第43話 眠れる姫と呪いの薬
「国王がエリクサーを求める理由が分かりました」
調査が難航すると言っていたリジェだったが、予想外の速さで調査は完了してしまった。
「ず、随分と早かったな」
あまりの速さに呆れてしまうほどだ。
するとリジェは城の離宮に潜入した果偵兵のお手柄ですと笑みを浮かべる。
「どうやら国王には床に伏した末の姫がいるようです」
「お姫様が病気って事か?」
「いえ、厳密には病気ではありません。末の姫はある事件以来ずっと眠り続けたままなのだそうです」
「眠ったまま?」
「はい。末の姫は数年前の社交界デビュー直前で何者かに毒を盛られたそうです。幸い治療が間に合った事で命は助かりましたが、それいらい姫はずっと眠り続けているのだとか」
果偵兵達がその事実を知ったのも、離宮でお姫様の身の回りの世話をしているメイド達が休憩中に当時の話をしていたからだそうな。
「幸い社交界デビューの前だった事もあり、情報の秘匿には成功したようです。末娘と言う事で政治的利用価値が低い事も幸いしているのかと」
そういえば貴族の世界には社交界とかいうパーティみたいなのがあるんだっけ。
けど実の娘の利用価値まで考えないといけないとか貴族ってのは面倒なもんだな。
「以来姫は一切老いることなく、ただただ眠り続けているのだそうです」
「年を取らない!? そんな事ってあるのか?」
「まっとうな病気ではないでしょうね。それ故にあらゆる薬も癒しの力も効力を発揮しないそうです」
「それでエリクサーを求めているのか」
「そのようです」
ずっと眠り続けるねぇ。毒の後遺症でそうなったのは分かるが、年を取らないってのはありえるのか? 考えらえるのは呪いだが毒薬で呪いに罹るとは考えられないしなぁ。
「おそらくですが、ダンジョンで手に入れた毒を使ったのかもしれません」
ふとリジェがそんな事を言った。
「ダンジョンの毒?」
「はい。ダンジョンでは貴重な品が手に入るのは我が王もご存じと思います」
「ああ、ダンジョンでは地上でに入らない貴重な薬草や魔物の素材、運が良ければ古代の魔道具も手に入るからな」
「ええ、その通りです。ですがそうした宝の中でも厄介なのがダンジョン産の毒薬です」
「普通の毒とは違うのか?」
ダンジョンの、とわざわざ強調するリジェに何が違うのかと尋ねる。
「人が作ったダンジョンから発見されたものなら問題はありませんが、ダンジョンが作った毒は普通の毒ではありません。通常の毒におぞましい魔力が混ざる事でただの毒を越えた呪いの如き効果を発揮するのです」
「はぁっ!?」
何だそりゃ、ダンジョン産の毒ってそんなに危険なのか!?
「治癒魔法で解呪は出来ないのか?」
「厳密には呪いでないのが問題ですね。これらのダンジョン産の毒に対抗できるのは唯一お母様のような世界樹の治癒薬なのですが、この辺りにお母様以外の世界樹の気配はありませんので……」
「解毒剤の材料が無くて治療すら出来ないと」
「寧ろその状況でよく命だけでも救ったものです。よほど高位の術者の力を借りたのでしょう。むろんどこか遠い土地の世界樹の薬を用意したのかもしれませんが、それほど遠い土地の物では鮮度も低いでしょうし、投薬は遅くなったでしょうね」
なるほど、事情は大体分かった。
そりゃ家族がそんな事になってりゃ助ける方法を探すよね。
少なくとも俺からラシエルを奪おうという訳ではなさそうだ。
ただしエリクサーがいつまでも見つからない場合はその保証もないか……
「となると王様に貸しを作るつもりでエリクサーを見つけた方が良いかもな」
「王族に貸しを作るのは私も賛成です。いざという時の発言権も強くなりますからね」
「問題はお姫様を助けた場合大事にならないかって事だな」
「はい、なると思いますよ。それこそ褒美として爵位を授けられるくらいに!」
満面の笑顔で言わないでほしい。
「俺が貴族とか好きじゃないのは知ってるだろ?」
そう、貴族は俺達が本当に助けてほしい時に助けてくれないのだから。
「でしたら私に良い考えがあります」
「何か良いアイデアがあるのか?」
「はい。国王に恩を売りつつ、爵位などは受け取らずこの国の、いえ周辺国の貴族が容易に手を出せなく出来る良策です」
おおっ! そんな夢のような方法があるのか!?
「その為にもダンジョンを攻略しましょう。世界樹であるお母様に寄生するダンジョンならば、高い確率でエリクサーが発生する筈ですから」
そこで俺はふともっと単純な方法があるんじゃないかと思いつく。
「なぁ、ラシエルに作って貰う事は出来ないのか?」
「それは難しいですね。元々エリクサーは世界樹の雫とダンジョンの穢れた魔力が混ざって生まれるものです。もっと成長したお母様ならわざと穢れを込める事も出来るかもしれませんが……」
つまりはラシエルが未熟だから無理と。ううむ残念。
「結局は冒険者のようにダンジョン探索をするしかないって事だな」
「はい、しかもエリクサーを入手する為に冒険者より前に我々が手に入れないといけません。その為にも……我々果実将が出る必要があるかと」
「リジェ達も戦うのか……」
側近として常に俺の傍に居たがるリジェもダンジョンに行くという。
それだけ本気と言う事だな。
「……」
気が付くと俺は拳を握っていた。
同時に胸の内からはふつふつと熱い物がこみ上げてくるのを感じる。
何故そんな感覚を味わっているのか……その理由は考えるまでもなかった。
「……ああ、そうか。俺はまだ諦めきってはいなかったんだな」
「我が王?」
「リジェ、ダンジョン探索には俺も参加するぞ」
「は!?」
そう、ダンジョン探索と言う言葉が俺の中で燻っていたは冒険者の魂を再びも上がらせるのだった。
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