お・く・さ・ま!
アリアはその言葉を胸の内で何度も反芻し、酔っていた。
奥様!!
嗚呼、なんて素敵な響き!!
正に心ココに在らずと言った体の主人に困惑しながら
「はい、ヘラ爺!」
「奥様はココよ、なに?なに?何事?」
忠犬が主人の呼びかけに尻尾を振って応じる様なアリアの反応に、笑いを表に出さないようヘラレスはこれまでの経験で培った胆力を全力で傾け、可及の要件を伝える。
「....さ、サール様から、り、林道向かいの森の影に何やら潜んでいるようだと連絡があっ、ありました。」
「、、今、確認していますが、、迎え撃つ必要があるかもしれぬと、、奥様、急ぎお仕度願います。」
ヘラレスはプルプルと身体を震わせながらようやく言葉を絞り出す、そして改めて主人を見つめて、また驚く。
アリアの表情は一変し別人のようだ、威厳を纏うには若すぎるが一団の長としての覇気と頼もしさが伝わってくる。
ヘラレスは身体の震えがピタリと止まり、事態対処の不安よりもこの主人の手並みに少し期待し始めていた。
「金髪君達が何か気付いたのね、判った。」
アリアは立ち上がると同時に、少し乱暴にコーボルト達の毛布を剥ぎ取る。
「さあ君達、仕事よ起きない!」
眠そうな目をこすりながらも
「
コーボルトの支度を見ながらアリアはヘラレスに意見を求める。
「
輜重隊を攻撃するとなれば結構な人数になるはずだが、そういった大人数が迫る足音や蹄、合図の様な音はまだ聞こえてこない。
「貴方、私に安全な仕事だって言ったわよね?」
アリアはヘラレスがこの仕事勧めた時の事を改めて確認する。
「はい、奥様もご存知のこの地域の勢力情勢、そして駐屯地で集めた事実、噂、
アリアは鼻を鳴らして老コーボルトを一瞥すと、腰に差した
「ヘラ爺、先に行くから彼等を率いて付いて来て。」
一人、先走る主人に慌てるヘラレス。
「!!」
「お、奥様、少しお待ちを。」
魔法使いであるアリアは白兵戦と言った戦いには向かない、護衛も連れず単身で出向くなど危険だ。
「ヘラ爺が急げって言ったのでしょ?私と貴方が集めた情報とその推測が正しければ大丈夫だわ、そうでしょ?」
白み始めた空と対照的な黒い森の陰に向かって、アリアは推測の確認と詳しく状況を知るため見張りに立った傭兵の元へ歩き始めた。
「ですがアリア様!!」
慌てたヘラレスは呼び間違える。
「お・く・さ・まぁぁぁぁ!」
アリアは念を押すように大声で正した。
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