第32話 密偵天国
ダンジョンが解放されて半月、ハーミトの町は多くの人で溢れかえっていた。
ダンジョン目当ての冒険者や、冒険者目当ての商人。
それに商人の護衛としてついて来た傭兵達から、特に関係ないけど新しい町が栄えているからという理由でやって来た人達と理由は様々だ。
「随分人が増えたもんだなぁ」
分厚い防壁の上から大きくなった町を感慨深く眺めていると、リジェが報告にやって来た。
「我が王、本日は85名が果実兵によって捕縛されました」
「そっちも増えたなぁ」
「そっちも、ですか?」
「いやなんでもない、続けてくれ」
首を傾げるリジェに報告を続けるように言う。
「単純に喧嘩をしていた者が5名。盗みを行っていた者が20名。果実兵を攫おうとしていた者が40名。我が王とお母様の聖霊体を攫おうとしていた者が10名。そしてお母様の本体を傷つけて体の一部を奪おうとしていた者が10名です」
俺とラシエルを誘拐しようとした連中のあたりから険しさが増すリジェ。
うん、リジェからすれば自分の一番大事な人を誘拐しようとしたようなもんだもんな。怒るのも当然か。
「捕らえた者はカザードが責任をもって背後関係を洗っています。ええ、どんなことをしてでも吐かせて、みせるとの事です」
……方法は聞かない方が良さそうだ。
「あー、お疲れ様」
何はともあれ、今日も町の平和を守ってくれたリジェ達に感謝の言葉を贈る。
大したことはしてやれないけれど、感謝の気持ちくらいはちゃんと伝えないとな。
「もったいないお言葉です」
「「「「!!」」」」
謙遜するリジェと、言葉は喋らないものの態度で褒められた事を喜ぶ果実兵達。
この場合とちらが雄弁なんだろうか?
「しかし本当に増えたなぁ」
俺が言う増えたとは、果実兵と世界樹を狙う連中の事だ。
「明らかに何らかの組織から遣わされた者が大半ですが、中には一般の冒険者の中にも果実兵を自分達の者にしようとする者が居ます。どうも冒険者の護衛サービスを見て戦力として利用できると思ったようです」
「え? どうやって?」
果実兵はゴーレムの一種と勘違いされているがちゃんと自分の意思を持った生き物だ。
自分達を誘拐するような連中の言う事を聞くとはとても思えない。
中にはゴーレムや魔法生物と勘違いしている連中もいるみたいだが、それでもそういった存在は術者である魔法使いの命令しか聞かない。
なのにそれを誘拐してどうするつもりなんだろう?
「本人たちに確認してみたところ、力づくで従えれば従順になると考えたようです」
「なんだそりゃ」
もしかして馬鹿なのかそいつ等?
「それで、捕まえた連中はどうするんだ? 捕まった罪人がどうなるかって良く知らないんだが。確か強制労働だっけ?」
「冒険者ギルドに確認しましたが、通常なら誘拐や牛馬の盗難相当として罰金銀貨10枚と強制労働一か月の後町からの追放が妥当だそうです」
しかしそこでリジェがただし、と続ける。
「それは平民相手の犯罪の場合です。我が王はこの国から貴族に相当する管理者として認められておりますので、家族であるお母様は貴族の一員、そして果実兵達も我が王の財産と判断されます。貴族への犯罪は重罪ですので、死罪もしくは重犯罪として犯罪奴隷となります」
うぉ、いきなり話が重くなったな!?
