種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたら、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)(旧題:世界樹の王)

十一屋翠

第一章 世界樹との出会い編

第1話 聖霊との出会い

 ダンジョン、それは魔物が徘徊しお宝が眠る、一獲千金を狙う者達が集うアリジゴクの名前。

 そして俺達もまたその例の漏れず、ダンジョンに挑んでいた。


「来るぞ! 避けろ!」


 そこはダンジョンの中だとしても、不自然に広い空間だった。

 その理由は簡単、俺達の目の前にいる巨大な魔物が自由に暴れまわる為だ。


「グァァァァッ!」


 真横に飛び退いた俺達が居た場所を、巨体が通り過ぎる。


「くそっ! まさかここまでタフな番人だとはな!」


 俺達を襲ってきたのは、ダンジョンの最下層を守る番人と呼ばれる特別な魔物だった。

 番人に選ばれる魔物はただでさえ強く、魔法使い達の研究では、最下層に眠るお宝を守る為、ダンジョンから何らかの補助を受けてさらに強くなっているのではないかとの事だった。


 そしてその説を証明するように、俺達が戦う魔物は、非常にタフで硬かった。


「カルファ、まだか!?」


 俺と同じ前衛役の戦士のレオンが、後衛で魔法の準備をしている魔法使いのカルファに怒鳴る。


「まだよ! あれだけの巨体を倒すにはまだ魔力の集中が必要みたい!」


 代わりに答えたのは、後方から魔法で補助をしていた僧侶のリシーナだ。


「くそっ、もう保たねぇぞ!」


「いかん来るぞ!」



 魔物から、明らかにこれまでとは違う気配の一撃が放たれる。

 先端の尾から頭の先まで、全身のバネを駆使した必殺の一撃が、意識を後方に向けていたレオンに向かう。


「逃げろっ!」


 俺はレオンを押しのけると、手にした盾で魔物の攻撃を受け止める。

 無理やり受けたために、その攻撃を逸らす事も出来ず、全身がバラバラになりそうな激痛が走る。


「セイルッ!? ヒールライト!」


 リシーナの悲鳴と共に、回復魔法が飛んでくる。


「だ、大丈夫だ! やれカルファ!」


 俺は剣を魔物ごと床に突き刺し、その動きを止めると、魔法の準備が整ったカルファを呼ぶ。


「ブライトバースト!」


 魔法使いのカルファが魔物に全力の魔法を放つ。


「グギャァァァァアッ!」


 回避不可能な状況で魔法の直撃を受け、魔物が悲鳴をあげる。

 だが魔物の息の根を止めるには至らない。


「レオンッ!!」


「おうよっ! うぉぉぉぉぉっ!!」


 戦士のレオンが大剣を構えて魔物の足に全力の一撃を加えると、カルファの魔法のダメージもあってか大木のような足がへし折れた。


「グォォォォォォッ!!」


「おっしゃっ! とどめだっ!」


 横倒しになって無防備に晒した喉元に、レオンの大剣が突き刺さる。


「グギャァァァァァァッ!!」


「おわぁっ!?」


 とどめの一撃を受けた魔物が、激痛に体をよじらせ、踏み潰されてはたまらないとレオンが慌てて逃げ出す。


「グォォォォォォォォ……ォォォ……ォォ……」


 そして永遠にも思える長い時間を暴れまわっていた魔物が、遂に動きを止めた。


「よっしゃぁぁぁぁっ! 最下層の番人を倒したぜぇぇぇっ!」


 ついに最下層の番人を倒し、俺達は大きく息を吐く。

 と、同時に、戦場の空気で忘れていた激痛が戻ってきた。


「グゥッ!」


「セイル! だめ、もう魔力が無い! レオン、カルファ! ポーションをありったけ頂戴っ!」


 仲間達から受け取ったポーションをリシーナが俺にぶっかける。

 お陰でなんとか出血だけは止まり、失血死は避けられた。

 ただ全身の激痛は酷く、完治には至っていないのは明らかだ。


「た、助かったよ……」


「ゴメンねセイル、もう魔力もポーションも残ってなくて。地上に戻るまで頑張って!」


