第9話 決戦! ゴブリンキング!

 あれから数日、ゴブリン狩りを中断した俺達は、戦力の強化に全てを充てていた。

 果実兵に栄養を与え力を強化したり、俺の装備を整えたりしたりとだ。


「しかしこの装備は派手じゃないか?」


 ラシエルが世界樹から実らせた鎧はとても豪華で、まるで騎士の鎧のみたいだ。


「せかいじゅのじゅひのよろいです! とってもかたくてかるいんですよ!」


 固く、それでいてある程度の柔軟性もあり、なにより軽いと言う不思議な鎧だった。

 ただ性能が凄く良いのは良く分かった。

 何しろ俺の剣で何回きり付けても傷一つつかなかったからな。


 そして武器も新しくラシエルが実らせてくれた。


「これはせかいじゅのえだのけんです! とってもきれあじがいいですよ」


「どういう理屈で俺は傷つかないんだ!?」


 ラシエルが用意してくれた剣は、木製なのにまるで鉄の様に固く、しかし表面は年輪の様な模様が付いていた。

 試にそこらにあった岩を切ってみたら、するりと剣が岩をすり抜ける様な感覚とともに真っ二つにしてしまいびっくりした。


「うっかり手を切ったら大変だな」


 あまりの切れ味に、間違って自分を傷つけてしまったら大変だと思っていたら、ラシエルが大丈夫だと言ってきた。


「このけんはせかいじゅのおうであるおにいちゃんをきずつけることはないのでごあんしんください」


「マジで!?」


「マジです!」


 ラシエルがあまりに自信満々なので、ちょっとだけ腕に剣を当ててみたんだが、剣は俺の皮膚を押しこんだだけで、全然切れる様子はなかった。


「ホントだ。こんなに切れ味が良いのに、何で俺だけ傷つかないんだ!?」


「おにいちゃんはせかいじゅのおうですから!」


 ……あー、そういうものなんだな。うん、分からない事が分かった。


 ◆


「我が王、配置した兵の準備が整いました」


 深夜、俺達はゴブリンの集落のすぐ近くへとやってきた。 

 しかもゴブリン達に感づかれないよう、灯りを付けずに。

 うっそうとした森の中では月明かりすらなく、木々を感知できるリジェに手を引いてもらって何とか歩ける程の暗さだったので、ここに来るまで結構な時間がかかった。


 途中ゴブリンの集落から俺達を探そうとする軍団が出陣したらしいが、それらは果馬兵達のかく乱によって、見当違いの方角へ誘い空振りに終わらせた。


「果馬兵達を使って敵の本拠地に朝駆けを仕掛けます。敵は今日までのかく乱で走り回された事もあって消耗していますから、疲れと睡眠不足のダブルパンチでこちらの誘いに容易に乗るでしょう」


「成程、相手がまともに判断できない事を利用するんだな」


「はい。ただし集落から出なかった主戦力は十全な状態で応じてくるでしょう」


「誘いに乗るのはあくまで下っ端だけって事だな」


「ええ」


 とはいえ、それでも敵の数が大幅に減るのはありがたい話だ。


「よし、それじゃあ決戦だ!」


「はっ! 果弓隊構え!」


 リジェの指示を受け、ゴブリンの集落を囲っている果弓兵達が矢をつがえ……ているらしい。

 正直言って真っ暗な森では何も見えないし、リジェの指示は果実兵達の間でのみ通じる特殊能力によるものなので、俺達は集落から離れた場所にいるからだ。

 リジェがわざわざ喋っているのも、俺が状況を理解しやすいようにという配慮からだろう。


「放てっ!」


 号令から少しすると、ゴブリンの集落がある方角から悲鳴が上がってくる。


「次! 果術兵隊、魔法放て!」


 次いで魔法を使える果術兵達が魔法を放つと、再びゴブリンの集落から悲鳴が上がった。


「よし! 果馬兵隊集落に突撃! 中のゴブリン達を襲撃しておびき出せ!」


 果馬兵達がゴブリンの集落に入ると、ゴブリン達の悲鳴と雄たけびが上がり、剣戟の音や魔法の音が鳴り響く。

 そして少しすると、果馬兵達が集落から逃げ出し、それを無数のゴブリン達が追いかける。


「アイツラ、まだあんなにいたんだな。かなり狩ったと思ったんだが」


 予想外にゴブリンの数が多かったことに驚かされる。


「集落のゴブリンの数は半分以下です。ただし残っているのは上位種のみですのでお気を付けください」


「ああ、分かっている」


「者共、進め!」


 リジェの号令に果実兵達が一斉に駆けだす。

 すぐに集落から激しい戦いの音が聞こえてくる。


「なぁ、俺達もいかなくていいのか?」


 俺達が居るのは、ゴブリンの集落の外に作った本陣だ。


「ええ、我が王は我らの総大将ですので、王を危険にさらす訳にはいきません」


 う、うーん、確かに戦場で大将が前に出る事はないけど、俺はただの冒険者なんだけどなぁ……

 

