盲愛 〜花嫁を愛する彼と〜

ドーナツパンダ

第一章「箱入り娘と仮面王子」

「やっぱりこの刻印まだあるんだ…」

死神の父・アドレと人間の母・エレアの間で生まれた一人娘・クリスは、年齢がだんだん増えるに連れて、背中に刻まれた薔薇の刻印がだんだん赤く熱くなってきた。

その副作用を抑えるために、死神の父から忠告を受けながら薬を飲む習慣がある。

だけど、副作用のせいで、長年外出できない時期が徐々に増え、魔界の人たちに救いの手を差し伸べると、魔界の貴族である仮面王子・テルの噂を耳にした。

「夫…」

クリスの金髪と水色の瞳は、クリスの人間の母である国籍に深い関わりがある。

母が人間。父が死神。身分違いの恋をしてしまった時に、死神の父が人間の母を魔界に連れ戻し、内緒で同居生活を送った。その間に子を身籠ったが、魔界の体質に慣れずにいた。

難産だったが、なんとか命を取り戻して、死神の父と人間の母の元ですくすくと成長した。


だけど、代償が…。

「テル様が…私の夫なんですか?」

「そうだ。君には内緒だったが…。今年で君は18歳だから、全てを打ち明けるよ」

「どうして君は、いつもウェンディングドレスを着ているのか、理解できるか?」

「いいえ、分かりません」

「全て、俺のせいだ」

「お…お父様?」

ぼんやりとした灯りに照らされた人影。

魔界で犯した最大の罪。逃走。反乱。殺人などなど…。

魔界の国民は、テルに対する印象はあまり良くないと耳にした。

「いつから、私は生贄に…?」

冷や汗をした父の様子をじっと見つめてると、濃い茶色のマントに半面の華麗な仮面をした男性が姿を現した。

「テ…テル様!」

「やあ、アドレ。君の一人娘は、生贄とかっていうことにしてるか?俺の花嫁は本当に…エレアにそっくりだな」

スッとした顔立ちをしているが、両目が仮面で隠れている。テルの髪色は赤めの茶髪をしている。

「テル様!もう少しだけお時間を頂けませんか?」

テルはアドレの傍から、強引にクリスを連れ出した。

「お父様!」

「クリス。君は…君はテ…テルの花嫁だ。早く行け……!!」

アドレはクリスの背中を強く押し、自分の娘を悲しげに見送った。


クリスはテルと一緒に彼の魔界の城に入った。

「『クリス』か。名前まで可愛いな」

(…テル様は、もしかしてあの刻印に触れるのかしら?)

「心の声まで読めるぞ。わざわざ隠す必要はない」

テルは、クリスの後ろまで遠回りし、彼女の背中の薔薇の刻印を片手で触れてみた。

「テ…テル様?どうなさいましたか?」

「そろそろだな」

テルはクリスの綺麗な金色の髪に優しく触れた。

「テル様?な…何を?」

「クリス、君を嫁にする時が来たよ」

「だからと言って…」

「なんだ?嫌か?」

冷たい視線を浴びるテル。それに言葉が返せないクリスは、テルをじっと見つめるしかなかった。


「なかなかいいお嫁さんになれるな」

「え?」

「金髪なのは、エレアの一人娘の証拠だ。しかし、君の父は魔界で最大の罪を犯したから、ある呪いは君が生まれた時からあったんだ」

『冷酷で、残酷で、無感情の仮面王子』という名を持つテルだが、クリスはそう思わなかった。

(テル様はいつも仮面をつけてる理由って…何かしら?)

