第18話 私が行きたい
指示を出した後、視線を感じた。
アルベルトがこちらをじっと見ていた。
その顔は悲しいような困惑しているような何とも言えない表情をしていた。
何故、そんな顔をしているのだろう、と近寄って見る。
右手を伸ばし、アルベルトの手にを触れた。
ぴくっと反応し、握り返してくる。
「シェリーは行くの?」
どこに?とは聞かなかった。
聞かなくても想像出来たから。
「行こうと思っているけど、行ける可能性は低いわ。私がもし、氷結病にかかってしまって死んでしまったら、この国は混乱してしまう」
行きたい、という気持ちを女王という枷が引き留めていた。
私は行けないだろう。
誰ももう戦いたくないのだ。
失うしか利益の無い戦争など無駄だと知っているから。
「貴女はここに居てください。私が行ってきます」
何を言っているのだ、彼は。
「私は医師免許を持っています。薬剤師免許も持っており、氷結病に効く薬を作ることができます」
私は開いた口が塞がらなかった。
アルベルトは15歳の筈なのに、私はまだまだだったのだとわかった。
今まで不満に思っていたことなど、彼に比べれば安いものなのだ。
通常、医師免許と薬剤師免許を取ることは最低でも10年かかると言われている。
それを持っているなど、並大抵の努力ではない。
血反吐を吐きながらも乗り越えてきたのだろう。
聞くと、5歳の時に師の元へ通いだし、8年かけて免許を取得したらしい。
天才かっ!と突っ込みそうだ。
しかし、私が行けない中、彼が行く理由もなければ、行かない理由もない。
つまり、私が止める理由は1つもない。
「貴方が行く理由はないわ」
「……いいえ、いいえ。あります。理由は言えませんが、あるんです」
自棄にはっきりと言い切る。
何か、いや誰か大切な人がいるのだろうか?
私は心の中に浮かんだ感情を飲み干し、こくりと首を縦に動かした。
「私には止める理由はありませんわ。行きたいのなら、どうぞお好きに」
突き放したような言葉が飛び出したが、気にしないでほしい。
でも、気にしてほしい。
そんな矛盾した気持ちが胸に渦巻いていた。
アルベルトはそんな私の気持ちを探るかのようにこちらを見てきたが、私は顔に出さず、見つめ返した。
「では、行きます。」
結局探れなかったのか、アルベルトは行くと宣言した。
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