「更に言いますと、冒険者ギルドからの情報で盗難行為を行った冒険者達は過去にも依頼主とのトラブルや犯罪を行っており、既に問題を起こした時はギルドから追放するとの最終警告を出しているそうです。ですので該当の冒険者達をどう罰しても冒険者ギルドとしては何も要求しないとの事です」
「体よく処罰を任された形だな」
「実際その通りでしょうね」
冒険者は荒くれ者揃いだからやらかすヤツも多いもんな。
明らかに理不尽な冤罪だったりすれば、冒険者の功績次第でギルドも守ってくれるが、駆け出しの新人や問題児だった場合はギルドも訴えを無視する。
つまり居なくなっても構わない。寧ろ居ない方がマシって思われているという事だ。
「分かった。その冒険者達はリジェに任せるよ」
「承知いたしました。彼等には身の程を思い知らせてあげましょう」
うん、まぁやりすぎないようにな。
「問題はラシエルを誘拐しようとした連中の方だな。果実兵を誘拐ってのはまぁ理解できたが、普通の犯罪者がラシエルを誘拐する意味はないよな」
「町の支配者である我が王の身内なのですから、誘拐する事で自分達に有利な要求をするためという可能性はあります。まぁその前に皆殺しにしますが」
発言から怒りがにじみ出てるぞリジェ。
「それについては私から説明しましょう」
そう言って入ってきたのは。捕まえた連中から情報を聞き出している筈のカザードだった。
「もう尋問が終わったのですか?」
「当然だとも。私にかかればあの程度の口の堅さは口を開けているのと同じですよ」
「ほう、口を開けている割には時間がかかりましたね」
「ははは、尋問をしていない貴方よりは仕事が早いと自負していますよ」
「私の仕事は我が王の護衛と町の警備なので」
「こらこら、剣かするんじゃない。カザード、報告を頼む」
顔を合わせた途端一触即発になりそうだった二人を止めながら、俺はカザードに報告をするよう頼む。
「はっ、捕らえた者達はほぼほぼ全てが貴族の密偵でした」
「ほぼ全て? 残りは?」
「犯罪組織と教会関係者です」
犯罪組織と宗教組織かー。どっちも厄介だな。
「いや凄いですよ我が王。密偵はこの国の貴族のみならず、周辺国の密偵も含まれています。更にどうやってか遠方の国の大貴族の密偵も居ましたよ」
「マジかよ」
ってかどうやって遠方の国の貴族が情報を手に入れたんだ?
この町の情報が公表されたのはつい最近だし、ダンジョンの情報に至ってはもっと最近だ。
遠方の国どころか隣の国にだって情報が届いたかどうか。
「おそらくですが、この国にあらかじめ潜ませていた密偵ではないでしょうか? それがこの国の貴族から情報を得て偵察にやって来たのだと思います」
リジェがそんな推測を告げてくる。
成程、あらかじめ密偵が国の中に居たのか。
それなら遠方の国の密偵が居てもおかしくないか。
「ええ、密偵達に口を割らせたところ、おおむね似たような答えでした。いやー、我が王は世界中から注目されていますね!」
「いや嬉しくないよ、こんな注目のされ方!」
何が悲しくて世界中の密偵に狙われなくちゃならんのだ。
「しかし参った。貴族や教会関係者となると下手に事を荒立てるのも不味いぞ」
一応俺は貴族相当の権力を与えられてるって話だが、それでも本物の貴族が相手じゃ不味い。
貴族と表だって敵対すれば、貴族扱いされる俺が気に入らない連中がこれ幸いと徒党を組んで襲ってくるかもしれないからだ。
更に教会も不味い。教会の上層部は貴族ですらも下手に敵に回したくない相手だと有名だからだ。
とはいえ、コレ上面倒な連中にうろつかれても困る。
「何か良い方法はないものかな」
「それならば良い方法があります我が王よ」
と、待ってましたと言わんばかりにカザードが手を上げる。
「どんな方法だ!?」
厄介な貴族達の追及を上手く逃れる方法があるのか!?
「なに、簡単な事ですよ。敵が情報を求めているのなら……」
「求めているのなら?」
カザードが一拍の間をおいて告げる。
「情報をくれてやりましょう」
「……へっ!?」
カザードから提案された内容は、予想外にも程があるものだった。
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