「けど果実兵達だけに戦わせるのもなぁ」


 人に戦わせて自分は安全な場所でのうのうとしているというのは、なんというか凄く居心地が悪いんだよな。

 それに折角ラシエルが新しい鎧も作ってくれたのに。


「それも王の務めです」


 だがリジェはそれが当たり前だと俺が戦いに出るのをやんわりと止める。


「今しばらくの我慢です。ささ、お母様の用意してくださったお茶の実をどうぞ」


 リジェが手のひらサイズの実を取り出し、身の上をカットして俺に差し出す。

 実の中は空洞で、中には濃い琥珀色の液体が入っていた。


「お茶も実るんだなぁ」


 お茶を口に含むと、香ばしいお茶の香りが鼻腔をくすぐる。


「ゴブリン達に恨みはないが、これも生きる為だ。許してくれ」

 

 本来なら、これほど人間の生息域近くでゴブリン達の集落が拡大する前に、殲滅なり魔物の領域に追い返すのは騎士団の役目だ。

俺達の村はすでに滅びているが、この森の周囲には他の村があり、その村々からこの森までの距離はそれほど離れていない。


恐らくは他の村からゴブリンの生息域の拡大について苦情が出ている筈だ。

なのに、これだけの数のゴブリン達が我が物顔で森の中を歩き回っていたという事は、騎士団がまともに仕事をしていない証拠だ。


「まったく、領主のクソ野郎は何をやっているんだ」


 俺の故郷を見殺しにしたことといい、領主は仕事をする気がないんじゃないか?


「我が王」


 と、嫌な事を考えて気分が悪くなっていた俺に、リジェが話しかけてくる。


「そろそろ戦いが終わりそうですよ」


「え? もう!?」


 気が付くと、集落から聞こえる音はだいぶ小さくなっていた。


「まだ大して時間が経ってないだろ!?」


「果実兵達も強化されていますから」


と、誇らしげに語ると、リジェが立ち上がった。


「では我等も参りましょうか」


「え? 良いのか?」


「ええ、すでに戦いの趨勢は決まりましたので。後は首魁を討伐するだけです」


 果実兵達に護衛され、俺達はゴブリンの集落へと入ってゆく。

 本当にもう戦いが終わっちまったのか!?