「おーい! 早く奥に行こうぜ! 守護者がこんだけ強かったんだ! 奥にはとんでもないお宝があるに違いないぜ!」


「アンタね、セイルが死にかけたってのに、なにお宝の話なんてしてんのよ!」


 お宝が見たくて仕方がないレオンに、リシーナが怒りを爆発させる。


「だからだよ。お宝さえ見つかれば、セイルの怪我もすぐに直せるって。それにさっさとお宝を回収してここを出たほうが良いだろ?」


 だがレオンは飄々とした様子でリシーナの怒りを回避する。


「そんなこと言って、どうせお宝が早く見たいだけなんでしょ?」


「まぁまぁ実際レオンの言う通りだ。早くお宝を回収しよう」


「セイルがそう言うなら……」


 これ以上言い争っても体が痛いだけだ。

 俺が仲裁すると、リシーナもおとなしく引き下がる。


「さーって、どんなお宝があるか……な?」


 奥の部屋への扉を開けたレオンの声が、途中で止まる。


「どうしたレオン?」


「何にもない? カラッポ?」


 固まったレオンに代わり、部屋を見にいったカルファが、部屋の中が空っぽだという信じられない言葉を口にした。


「カラッポだって!?」


「嘘っ!?」


 信じられない言葉に、俺はリシーナの肩を借りて奥の部屋へと向かう。

 するとそこは本当に空っぽで、金貨一枚見当たらなかった。


「う、嘘だろ? あれだけ苦労して、滅茶苦茶出費しまくって道具もほとんど使い果たして何もなしだって!?」


 レオンがありえないとへたり込む。


「まって、奥の壁、あそこの真ん中に台座があるわ。もしかしてアレがこのダンジョンの宝なんじゃないの?」


「「「っ!?」」」


 リシーナの言葉に俺達が奥の壁を見ると、壁の一角だけが確かに盛り上がっていた。


「装飾かと思ったけど、確かに台座に見える」


「な、なるほど! 安い財宝の山じゃなくて、滅茶苦茶高価なお宝一点張りって事だな!」


 希望を取り戻したレオンが必死な顔で駆けだしてゆく。

 だがすぐにその声が落胆に変わった。


「なんだこりゃ……」


「何があったの?」


 俺達も奥へと向かうと、何か小さなものが台座の上に鎮座しているのが分かった。


「これは……木の実?」


 そう、台座飾られていたのは、クルミほどの大きさのただの木の実だった。


「……ふっ! っざけんなぁぁぁぁぁぁっ!」


 怒りに駆られたレオンが、木の実を地面に叩きつける。


「大損じゃねぇかぁぁぁぁぁっ!」


 ◆


「引退?」


「ああ、悪ぃがパーティを抜けてくれ」


「どういう意味だレオン」


 突然の引退勧告に、俺はレオンの意図を問う。


「どういうって、言うまでもないだろ? その怪我じゃもう冒険者なんて無理じゃねーか」


「ちょっとレオン! 言い方!」


 レオンの言葉に、リシーナが怒る。


「おしとやかに言っても同じだろ。お宝が手に入らなかったから、セイルの治療は出来なかった。中途半端に時間が経っちまったから、後遺症が残った体を完治させるには超高級ポーションが必要だ。けど俺達にそんな金はない。セイルも怪我の所為でまともに戦えない。なっ? 足手まとい決定だろ?」


「だから言い方!」


 確かに、レオンの言う通り俺の体は完治しなかった。

 俺は貯金をはたいて教会で治療を受けたが、いかんせんこの町で受けれる一番良い治療を受けてもなお俺の体は完治しなかった。


 だがそれは司祭の腕が悪かった訳じゃない。

 ダンジョンのある町の司祭な事もあって、むしろ司祭の腕はいい方だ。

 それだけ、ダンジョンの番人が強かったというべきだろう。

 結局、治療から時間が経ちすぎて、これ以上の治療は不可能になってしまった。


「……それは皆も納得しての事か?」


 俺の言葉にレオンは言うまでもないという顔、リシーナは申し訳なさそうにうつむいている。カルファは我関せずという感じだ。


「悪いな、俺達も慈善事業じゃないんだ。お前の傷が完治するまで介護なんて出来ねーよ。むしろ生き残れただけ感謝してほしいぜ。お前に使った治療費とポーション代で出費が厳しかったんだぜ?」


