自主企画 作品例
バルバロ
参考にでも
素材の番号 1.3.2.2.2
人間が、小型の獣の群れを、魔法を駆使して、倒しに行く
リンは鬱蒼とした森にいた。折角綺麗に誂えてもらった、魔法のドレスが泥で汚れてしまわないか心配である。一応飛んでいるわけだが、この後の事を考えれば全く安心できない。
師匠もうら若い乙女を、こんな危険があると分かりきっている、しかも薄暗い場所に送り出して良心が痛まないのか。いや、修行なので仕方ないのかもしれないが。
怖くはない、全く怖くはない。
しかし一体、この先には何が待っているのか。師匠は一言『楽しみにしておけ』と残していたが、これほど信頼できない言葉はない。
出来れば嫌いな生き物は出ないで欲しい。
例えば虫とか――。
「ひゃっ……」
目が合った。気の所為ではないだろうか、いいや多分合っている。
『沢山ある瞳』のどれかとは。
「いや……」
デッカイ蜘蛛。しかもモジャモジャしてる、眼は赤い。想像する最悪に近い造形。
「いやーー!!」
ローブが汚れるのも躊躇わずに振り返って全力飛行。大きな木の影に隠れて息を整える。
「すー、はー」
帰りたい。すっごく帰りたい。けど帰れない。手ぶらで帰ったら師匠に殺される、比喩じゃなく。
諦めろ、腹を括れ私。頑張れ私!
「行くよ!」
自分に言い聞かせるように大声を出してさっきの場所へと戻る。
飛びながら指先に魔法陣を描く。プロペラのように陣が回転しながら、その中から半透明の犬が二匹飛び出した。
「よろしく、ミケ、ハチ!」
変わらずいた蜘蛛に襲いかかる愛犬たち。でっかいけどあの子達なら心配要らな――。
「げぇっ!」
しかしその後ろから大小様々あれがわらわらと、ご家族かな?
「うぎゃあー!」
悲鳴を上げながら、そこに向けて光弾を撃ちまくる。だが、シャカシャカと躱しながら迫ってくる恐怖の具現。
涙目でさらに撃ちまくる、弧を描きながら放たれるそれは、地面を穿つばかり。ちゃんと狙わないといけないのは分かっているのだけれど……!怖いので逃げながらだったのだが柔らかい何かにぶつかった。
「え……?蜘蛛の巣?」
ベタベタで動けない。腕もくっついたので、これじゃあ魔法も使えない。
つまり?=死
「いやだー!まだまだ美味しいお菓子食べ足りないー!」
これが今際の言葉だというのはどうかと思うが、深く考えている余裕はない。
一匹がまさに目の前に迫った時、上からハチが降ってきた。
「あぁ!ハチぃ……!」
ハチは瞬く間に蜘蛛を蹂躙する。四肢で抑えつけて肉を噛みちぎる、抑えつけている足から伸びる爪も深く食い込んで、緑の液体が垂れだしている。……うん、気持ち悪い。
そんな思いとは裏腹に、寧ろ気持ちが良いほどあっさりと倒してくれた。
助けに来てくれたということは、もう他のを倒してくれたのか!
ありがとうハチ!そして仕事が早い!
そしてなんとかかんとか蜘蛛の巣から降りて、ミケを探しに行くと更に大きな蜘蛛と対峙している。横に五メートルはあるぞ、あれ。ハチは私を助けるのと、私を呼びに来たのね。
ようし、任せろ!
十メートルほど離れた位置から向こうがミケに夢中なのを良いことに、私はしっかりと魔法陣を描く。丁寧なら丁寧なほど質は向上する……!
けど蜘蛛の多い目は私も捉えていたようで、蜘蛛の糸が飛んで来くるが。
「ハチ、宜しく」
『アウッ!』
傍らで私を護衛しているハチの尻尾が糸を宙空で切り裂いた、魔法の犬はこんなことも出来るのさ。
完成した魔法陣、私の目の前に浮かぶ円陣を蜘蛛にそのまま押し付けるように飛ばす。
日の輪くぐりのように蜘蛛を通ると、真ん中で止まり同じ文様がその足元に。
「――よっしゃ!いけぇ!」
その魔法陣から火柱が立ち上る。
留まることのない勢いは森を焼き払う。
「ふうーははは!汚物は消毒だぁ!」
蜘蛛のいる森なんてこうしてくれる!師匠にはなんて言い訳しようかな!
残ったのは蜘蛛だった炭と、焼き払われた広い大地。
「うん!まあいいか!……二人共ありがとうね!」
ミケとハチを見ると褒めて欲しそうに、尻尾を振っている二匹。その口元にはモジャモジャの足。ミケの口からは赤い、丸い何かがぶらんぶらんと。
「うん……。ありがとうね……」
暫くあの子達には触れ無さそうだ。
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