 ◆ゴブリンキング◆


 それは奇妙な敵だった。

 ここ数日、手下が何者かに襲われている事は知っていた。

 明らかに帰ってくる者達の数が少なくなっていたからだ。


 とはいえ、戻ってこないのは格下の弱き者ばかりなので特に問題はない。

 寧ろ食い扶持が減って助かるくらいだ。

 最近は森で得られる食料も減って来たからな。


「みな警戒せよ。敵が我らを狙っておる。強き者達は敵を探せ。そして殺せ」


 司祭と知恵者達が弱き者達に敵を探せと命じる。

 臆病な連中だ。

 何が相手だろうと、我らが本気になれば容易に捻り潰す事が出来るというのに。

 何より王である俺の力があれば、手下達は無双の力で戦う事が出来るのだから。

 現に将軍や騎士は連中の無様な様子を笑ってみている。


 しかし敵はなかなか見つからず、我々の被害が大きくなってきた。

 随分と小賢しい戦い方が得意な連中だ。


「敵は必ずここに攻めてくる! 警戒せよ!」


 司祭達が血眼になって敵を探せと叫ぶ。

 あいつ等は傷は治せるが戦う力は弱いからな。自分が襲われることが怖いのだろう。


 だが気に入らんな、この集落の手下は全て俺の手下だ。

 連中が自分の手下の様に振舞うのは気分が良くない。

 もう一度どちらが上かを分からせてやらんとな。

 集落が大きくなると、俺の力を自分の力と勘違いする奴が出ていかん。


 そして敵が来た。

 敵は夜明け前を狙って集落を攻撃してきた。


「来たか」


 俺は落ち着いて戦いの準備を始める。

 弱き者達は怯え慌てふためいて敵の誘いに容易に乗ってしまった。

 いや、実際に誘いに乗ったのは司祭達だ。


「敵が逃げたぞ! 追って皆殺しにしろ!」


 明らかに早すぎる撤退は誘い以外の何ものでもないのだが、司祭達は気づいていない。

 馬鹿な連中だ。

 知恵者達が制止するが、弱き者達も混乱している為、司祭達の言葉を鵜呑みにして駆けだしていってしまった。

 お陰で集落に残る者の数が大幅に減ってしまったではないか。

 やはり司祭達は数を減らした方が良いな。


 まぁ良い。どうせ奴らは弱き者だ。

 主力である強き者達さえいれば問題ない。

 そして予想通り、敵の本命が攻めてきた。

 先ほどの様な逃げ腰の戦い方ではなく、戻る気など微塵も見せない本気の攻め手だ。


「こちらが敵の本命だ! 叩き潰せ!」


 将軍の命令に従って、強き者達が敵を迎え撃つ。

 奴らは集落の主力。しかも王である俺の近くにいれば、普段の倍の強さを発揮する事が出来る。

 これまで相手をしてきたような弱き者と同じと思っていたらすぐに全滅してしまうぞ!


「グギャギャギャ……さぁ俺を楽しませろ!」


 強き者が敵に剣を、斧を、こん棒を振り下ろす。

 どうする? 俺の力で強化された手下の攻撃は、盾をも砕くぞ!


 敵が手下の攻撃をなんとか回避し、反撃の一撃を与える。

 ふはははっ! 弱き者ならともかく、俺の力で強化された強き者がそんな小柄な体で繰り出した一撃で倒されるものか!


 ズシャッ! っという音と共に、敵の攻撃を受けた手下が真っ二つになる。


「ん?」


 次いで他の手下が脳天に矢を受けて倒れる。

 別の手下は魔法で体を吹き飛ばされて死んだ。


「な、何……!? ど、どう言う事だ!?」


 あ、ありえん! 奴らは強き者だぞ!? それも俺の力で強化された強き者だ!

 それがここまで手も足も出ずに倒されるとはどういうことだ!?


「司祭! やられた奴らを治せ!」


 俺は司祭に命じて手下を治せと命じるが、司祭達は真っ青になって首を横に振る。


「む、無理です、死んだ者は治せない……」


「ええい、この役立たず共め!」


 普段傷を治せるからと偉そうにしているくせに、肝心な所で役に立たん!


「知恵者! 魔法で吹き飛ばせ!」


「はっ!」


 俺の命令を受けて、知恵者達が魔法で敵を攻撃する。

 ふはははっ! 俺の力で強化された知恵者の魔法なら耐えられまい!


「グフフフッ、今度こそ……なにいっ!?」


 だがなんという事だ。敵は大きな盾を持った兵によって守られ、全員が無傷だった。


「馬鹿な、我らの魔法が通じないだグボアッ!?」


 自分の魔法に絶対の自信を持っていた知恵者達が愕然とした顔になったかと思ったら、敵の魔法を喰らって一瞬で絶命した。

 しかも敵の攻撃は明らかに知恵者達以上の魔法の威力だった。


「馬鹿な、この俺が強化した手下達の攻撃が通じないだと!?」


 ありえん! 俺は王だぞ! 人間共の戦士達ですら、俺の力で強化された手下と真正面からの戦いをする事を避けるというのに!

 戦いはなおも続き、手下達がどんどん倒されてゆく。

 何なのだコイツ等は!? 俺の手下が全く相手にならんではないか!?


「ひ、ひぃーっ!!」


 司祭達が悲鳴を上げて逃げ出すが、その背中に容赦なく矢と魔法が突き刺さり命を奪ってゆく。


「こ、こうなったら、俺自ら相手をしてくれるわ! 行くぞ将軍!」


「は、はっ!!」


 将軍と近衛の騎士達が俺に追従してくる。


 俺は王だ!

 王である俺は手下達を強くする事が出来る。

 だが強化され力を得ても手下達は俺に逆らわない。

 何故なら、手下達がどれだけ強くなったとしても、俺の方が遥かに強いからだ!

 俺は誰よりも強いからこそ、王なのだ!!


「グォォォォォォゥウッ!!」


 雄たけびと共に敵に襲い掛かり、大剣を振り回す。

 盾を持って仲間を庇った敵が吹き飛び、俺に向かって突き出された剣をへし折る。


「グハハハハハッ!! 無駄無駄無駄っ!!」


 そうだ! これが王の力だ! いかに手下共相手に有利に戦おうとも、王である俺を倒さねば何の意味もないぞ!