「アンタは全然お金出してないでしょ!」


 レオンが俺の治療に協力しなかった事で、リシーナが怒りの声をあげる。


「それにコイツを残したらもっと金がかかるぜ? 何せこれからはまともに生活する事も出来ないんだからな」


「それは……」


「……分かった。パーティを抜ける」


 俺はレオンの要請を受け、パーティを抜ける事を決断する。


「セイル!?」


「おっ、聞き分けがいいじゃねーか」


「良いのかいセイル?」


 ここで初めてカルファが言葉を発した。


「ボクには君の人生を左右する権利はないから、積極的にこの話題に加わる気もない。ただ仲間の為に命を懸けたのは事実だ、追い出されるのならそれなりの要求を求める権利はあるだろう」


「いや、どのみちこの体じゃ冒険はもう無理だ。だったら素直に辞めた方が、足手まといにならずに済む」


「そうそう、人間引き際が大事だよな」


「だからアンタね!」


「そうか。ならボクから言う事は無い」


 俺の意思を確認すると、カルファは興味を失ったのか、口を閉じる。

 と思ったら、懐から何かを取り出した。


「ならせめてこれは君が受け取るべきだろう」


「これは……あの時の木の実か」


 それは、ダンジョンの最下層に眠っていた、たった一つのお宝である木の実だった」


「君がレオンをかばい、魔物の動きを僅かなりとも阻害してくれたからこそ、僕もレオンも攻撃に専念できた。ならこの宝は君が受け取る権利がある。レオンとリシーナはどうだい?」


「はっ、そんなゴミ要らねぇよ!」


「私も構わないけど……」


 二人とも理由は違えども俺が木の実を受け取る事に異論はないようだった。


「良いのか?」


「僕の目的は知識の蒐集だ。財宝に興味はない」


「そうか。じゃあありがたく頂いておくよ」


 このお宝は金にはならないだろう。けれど、故郷への土産話のタネとしてはちょうどいいだろうな。


「じゃあ、短い間だったが世話になった」


 俺は席を立つと、冒険者ギルドから出ていく。


「さて、これからどうするかなぁ」


 最低限の治療の為に手持ちの金もほとんど使っちまったし、もう使わない装備を売り払って今後の生活費の足しにするか?


「薬草採取の仕事くらいなら、ギリギリやれるかな?」


「セイルッ!」


 これからの事を考えていた俺を、リシーナの声が呼び止めた。


「どうした? まだ何か用があるのか?」


「あ、あの……」


 リシーナは何かを言いたげにモゴモゴ言いよどんでいたが、意を決したのか顔を上げる。


「ゴメン! でもどうしようもなくて!」


 ああ、リシーナは俺をパーティから追い出すことに負い目を感じていたのか。


「気にするな。働けなくなった冒険者が引退するのはよくある事だ。寧ろレオンが言った通り、生きているだけ儲けもんさ」


「でも、私達を守る為に怪我をしたのに……」


 リシーナはそれでも納得がいかないみたいだったが、どっちにしろ俺が残るのは無理だろう。

 俺を残すとなれば、レオンの言った通り皆の負担になる。

 レオンは絶対に俺の治療費を払ったりはしないだろうしな。

 となると俺を残すように言ったら、俺の治療費と生活費は全てリシーナの負担になるだろう。

 俺がリシーナの恋人や夫ならリシーナも自分が負担を負う事をためらわないかもしれないが、俺達はただ単に戦力を求めて集まった辻パーティだ。いや今はもう元仲間だけどな。

 

「俺は前衛でリシーナ達は後衛だ。たまたま今回は俺が犠牲になる番だっただけさ」


「よくないよ! セイルはそんなだから怖いんだよ!」


「俺が……怖い?」


 予想外の言葉に、俺は面食らう。

 俺が怖いってどういう意味だ?


「セイルはさ、いつも危険な役割を引き受けるじゃない。前衛だからってだけじゃなく、いつも。私はそれが怖かったんだよ」


「いや、危険な役割を後衛に押し付けるわけにもいかないだろ?」


「それならレオンにやらせても良かったじゃない。でもセイルはレオンが嫌がったらじゃあ俺がやるかってあっさり危険な役割を請け負ってさ……私には、セイルがわざと危険な役目を受けようとしてるように見えたよ」


 俺が危険な役目を自ら?


