22.それぞれの闘い
「正拳上段突き、構え!」
おれの掛け声にあわせ、目の前に並んだ
戦うことに慣れている
空手の、武道の精神が
館の残骸を片付けたあとが、露天道場になった。亜人街に住む他の
「……よし、やめ!」
基本の稽古をひととおり終えて休憩に入る。
「だんだん形になってきましたね」
片隅で稽古の様子を見学していたソークが声をかけてきた。
「基本の動きを繰り返し稽古する……このような整理された技術体系は
「学んだ者が皆、強くなれる技術、知恵……それが武道だからな。きっとあなたなら、エルフ柔術をさらに進化させることができる」
ソークは頷き、微笑んだ。
その傍らに立っていた黒いフードの男が口を挟む。
「
「……人間との利害の衝突は、しばらくなくならないだろうな」
「すぐに解決できることではない。だが……きっと変わっていける。空手の精神が必ず生きると、おれは信じたい」
黒いフードが頷いた。
「俺の方でも力は尽くす。抵抗は相変わらず、多いけどな」
男はそう言って、踵を返した。おれは立ち去る彼の背中に、声をかける。
「期待しているよ……ウィルヘルム」
この国の王は片手を挙げてそれに応え、立ち去って行く。彼には彼の、闘いが待っているのだ。
「……あ、そうだ」
――と、ウィルヘルムが足を止めて振り返った。
「ウィルマが大層怒っていたよ。
「うわ……」
ウィルヘルムは笑い、歩き去っていった。
「……奪うことなく、奪われない。他者を否定せず、自己を貫く力、か」
ソークが呟くように言い、こちらに顔を向けた。
「しかし……ならばなぜ、あなたは戦っているのです? あなたが究めようとしているものとは、一体なんなのですか?」
空手の可能性を追求し、究め続ける――それはおれ自身の望み。使命。
「……強い奴がいたら、戦わずにいられない。それはあんたも同じじゃないか?」
「……」
ソークは黙っていた。おれは口を開き、言葉を継いだ。
「……ある人と、約束したんだ。その人は運命に抗えず、その道を絶たれた」
おれはその時の光景を思い出していた。白い部屋に置かれたベッド。窓から差し込む柔らかい光。土気色にやせ細った顔、大きな硬い拳の感触――
「……おれなんかより遥かに強い人だったんだ。それでも、運命には勝てなかった。理不尽で残酷な、この世の中の定めた運命に……」
「……では、その人のために……?」
「いや……」
おれはジャヴィドのことを思った。
運命を憎み、それを変えるための力。世界を創りかえ、その行く末を左右できる無限の力――それを求めた男。
そして、おれ自身が――どれだけ抗えるのか。無限の力を求めるジャヴィドに、おれは勝てるのか。
おれは亜人街の空を見上げた。二つの太陽が作り出す夕陽が、複雑なグラデーションを地平線に投げかけていた。
<第三章へ続く>
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