3-4

 だがアリアは引かなかった、始めた事はやり遂げなければ状況は元の木阿弥だ。 金も策も無い、だが一つだけ見合いそうなモノを偶然手に入れていた。

 どの道、それが「在る」と言う事を使うなら今しかない、アリアが考えた計画に変更を余儀なくされるが、確実性や効果を考えれば「今」使う事が最適だった。


 「ただでとは申しません、相応に支払う対価を用意して御座います。」


 月獣ベールデナは黙って先を促した。


 「それは駐屯地とこの砦の間にある脅威に御座います。」 


 月獣ベールデナ鋭鬼アビザルを見る、鋭鬼オークは首を振った。


 「つまらない嘘はもぉお互い充分だろぅ~?」


 月獣ベールデナはアリアがまだ「遊戯」で問題を解決を図ろうとしていると思い込んだ。アリアもソレが判り言葉を付け加える。


 「ベールデナ様、物証が御座います。サール出して!」


 サールはアリアから預かった、あの明け方の事件で修得した袋を差し出した。アリアは手に入れた経緯を説明する。 

 砦司令官ベールデナ輜重隊長アビザルから概ね事実と確認を取った。


 「赤髪族かぁ~」


 その小さな呟きに、アリアはあの時に輜重隊長アビザルが渋い顔をしたのと同じように砦司令官ベールデナもなにがしか知っていると推測した。


 「輜重隊長アビザルへの報告はどうした。規定違反じゃないか?」


 砦司令官ベールデナ吊し上げは止まらない、機嫌を損ねた上に、監督者として契約違反は見過ごせない。


 「恐れながら、それは違います。我らは襲撃者は撃退しました。その後に逃走した賊を探す途中でこれを見つけたに過ぎません。」


 嘘を気取られる事の無いようアリアは状況を省いて事実を述べた。砦司令官ベールデナは意地悪気な笑みを浮かべ、「遊戯」の仕返しとばかりに尋ねる。


 「それがお前たちの捏造で無いと言えるのか?」


 アリアは控えていた頭を上げ、砦司令官ベールデナを見据えた。


 「私たちがヘム奴隷の便宜のために、ここまで予め準備をしていたとおっしゃいますか?」


 砦司令官ベールデナはアリアに見据えられ渋い顔で押し黙る。そしてサールが膝まづいた。


 「この者は私の郎党です。主が無力ゆえに何もしてやれませんが、死力をもって働きます故、なにとぞ便宜のお計らいの程を。」


 ヘラレス、続いて郎党コーボルト達が一斉に砦司令官ベールデナに膝まづく。レティシアも慌てて倣った。


  機嫌は今一つだが、およそ納得した月獣ゲットの笑い声が響く。


 「ははは、荷物運びに死力とは気に入った!!良いねぇ~、弱者が寄り集まる姿はぁ~、いつ見ても面白い!!」


 「良いだろう、赦す。その奴隷にも許可をくれてやる。だがな、飼い主が後始末する事が条件だ!!」


 「問答はもう充分だ、気が変わらない内に支度して来い!」


 月獣ベールデナは奴隷の鎖を引っ張て急き立てた、這いつくばって進む女奴隷は、アリア達を、レティシアを恨みがましく一瞥し、飼い主と共に砦に消えた。


 アリアは緊張のから解放され、ガチガチに固めた身体の力を抜くために、深々と息を吐いた。


 「おい、、、」


 だが背後から掛かった聞き覚えのある声に、ビクリと再び身を固くする。一難去って、また一難。アリアは恐る恐る振り返って輜重隊長を見る。鋭鬼アビザルは憮然とした表情でアリアを見ていた。

 上手く事を運んで鋭鬼オークとの良好な関係を築きたかったが、最終的にアリア自身が自己の都合を優先させたため、利用する形にしかならなかった。

 輜重隊長アビザルがその点で自分に言いたい事や、発見したモノを隠していた事など、問いただしたい事が山ほどあるはずだ。

 月獣ベールデナをあまり待たせるわけにもいかない、上手くやったつもりが結果は芳しく無かった。


 アリアは立ち上がって輜重隊長アビザルに一礼すると、諸々を謝罪しようと口を開こうとした。


 「砦司令官ベールデナの部屋に行くならついでに物資を運んでくれ。」

 

 「!?」


 アリアは鋭鬼アビザルの一言に口を開けたまま驚いた。


 「阿保面下げてないで早くしろ、砦司令官ベールデナを待たせるな。案内はそこの事務方コーボルトがやる。」


 「おい、お前事務方!こいつらに荷物を運ばせるから案内しろ、砦司令官ベールデナご要望の品々だ、駐屯地でも貴重品だ!粗末に扱うな。」


 輜重隊長アビザルの指示でヘラレス達コーボルトは一斉に働き始めた。慣れているのか?同族だからか?砦のコーボルト達と和気藹藹わきあいあいと作業を進める。


 「そこの女共、お前ら二人はこれを運べ、風呂と手洗いの備品だ。落とすなよ!」


 割と大き目の木箱をアリアとレティシアは持たされた。


 「感謝します、アビザル隊長。」


 アリアは本心から告げた。鋭鬼オークは鼻を鳴らして返す。


 「聞きたい事は後で全部喋ってもらう、だがその前に一言いっておく。互いに貸しも借りも無い。良いな?」


 鋭鬼オークかたらの意外な申し出だった、意気消沈した今のアリアには、アビザルが「神」に見える。アビザルは指示を出しながら、アリアに振り向いて言った。


 「ああ、そうだ。ウチに居る間だけでいいから「口喧嘩」の仕方を教えてくれ。」 

 

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