「だからね、私セイルが冒険者を辞めざるを得なくなって少しだけホッとしてるんだよ。もう危険な事に自分から突っ込まないようになるんだって……だからセイルを辞めさせようってレオンの言葉を否定できなかった」


 リシーナが申し訳なさ半分、安堵半分の表情で俺を見つめてくる。


「これ、私とカルファからの餞別」


 そういってリシーナが袋を差し出してくる。

 受け取って中を見ると、そこにはポーションと数枚の銀貨が入っていた。


「私達にはこのくらいしかしてあげられないけど、元気でねセイル」


 それだけ言うと、リシーナは冒険者ギルドへ戻っていった。


「……ありがとなリシーナ、カルファ」


 俺は姿の見えなくなった元仲間達へ感謝の言葉をつぶやく。


「それにしても、俺が死にたがっているか……」


 リシーナの言葉を思い出して俺は暗くなってきた空を見上げる。


「ああ、言われてみればそうだったのかもな……」


 俺は、セイルは戦いの中で死ぬ事を望んでいたのかもしれない。


 ◆


「ふぅ、やっと着いた」


 冒険者を辞めた俺は、故郷の村に戻ってきた。

 怪我で体がまともに動かないから、帰ってくるのは大変だったぜ。

 途中まで同じ方向に進む商人の馬車が居て助かった。


「ただいまー」


 しかし誰も俺を出迎えてはくれない。

 そもそも、ここには帰るべき家ももう無い。

 何故なら俺の故郷は、盗賊の焼き討ちに遭って滅びたからだ。


「相変わらず静かだな」


 俺は傷む体を堪えて、焼け落ちた家が並ぶ道をゆっくりと歩む。

 そして村の隅にある共同墓地へとやって来た。

 ここに、俺の家族を含めた村の住人達が眠っている。


「ただいま、父さん、母さん、エリル、それに皆」


 俺は眠っている家族に声をかける。


「いやー、大怪我して冒険者クビになっちまったよ」


 誰も答えてくれない墓の前で、俺は家族に、友人に、村の皆に外での生活を報告してゆく。


 この村が、ハーミト村がこんなになったのは10年前の事だ。

 隣の領地を荒らしていた盗賊団がやり過ぎて、怒った隣の領主の騎士団に追われてこちらの領地に逃げてきたのが原因だった。

 盗賊達は俺達の村を占拠し、金目の物や食料を奪った。


 俺が助かったのは本当に偶然だった。

 たまたま村の外で畑で遅くまで仕事をしていた事で、盗賊に捕まらずに済んだのだ。

 そしてさぁ帰ろうと村へ向かっていたら、たまたまウチの村に行商に来て、運よく盗賊に捕まらずに逃げてきた隣町の商人と出会ったんだ。


 家族を助ける為に村に戻ろうとした俺だったが、商人から一人で向かっても返り討ちにあうだけだ。

 領主に騎士団を出動させてもらった方が確実に家族を助ける事が出来ると言われ、何とか踏みとどまった。


 だが、その選択は間違っていたと後になって後悔する事になる。

 領主はどうしようもないクソ野郎で、部下から盗賊の襲撃を聞いても騎士団の出動を認めてくれなかったんだ。

 出すものさえ出せば、命だけは助けてくれるだろう。下手に手を出せば人質がどうなるか分からないと。


 それでも盗賊が村から離れた所で攻撃するべきじゃないかと領主に取り次いでくれた騎士に頼んだんだが、領主は規模の小さい盗賊退治に騎士団を出動させたら金がかかりすぎるのが嫌で放置したいのが本心だから諦めろと諭された。

