるものの、基本的には森林が広がる場所が多い……にもかかわらず
「地が……焼けている……」
そこには何も無かった……まるで元からそこに自然など無かったかのように、全てが焼け、焦土と化していた
「あ……ああ…」
焦土の中心から声が聞こえ、その方向を向くとそこには軍の戦闘服を着た
「おい!大丈夫か!?隊はどうした?」
その瞬間に少女は倒れ、地に伏した
(全滅……か……だとして魔物はどこに行った?まぁいい、とりあえず戻ってこの子を医療班に)
ヴォルガは倒れた少女を抱え、その場を後にした
◇◇◇
「目が覚めたか?」
軍の病院の病室にて意識を取り戻した少女にヴォルガは話しかける
「………みんなは……隊のみんなは…ど、どうなって……」
少女は未だ混乱しているのか……それとも現実を受け止める事が出来ないのか……ヴォルガは残酷にもその質問に答える
「……残念だが、ガンズ大尉の部隊は君を除いて全滅した」
「う、嘘……だって…隊長は、俺の盾は砕けない…って……私を庇って………あ、あ…あ」
(最後まで……仲間を庇って死んだか……ガンズ)
「私が!私が弱くて…役立たずだったから!みんな死んだ!私だけ死に損ねた!」
少女は激昂する。少女の瞳から涙が溢れ、体から行き場を失ったかのように魔力が溢れ出る
「私が真っ先にあの場で死ねばよかった!なのに!………私は恐れたんだ……あの魔物を見た途端……私が……死ねばよかったのに……なんで」
少女の言葉を聞いて、ヴォルガはその言葉を否定した
「戦場で…….誰が先に死んだ方がいいかなんて順番があるわけがない!」
「……」
「なぜそんなにも死にたがる?魔物を見た時、恐怖を感じたのはお前が弱かったからじゃない!死にたくなかったからだ!だからお前は死ななかった!弱くて惨めでも生きてるんだ!お前が死んだら、お前を守ったガンズ達の命はなんだ?ただの無駄じゃないか!」
「……私は………どうすればいいの……もう分かんないよ……」
溢れた魔力に呼応するかのように、少女の美しい黒髪はみるみると色を失い、白くなっていく
「どうすればいいかじゃない。お前がどうしたいかだ……」
少女は掠れた声で、答える
「……強くなりたい………二度と…人が死ぬところを見たくない…」
(……この目はダメだ。本気で強くなりたいと願う一方で、復讐心に駆られてる。早死にするだけだ)
「………仕方ない…ガンズの形見だ。俺の弟子にならないか?」
◇◇◇
(あの時は、大人しくて、可愛い少女だったんだが……軍を退役させて、厳しく特訓したら、ニートになっちまった……俺の責任だと思って教師に斡旋したんだが…)
「なぁ師匠?やっぱ働かない限りは破門とかやめてくれない?私は魔法だけ出来る生活がしたいんだ……」
(興味のほとんどが魔法と怠惰に偏ってしまった……特訓は厳しくしたが、それ以外は甘くし過ぎたか?子育てが難しいって嘆く親の気持ちが分かるかもな……)
「はぁ……少し出掛けるぞ。着いてこい」
「仕事はいいのか?師匠」
「いい。王都に配属になってからは魔物討伐の仕事が減って、案外楽なんだ」
(寝は素直な子だ。生徒の姿を見れば、少しは考えを改めるだろ……俺の気持ちも知ってもらいたいしな)
「何笑ってんだよ、気持ち悪い」
「師匠に向かってその口の聞き方はなんだ!」
(俺にも娘がいたらこんな感じなんだろうな)
ヴォルガとスカルは国立魔法学院に向かって歩き出した
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