 俺の力を見て、部下達も気勢を盛り返す。

 将軍が、騎士が雄叫びをあげて敵に襲い掛かる。


 そうだ! これが正しい戦場の姿だ!

 グハハハハッ! 俺の前では何人たりとも相手にならぬわ!


「死ねいっ!!」


 将軍が敵を一網打尽にするべく、横一文字に剣を振るうと、周囲の敵が草を刈る様に真っ二つに……


「何!?」


 大柄な将軍の一撃で、敵は纏めて真っ二つになる筈だった。

 だが、なっていない。将軍の一撃は、たった一本の細い槍によって受け止められていた。


「なかなかの一撃。さすが兵を束ねるだけの事はありますね」


 それは人間の女だった。

 いや、人間にしてはおかしな雰囲気だ。他の種族かもしれない。


「ですが、王は世界に我が王一人。偽りの王とその軍勢は滅びなさい」


 女が槍を振るう。


「抜かせ! 返り討ちにしてくれる!」


 将軍が盾で女の槍を受け止め、このまま槍を掴もうと手を伸ばす!

 だが、それは出来なかった。

 女の槍が、将軍の盾を貫いて伸びてきたからだ。


「な、何!?」


 そのまま槍が将軍の喉を貫く。


「ゴボァッッ!?」


 ば、馬鹿な!? 俺の手下の中で最も強い将軍がこうもあっさりと!?

 あんな細腕で何故盾を貫けるのだ!?


 女が我の前に立ちはだかり、次はお前の番だとばかりに槍を向ける。

 良いだろう、その挑戦受けてたとう!


 しかし、そんな時だった。

 突然女の後ろから人間が前に出てきたのだ。

 女も人間の行動に動揺している。


 これはチャンスか?

 女が動揺している間に襲うか、いやこの人間の実力が分からん、二人で来られたら俺でも苦戦しかねん。ここは一旦逃げるか? どうする?



 リジェが明らかに上位種と分かる大柄なゴブリンを一撃で倒す。

 そのあまりの鮮やかさに、後ろに控えるゴブリンキングすらも驚いているほどだ。


「さぁ、あとは首魁を倒すのみ。我が王にその首差し出してくれましょう!」


 リジェがゴブリンキングを倒すべく一歩前に出ると、ゴブリンキングも怯むことなく雄叫びを上げて大剣を構える。


「……」


 ……だが、それでいいのかだろうか?

 何もかもリジェに任せていて。

 敵は攻め込まれたという事もあるが、王自らが戦っている。

 そして俺もここに果実兵達を率いてやってきた。


「そうだ、俺が始めた戦いなんだよな」


「我が王?」


 突然前に出てきた俺に、リジェが驚く。


「悪いリジェ、ここは俺にやらせてくれ」


「ええっ!?」


 俺はラシエルを守りたいから戦う事を選んだ。

 このままじゃゴブリン達が村にやって来て、ラシエルが酷い目に遭うかもしれないからと。

 領主は何もしないから、近隣の町や村が襲われるかもしれないからと思って。


 だから戦うと決めたんだ。

 そして決めたからには俺も皆と共に戦いたい。


「俺も一緒に戦いたいんだ!」

 

「我が王……」


 リジェはため息を吐くと諦めたように槍を降ろした。


「分かりました。ここは我が王にお任せいたします。王にも誉れは必要ですからね」


「わがまま言って悪いな」


「ええ、本当です。お母様に叱られるのは私なんですからね」


 それは本当にスマン。


「大丈夫です。私は我が王ならあの魔物に勝てると確信しているからこそ、お任せするのですから」


 と、何やら意味深な事を言うリジェ。


「ああ、それじゃあ勝ってくる!」


 俺が剣を構えると、リジェが後ろに下がる。


「待たせたな! お前の相手はこの俺だ!」


「……グウウッ!」


 戦う相手が変わった事を察したゴブリンキングが笑みを浮かべる。

 俺なら勝てるってか? まぁ相手は冒険者ギルドも警戒するキングの名前を持つ魔物だからな。

 ゴブリンの名が詐欺だと言われるような高ランクの相手なのは知ってるさ。


「でもな! 俺だってダンジョンの最下層に潜る実力を持ってるんだぜ!」


 怪我を負って戦えなかった間のブランクはこれまでの戦いでもう殆どない!

 装備も新調して前より良くなった!

 気合も十分!


