4-7
日の出前、ようやく空が明るくなり始めた頃。
飛行に問題ないと判断したバセットは、城壁に設けられた
旗手は騎手と
カン!カン!カン!
鐘の合図が三回響くのを確認した
正面を見据えるバセットの表情に、特に緊張の様子は無い。台車は勢いよく
前方から掛かっていた勢いがなくなり、急激に落下する感覚が伝わってくるが、それも僅かな間で下から持ち上げられ、前方に押し出される勢いに変わる。
堀の上を滑空した
同僚のスフェーネに「
気になったバセットは、「何故?」とスフェーネに尋ねたが、彼女は苦笑交じりに溜息をついて、「何でもないは、気にしないで」と会話を打ち切った。
バセットは時々スフェーネが、振舞い方や装いについて「殿方から見て」とか「殿方なら」などの言葉を口にするのが不思議だった。
伴侶を娶り子をなして一家で帝国を支える事は、貴族の女子として生まれた務め。そして4男5女の末娘として、親や伴侶の親族に迷惑の掛からぬよう武勲を重ね、自ら「家」を起こし、狭くても領地を獲得する事がバセットの望みだった。
彼女の伴侶に望むことは、武人として共に轡を並べ戦場を駆ける事。そして自分を打ち負かす武を備えていると言うささやかな条件だった。
多くの帝国子女と共に、慣習(地方領主が家督や相続順位の低い子供を兵隊として差し出す)にしたがって帝国軍へ入隊し、見習い従士の期間を過ごした。失敗もあったが八割以上の課題をクリアーし、指導教官の評価もまずまずだった。だが裁定者の訓練評価は芳しく無く、いづれの軍団への入団も困難かと思われた。
見習いから共に過ごしたスフェーネなど「国に帰って結婚すれば良いだけの話よ」などと帝国軍人を目指す者としては、耳を疑うよう発言も飛び出したが、入団が認められないのであれば、「それも致し方なき事」とバセットも覚悟した。
国元で父、兄妹達に仕える騎士として家族を支え、領民を守り治安維持する。帝国を守ると言う事に、「帝国騎士」であるか、「地方の騎士」かはバセットにとって違いは無かった。
自分が望んだ生き方、その責務を全うする。
それがバセット・バーミリオンの考え方だった。
多くの同期が配属辞令を受け取って宿舎を引き払う中で、バセットは帰郷のためスフェーネ共に馬車に乗り込む荷造りをしていた。帰郷にさいし、スフェーネが故郷のグンニベルト子爵領へ招待をしてくれた事が楽しみではあった。
良く解らなかったのは、スフェーネがそこで彼女の兄弟を紹介をしてくれると言う事と。気に入ったらそのままグンニベルト領にいても良いと言う事だった。
スフェーネ・グンニベルトとは帝都へ赴く迎えの馬車で知り合った。バセットは彼女と出会い同じ教練班でともに過ごした事は、この見習い期間での一番の成果だと思っていた。
武芸においては見習いとは言え、バセットは故郷で鍛錬を積み、同じくらいの貴族の子女の中でも頭一つ抜きん出ていた。だがそれ以外の教養や社交的な面がいまひとつ疎かであり、自身も欠点である事は認識していた。
そういった己に足りない面、見識といったものはスフィーネは備えており、それが様々な課題をこなす中で、大いに助られた。また武芸においてもバセットはあまり得でない「魔弾の射手」の扱いを彼女は剣と同じレベルで扱えた。
一対一で切り結べば自分が強いかもしれない、だが総合的に優れた能力を持つのはスフィーネだと言う事をバセット認識していた。
彼女とはこれかも帝国に仕える地方貴族として、公私ともに盟友としての中を深めていきたいとバセットは思った。
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