「なかなか仮面を外しませんね。もしかして何か顔に酷い傷跡があるのかと…」

「そうだ」

「…大昔、両目辺りに酷い火傷をして、危うく失明してしまったことがあってな」

「…どうして?」

「魔界の王を殺したからな。それの罰として…」

テルは、ようやく華麗な仮面を外し、クリスに両目辺りの火傷の跡を見せた。

魔界にいる時はある術式によって、自分の酷い火傷の跡を完璧に隠している。

「ひどい。…こんな罰を受けさせるなんて」

クリスが知っている王は、ドラキュラだ。魔界で、吸血鬼の中で最も尊く、地位と権力と名誉が最上級で最高級の貴族だった。

「誰かは…心当たりがあるようだな」

「どうして?私が噂で聞こえたのは…!!」

「『冷酷で、残酷で、無感情の仮面王子』という噂か…」

「なんで…?なんで、魔界の国民に真実を明かさないんですか?」

「それは…」

「今すぐ父に聞いてみます」

「待っておくれ」

クリスがテルの寝室から出ようとしたが、テルの術式によって、寝室の門を封鎖し、お城全体ごと透明で強烈なガイドカバーを覆わせた。


「…テル様?」

クリスがふと振り返った瞬間、テルの術式によって、周囲が元々の豪華な寝室から、檻の中への変化した。

「クリス。覚悟はできたか?」

「な…何を?」

「俺と夫婦になる前に、どれだけ呪いと対抗できるか…試してみよう」

「まっ…待って!」

「……クリス。君をここから逃げ出さないようにするよ」

テルは、クリスを檻の中で隅っこまでグイグイと追い詰め、彼女の滑らかなで柔らかな金色の髪を触り、そっとキスをした。

「…ッ!」

「どうした?まさか心の準備ができていないのか?」

「…はい、すみません」

「いいのか?アドレとお別れをしなくても…」

「平気です。父は魔界の人間ですから」

「そうか。なら、ちょうどいいな」

「本当にテル様は、私の夫ですか?」

「そうだ。君の父が犯した罪の身替わりとしてな」

「父は…一体どのような罪を犯したのですか?」

「殺人、反乱、逃走、駆け落ちなど…」

「父が殺人を犯すなんて、ありえません。あんなに優しいのに…!」

「あと、エレアだな」

「母の事ですか?でも、一度も父から聞いたことはありません」

「人間だからな…。魔界の人間とは一緒にいてはいけなんだ」

「それで、お母様を殺したんですか?」

「私ではない。ドラキュラだ」

母の死が衝撃過ぎる事実で倒れそうになったクリスをテルは強く抱きしめた。切なく、優しく、温かく抱きしめた。


「クリス。君にはすまないと思っている」

「テル様…。テル様は、私たちのために犯した罪のせいで…。だからって!ここまで酷い火傷の跡が残るのは、酷すぎます」

「そんなことない。君のためなら、もう一度ドラキュラを殺せるよ。どんな手段を使おうと…」

クリスは、テルの漆黒な瞳の奥から、微かな心の奥の暗闇な世界を見えた気がした。

(こんな能力まであるんだ。でも…)

「クリス、君は俺の花嫁だ。だから、この命を賭けて、君の手を離さないと決めたよ」

「テル様が、かつて犯した最大の罪は、ドラキュラを殺したことですか?それとも…母を守るために?」

「両方だ。ドラキュラを殺したことによって、その事件が一気に魔界中に広まったんだ。まだ君がエレアのお腹にいた頃の話だが、『人間を守らなければ…』と思ってな。俺が犯した罪は、殺人と下剋上と反乱。魔界で最大の罪を犯し、天の神様が、私の両目辺りを魔界の反乱によって、酷い火傷を受けて、危うく失明しそうになったんだ。

『残酷で無情な神様だな…』って今でもそう思ってるよ」

「そんな…!」

今にでも、涙が出てきそうなクリスの瞳を、テルはじっと見つめながら、そっとクリスのおでこに軽くキスをした。

(テル様…。この方が私の夫で本当に良かった…)

「まだ…君を傷つけたくない」

「だから、このまま一緒にいてくれるか?」

「もちろんです」

「クリス…ありがとう」

優しい雰囲気に包まれた中、クリスとテルは初めてのキスを交わした。

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