「なら後は、戦うだけだ!」


「グオォォォウウ!!」


 俺とゴブリンキングの攻撃が交差する。

 ゴブリンキングは俺を真っ二つにしようと力を込めた全力全速の一撃で。

 俺はその攻撃を避けるべく、剣で攻撃の軌道を逸らしながら相手の懐に飛び込んで横薙ぎに腹を裂く……つもりだった。


スパン。


 そんな音と共に、ゴブリンキングの大剣があっさり切れる。


「あれ?」


「ゴブッ?」


 お互いにえ? っという顔になりながら、バランスを崩した俺達はそのまま交差……しつつ俺の剣はゴブリンキングの胴を真っ二つに切り裂いた。


「へ?」


 ゴブリンキングの上半身がずるりと滑り落ちて地面に落ちる。


「え?」


 そしてゴブリンキングは何が起こっているのか分からないと言わんばかりの表情で絶命した。

 

「お見事です我が王!」


「「「「!!」」」」


 ゴブリンキングの死と共に、リジェと果実兵達が俺を褒め讃える。


「え? あれ? 倒した?」


「はい! 我が王の圧倒的大勝利です!」


「え? え? え? ほ、ホントにコイツがゴブリンキングだったのか? 実はよく似た普通の上位種だったとかない?」


「いえ、植物達からの情報で、この個体が群れに命令をしていたリーダーだと、言う事は判明しています。そして森の中に同一、もしくはそれ以上の個体の姿も確認できません。間違いなくこの個体がゴブリンキングと思われます」


「マ、マジかよ……」


 信じられない。まさかBランクの魔物であるゴブリンキングを一撃で倒せちまうなんて。

 相手は重い大剣を軽々と揮う怪力の持ち主だぞ!? それを大剣ごと一撃だなんて……!?


「そ、そうか。ラシエルの用意してくれた装備のお陰だからか。確かにこの剣の切れ味は凄いもんな!」


「いえ、これは我が王の実力です」


 だがリジェは俺の言葉を否定する。


「確かにお母様の装備によって戦いを有利に進めたのは事実です。しかしそれが無くとも我が主の実力ならば、時間はかかっても勝てると判断しました。それ故に私は引いたのです」


「そう……なのか?」


 正直、冒険者としての俺はパーティで戦ってきたから、一対一で戦った経験ってあまり無いからいまいち自分の実力が良く分からないんだよな。

 仲間には色々と助けられていたし。


「これでも将軍ですから、他者の力を見極める目には自信がありますとも。ですから、ご安心ください。この戦いは我が王の実力の勝利です! でなければ、ああも自然に相手の武器を受け流して攻撃の軌道を逸らすなどという動作は出来ませんよ。ご自分の積み重ねてきたものを認めてあげてください」


「自分の積み重ねてきた……ものか」


 積み重ねを信じるとか、なんだか照れくさいな。


「分かっていますよ。我が王が我々だけ危険な目に遭わせて、自分だけ安全な場所にいるのが許せなかったこと」


「え?」


「いえ、何でもありません」


 リジェは微笑みを浮かべてはぐらかすと、すぐに表情を引き締める。 


「ではこれより一部の兵力を、果馬兵達がおびき寄せたゴブリン達の掃討に向かわせます」


「ああ、任せるよ」


 果馬兵の援軍として、果実兵達が集落の外へと飛び出していくのを尻目に、俺は集落の中を見回す。


「俺達が勝ったんだな」


「はい、我々の勝利です」


 戦場には大量のゴブリンの死体の山。

 村を捨てて10年の間に、これだけのゴブリンが森を支配していたのか……

 改めてこのゴブリン達が森の恵みだけでは足らずに外に出ていったらと思うと、ゾッとするな。


「さぁ、我が王。勝鬨の声を上げてください」


 と、リジェが俺に提案してくる。


「こういう事は気持ちの切り替えが必要です。我々は勝ったのだと、犠牲を最小限に抑える事が出来たのだと、高らかに宣言するべきかと」


 気持ちの切り替えか。

 確かにリジェの言う通りかもしれない。


 俺達は勝って、村がゴブリン達に襲われる心配も無くなった。

 逃げる事の出来ないラシエルが安全に暮らす事が出来るようになった。

 それが一番大事な事だよな。


「そうだな。俺達は勝ったんだ」


「はい」


 俺は大きく息を吸い込むと、空に向かって叫ぶ。


「俺達のっ、勝利だぁぁぁぁぁぁっ!!」


「「「「「!!」」」」」


 俺の雄たけびを受けて、周囲の果実兵達が各々の武器を掲げて応える。

 そうだ、勝ったんだ。


「よーし! ラシエルの所に帰るぞー!」


「おーっ!」


「「「「!!」」」」


 けど、果実兵達は喋らないから、返ってくるのがリジェの声だけってのがちょっと寂しいなぁ。

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