優しい恋をしながら

ドーナツパンダ

第一話「君と出会えて」

長年の病と闘いながら、すっかり体が弱まってしまった。

そのせいで、仕事ができなくなった。

「橋本さん、具合はどうですか?」

新入りの患者さん・春花さんが聞いてきた。

「大丈夫ですよ」

「どうしていつもマスクしてるんですか?」

「それは…」

「病気だからですよ」

七年前ー

元々健康だった体が、すっかり弱まった。

未熟児で、元々肺の機能が弱まってるため、長年薬を飲んでいた。


治樹は一瞬クラッと視線がぼやけ、倒れそうになった。

「治樹!大丈夫?」

「うっうん、なんとか大丈夫」

「そう…」

母には小さい頃からたくさん迷惑をかけていた。そして、家族にも。

「どう?お薬飲めそう?」

「うん」

薬は嫌いだ。そしてその匂いも全て。

未熟児で体が弱まっているせいにしたくない。だけど、そんなこと考えたら余計に辛くなるだけだ。

「兄さん、大丈夫?」

まだ幼い弟にまで心配をさせてる。情けないな。

「大丈夫だよ。祐志」

「良かった!早く元気になってね」

「うん、ありがとう」

弟とは3歳離れているが、仲が良い。そんな可愛らしい弟の負担になりたくない。

「治樹、学校行けそうか?」

父は割と厳しかった。優しい母に比べ、いつもの厳しい雰囲気が少し苦手だ。だが、俺の体が弱まってから、優しくしてくれるようになった。そこらへんはありがたいと思っている。

「うん、大丈夫」

「そうか。無理するなよ」

「心配させてごめん」

「治樹。いつか好きな人ができたら、無理して付き合うなよ?いいな?」

「分かった。そうする」


この世界で恋なんてできるだろうか?

分からない。

でも、頑張って生きたい。

たとえ、あと僅かな時間が残されたとしても。


「昔から、肺の機能が弱まってるんです」

春花さんに話した。

「そうですか。それは大変ですね」

「ええ…でも最近良くなってきたので、そこらへんは安心できます」

嘘だ。本当は悪化してる。他人に迷惑をかけないように、嘘をついていた。いつもそうだ。こういう優しい人には尚更。

「そうですか。一緒に頑張りましょうね」

「はい、では」

(明日も生きていけるだろうか…)

「橋本さんですか?」

「あっはい」

「今日から橋本さんの世話をさせることになりました。賀川惠と言います」

優しい瞳に声。この人はボランティア活動をしてる人だと思う。

「橋本治樹と言います。あの…ボランティア活動をしている方ですか?」

「ええ…大学である授業の単位を取るために、ここで一時期仕事をすることになりました」

(だからか…)

「あの…迷惑でしたか?」

「いえ、そんなことありません」

「病室まで案内しますね」

「あっお願いします」


「ここです。何もありませんけど」

「そうですね。ご家族はいらっしゃいますか?」 

「両親と弟が一人います。昔からたくさんの迷惑をかけました。情けないですよね」

「あの…もしかして未熟児ですか?」

「え?」

「橋本さんの資料を拝見させた所、未熟児だと…」

「そうですよ」

「私はそうではありませんので、その…苦労は分かりませんが、私に何かできることがあれば構わず言ってください」

治樹はニコッと優しく微笑んだ。

「分かりました。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします!」

こうして、二人は出会い、患者と世話係の生活が始まった。


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