ポジティブ盗撮魔は、異能力を盗撮してしまいました

優白 未侑

プロローグ 盗撮は、趣味。異能力者は、笛を吹く

「流石水上くん!イケメンで勉強ができて運動もできるなんて!かっこよすぎるわ!」

「水上には、絶対かなわねえ!さすみず!」

「水上恭也、水彩高校始まって以来の逸材だ。全く将来の楽しみな生徒だ」

 まあ、高校二年生の俺こと、水上恭也(みずかみきょうや)の評価は、控えめに言ってこんなもの。もう少し、俺の優秀さをたたえてもらってもいいのだが、流石にこれ以上は、俺がみんなの嫉妬の対象になってしまうから、イケメンで流石な俺は、本当の力を抑えて置くしかない。

しかしそんな俺にも、みんなに言えない秘密があった。

「さて、今日も晴れ渡る天気はまるで、俺のようだ!最高の盗撮日和!今日も誰かが告白されるところを元気に盗撮!」

 他人が告白されるシーンの盗撮。これが、完璧で天才な俺の崇高な趣味。

他人が告白され、カップルになるのを見て、心が、ほんわかし、俺の密かな応援を賜るカップルもいれば。

身の程をわきまえないで、告白する愚か者が振られて、落ち込むのを見て、俺がさりげないフォローをしてあげた後に家でそいつが振られるシーンを見てメシウマ感に浸るのは、最高の快楽を俺は、感じる。

そんな俺は、今日、カップル誕生率が最も多いとされる(当俺比較)屋上の物陰にカメラを構えて待っていた。

「今日の告白されるのは……ふむ、黒川(くろかわ)マリアか、学園のアイドル的存在だが彼女自体、そこまで表立って目立ちに行くタイプではないが……ありだな」

 黒川マリア、水彩高校2年生、俺と同じクラスにいるイギリス人とのハーフ美少女。巨乳ポニーテールは、童貞殺し。その記号だけで、彼女は、学園のアイドル的存在になったが、彼女は、なぜか、ちやほやされようともしなければ、友達を増やそうともしない。変わった女性と感じるからか、俺自体も盗撮は、初めてで、彼女が男をどのようにフるか、見ものである。

「っと、もう二人とも来たな……隠れなければ」

 黒川さんと、告白する男子生徒が、屋上にやってきたため、俺は、二人にバレないように物陰に隠れ、カメラを準備した。

「あ……あの……私に話ってなんですか?」

屋上に来た黒川さんは、おずおずと男子生徒にきになったことを聞くのだが、男の方は、声を裏返して答えた。

「あ……あの、その、いい天気ですね」

「はあ、そ……そうですね」

いきなり天気の話とか!やばい、絶対フラれる!これ、絶対メシウマ動画確定だ!

おっと、ここからは、俺は、ただの空気。観察だけに力を注がなくては。

「あの、今日は、マリアさんに言わないといけないことがあるんです!」

「はい、な……なんですか?」

緊張が漂う、男の方、ついに言うぞ……言うぞ……

「あ……あなたのこと、マリアさんのことが……好き……です……付き合ってください」

言ったぁぁぁぁ!さてさて、フルのか!黒川さんはなんて答えるのか!

