3-3

 鋭鬼アビザルには凍り付かせる様な月獣ゲットの雰囲気が一変した事が判った。そして自身にいきなり向き直って、、、


 「筋肉」の挨拶!!


 輜重隊長アビザルは咄嗟に受けるが、その衝撃はいつもより軽るかった。砦指揮官ベールデナは慇懃な態度取りやめ、いつもの調子で鋭鬼アビザルに話しかける。


 「いやぁ~隊長ぉ~。そう言う嗜好かよぉ~、まったっくぅ~。」


 お道化た調子は変わりないが、少しトーンダウンした感がある。その表情には悔しさと、驚き、喜びと企みまでも入り混じったっていた。

 鋭鬼アビザルには悪い予感が押し寄せ、脇に立つアリアを恨みがましく一瞥した。アリアは展開が予想外だったらしく、わざとらしく目を逸らす。


 お前、これ貸しだからな!!


 そう思った鋭鬼アビザルだが、続く状況にまたしても既視感デジャブを覚えた。


 「いや~恐れっいたぁ~、最近めっええええええええキリッ!ご無沙汰だったから。こぉ~んなやり口で仕返しして来るたぁ~、僕ちゃん思わなかったぁ~。」


 「まさか隊長にそぉぉぉぉんな、真似が出来るとはねぇ!」


 「僕ちゃん完全に見くびってたなぁ、コリャ~。」


 「良いぜぇ~、代理でも立派な一太刀だぁ~。いやぁ!!むしろ外連味があってこっちの方が、断ッ然ン良い!!。中々に賢しくさかしく成って来たぁ~じゃぁ~ね~かぁ~、隊長ぉ~よぉ~」


 「楽しかったんだけどけどさぁ~、あんたが輜重隊長から次の役割を担う頃合いかもなぁ~。」


 降って湧いた勘違いな評価も面映ゆいおもはゆいが、鋭鬼オークには話の矛先が変わった事が気になる。


 「お前ほど骨があって、おりこうさんに立ち回れるとくりゃ~、ダッハ様もさぞ!お気に召すってもんだ。」 


 「今度の軍団編成の時にゃ~俺から推薦しといてやるぜぇ~~。」


 鋭鬼アビザルは声が出なかった、いったい何が起こっている?


 「・・・・」


 そして思った、これも加護なのか?と


 そこから砦司令官ベールデナは調子を変えた。


 「こうして会う事が無くなる前にまた闘っても良いが、だがな、遊びじゃないんなら俺も本気を出すぜ。なんなら俺がプレゼントしようか?どれだけあれから腕を上げたか見てやろう「紅月」がで本気になるなんて滅多に無いぜ?」


 月獣ベールデナの言葉に、鋭鬼アビザルは乾いた喉をはゴクリと鳴らして潤した。


 ひとしきり鋭鬼オーク揶揄いからかいながら褒め、その後何やら耳打ちした月獣ゲットは、再びアリア達に向き直ると、腰に手を当て何やら首を回して体の関節をほぐす。


 「あ~疲れた、今日はもうおふざけ止めだ!」


 そう言ってアリア達を見据え、話始める。


 「付いて来い、風呂も手洗いも貸してやる。確かにケチる程のモンじゃね~、だがな、、、」


 良い終える前に口をアリアは口を挟んだ。


 「判っております。貸して頂くのは私、そしてこのレティシアの二人だけで結構です。」


 「!!」


 またその場の全員に緊張が走る。ヘラレス、サール、そしてレティシア自身が次の光景に驚いた。


 アリアは素早く膝まづくと願い出た。


 「恐れ多い事は存じ上げております。しかしヘムとは言え、かの者も女であれば御配慮賜りたく存じます。」


 月獣ゲットはアリアの殊勝な態度に、振り上げようとしたモノを一旦収めた、だがねめつけながら言い放つ。


 「中々の度胸と知恵と見込んだが、調子に乗るとせっかく手にいれたものを無くすぞ「世間知らず」」


 お道化、鷹揚だった砦司令官から打って変わり、亜人、いや上位者の本性を剥き出しにした月獣ゲットがアリア達を威圧した。

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