「え……え、え」

 黒川さんは、何も答えず狼狽えていた。……なんだかやけに暑い……なんというか、ストーブの前に座っているときの暑さがする……。

「ま……マリアさん、オッケーなら、き……キスを」

男が黒川に触ろうとした瞬間。

「さ……触らないでくださーーーーい」

冗談でなく、比喩では無く、本当に黒川さんを中心に、三メートルほどの火柱がたった。

「うわあぁぁぁぁぁ、ば……化物!」

男生徒は、腰が抜けその場に倒れこんでしまった。

「な……なんじゃこりゃ!」

俺も思わず、物陰から、転げでてしまった。

「っ!『ぴゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』」

黒川さんは、俺の方も一瞥し、ネックレスの先についている、銀色の笛を吹いた。

「あ……あれ、俺……今何やってたんだっけ」

「私があなたのこと、フリました……すみません」

「そうですよね。僕のことなんて……すみませんでした!」

その瞬間、腰の抜けた男子生徒は、何もなかったかのように泣きながら、屋上から出て行ってしまった。

いや、語弊だ。会話からもわかる様に本当に今の、超常現象の記憶を忘れていたのだった。

そして、俺に気がついた黒川さんは、少しよそよそしく、話しかけてきた。

「あの……水上くん。何してるのですか?」

「あの、なにも。決して、火柱なんて見ていないです」

俺が、火柱のことを話すと、黒川さんは驚いた顔の後、慌てるようにこちらを見てきた。

「覚えているのですか?」

「覚えているもなにも、あんな凄いこと忘れるわけはない。カメラにも撮っているぞ」

「……カメラにも?」

……しまった俺の紳士的な趣味(盗撮)をついついバラしてしまった。

「あ……あのですね?これは、誤解!お……俺ですよ。イケメン、文武両道で、紳士な私、水上恭也が、とととと盗撮なんて!」

「問答無用ですー!『ぴゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』」

問答無用で、笛を吹いてくる黒川さん。あまりの爆音に耳を塞ぐ俺だが、黒川さんが吹くこのホイッスルの意味が未だに謎である。

「だからなんでホイッスルを吹くんだ!うるさいぞ!」

「え……ホイッスルが効かない?」

ホイッスルを吹いた後の俺の反応を見て明らかに動揺する黒川さん。

「いや、何なんだよ。そのホイッスル」

「もしかして、水上くんは、ハイパーセンスの所有者ですか?」

「なんだよ、そのダサい名前?俺は、一般人だぞ」

「ダサいのは認めますが……いや、もしかして予備軍の可能性も……しかし、ハイパーセンスの覚醒が遅すぎる……ということは……」

 学園のアイドルがなぜ友人が少ないのか……明らかにヤバイその中二思想があるからでは、ないのだろうか?

「一言、言わせてもらうがそれは、中二病か?」

「はぁ、憂鬱ですが、ハイパーセンスについて説明しないといけないみたいですね。いいですか?私の指を見ていてください」

黒川さんは、ため息をつき、細く綺麗な人差し指を俺に向けると、指先から、赤い炎がバーナーのように燃え上がった。

「なんじゃこりゃ!マジックか!?」

「いや、タネも仕掛けもないですよ。これが私のハイパーセンス『温度操作(フリーテンプチャー)』です。私は、体温や、私に触れている空気の温度を自由自在に操る、俗に言う超能力者なんです能力者は、世界の混乱や、戦争利用にハイパーセンスを使わないように、ハイパーセンスの存在は、とある国際機関によって秘匿されているのです」

「つまり。その笛は、映画で言う隠蔽装置の様なものなんだな」

「理解が、早くて助かります。このホイッスルは、能力者についての記憶を改ざんしてしまうホイッスルでして、それが、効かないのが水上くんという訳です」

 黒川さんは、ある程度、説明すると怪訝そうな目で俺を睨んできた。

「なんだよ」

「カメラ」

「フリーテンプチャーさん?」

「あんまり、その二つ名で呼ばないでくだい!本当に中二病みたいで嫌なんですから!というか誤魔化さないでくだい!私は、水上くんの質問に答えました!次は、水上くんが答える番です!」

「俺にハイパーセンスなんて……」

「いえ、水上くんが、なぜ、カメラを持っていたかです。だって、たまたま出くわしても、そんな、大きなビデオカメラ持っているのはおかしいです。星を撮影するような、時間でもないのに」

「うっ!」

ちょっとしたノリでカメラについての話題を誤魔化せると思ったのだが、そんな世の中は、甘くなかった。

「まあ、屋上にいたのは、しょうがないですけど、カメラを持っているのは、やはり不可解です。水上くんは、ハイパーセンスについて何か知っていたからこそカメラを持って私を移そうとしていたのですか?そうでないのならなぜカメラなんて……」

「え……映画撮影?」

「嘘ですよね!あからさまに目が泳いでいます!絶対何か隠していますよね!カメラ貸してください!」

「あ!待って!本当に……」

「ちょっと動かないでください」

黒川さんは、俺のカメラを奪うと、容赦無く俺の周りを炎で囲み、身動きを取れないようにしてきた。

オワタ!俺!オワタ!

「さてさて、カメラの中には……え?これって、私が告白されてるところ?前のデータは……」

黒川さんは、動画を見進めるごとに表情は、不思議そうな表情に侮蔑が混じってきていた。

「いや、待って見ないで……見ないでぇぇぇきゃぁぁぁ!」

「水上くん、最低に趣味が悪いですね」

おわた……俺のイケメン紳士道はここに頓挫し、明日からは、世界中の人間に後ろ指を指されるのか……

「いや!まて、カメラを返さないとお前が、ハイパーセンスっていうことバラすぞ!」

「信じてもらえませんし、そもそも忘れましたか?このホイッスルで一般の人の記憶は、消えてしまいます。むしろ、一方的に考えを押し付けるのは、私です」

笑顔、満面の笑みを浮かべる黒川さんだが、今の俺には、悪魔に見えた。もう八方塞がり、猫を噛めない窮鼠な俺。

「初めては優しく……」

「そうですね、カメラは、返しません。そして、私と一緒に管理機関が所有する病院に来てください、水上くんが、予備軍か調べないといけないので」

「まて、それじゃあ……」

「不公平なのは、当たり前です。水上くんには、選択権がないのですから」

「はい……」

俺は、今思い返せばこれがはじまりだった。最低な出会いは、序章。これから先、俺たちに待ち受けるのは、決して語られることのない、俺たちの物語。

華やかで、大したドラマ性もない客観的に見る価値も語られることもないが、俺たちにとっては、とっても大事なささやかな物語。

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