 ただの子供ではこれ以上はどうしようもなく、俺は村の皆が無事解放される事を切に願った。

 だが、願いは最悪の形で裏切られた。

 村に火が放たれたんだ。


 盗賊団はこの領地を新たな縄張りにする気はなかった。

 隣領地の領主の要請でこの領地の騎士団が動くことを警戒し、隣国に逃げるつもりだったんだ。


 だから、その途中で襲った村から再度金目の物を奪えるように手加減する事は無かった。

 寧ろ騎士団の注意を逸らす為、食料や金目の物を根こそぎ奪いとった後で村に火をかけやがったんだ。


 そうして、村は滅ぼされた。

 火が収まった村に戻った俺は、縛られて一か所に集められた村の皆が固まった形で焼け死んでいる姿を見てしまったんだ。


 一夜にして何もかも失った俺は、皆の墓を作った後村を出る事にした。

 ここにいても子供一人じゃ何もできないし、最悪人さらいに捕まって奴隷にされてしまう危険もあると商人に諭されたからだ。


 幸いだったのは、俺に逃げろと警告してくれた商人が、俺を雇ってくれた事だ。

 今思えば、彼も助けを求めるべきだと勧めた騎士団が何の役にも立たなかったことに負い目を感じていたのかもしれない。


 その後、数年ほど商人の下で下働きをして金を貯めた俺は、仕事を辞めて冒険者になる事にした。

 商人の下で働くのも悪くはなかったが、それ以上に俺は力を求めていたからだ。

 二度と理不尽に負けない力が欲しいと願って。

 商人は悲しそうな顔をしていたけれど、それが俺のやりたい事ならがんばれと、背中を押してくれた。

ああ、あの人にも改めて挨拶に行かないとな。


「けど今にして思うと、仲間に言われた通り、俺は死に場所を求めていたのかもしれないな。結局死に損ねて戻って来ちまったけどさ」


 気が付けば随分と日が落ちてきた。


「そろそろ寝床を用意しないとな」


 家が焼け落ちているので碌に寝るところもないが、幸い冒険者として鍛えられたので、野宿はお手の物だ。


「おっとそうそう、皆にお土産を持ってきたんだ」


 俺は鞄からあの木の実を取り出す。


「なんとこれ、ダンジョンの最下層で見つけたお宝なんだぞ! まぁ何の木の種か分からないんだけどな」


 痛む体を動かし、墓の真ん中にナイフで穴を掘る。


「ダンジョンで守られていたんだ。きっと凄い木の実だぞ。こいつが成長すれば、美味しい実を実らせてくれるはずだ。もしかしたら綺麗な花が咲くかもしれない。俺もじきに皆の所にいくから、その時は一緒にこの木に実った果実を食べよう」


 そう、この木が育って大きな木になれば、皆も、そして俺も寂しくはないさ。


 そして掘った穴に種を植え、そっと土をかぶせた。


「どんな実がなるかな? 楽しみだなエリル」


 妹の顔を思いだし、俺はそっと種を植えた土を撫でた。

 その時だった。

 突然手が何かに押されたかと思うと、土の中から小さな芽が出たんだ。


「え?」


 そして芽はどんどん大きくなってゆく。


「な、な、な?」


 芽は更に成長していき、俺の体が後ろに押されて転がる。


「な、何が起きているんだ!?」


 剣を杖にして痛む体を起き上がらせると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「た、大木!?」


 そう、俺の目の前には、立派な大木がそびえたっていたんだ。


「な、なんだこりゃ!? 何でこんな大木が!?」


 思い当たるのは一つしかない。


「まさか今植えた木の実か!?」


 ダンジョンで見つけた木の実、あれがこの大木になったのか!?

 だがまさかこんな一瞬でここまで成長するなんて信じられない。


 しかも驚きはそれだけではなかった。

 なんと大木が光りだしたのだ。


「今度はなんだぁーっ!?」


 光が幹の根本に集まってゆく。

 そして集まった光が大木の外に出て、俺の前でゆっくりと形を変えてゆく。

 球体の光は細長く伸び、更に四本の細い光が四方に伸びる。

 更に伸びた光の上に乗るように、丸い光が膨れ上がる。


 そして光が少しずつ弱くなっていくと、そこには想像もしないモノが『居た』。


「はじめまして、おうさま」


「……人? 女の……子?」


 俺の目の前には、小さな、そして誰かの面影を感じさせる少女の姿があった。


「わたしはせかいじゅのせいれい。はじめましておうさま」


 これが、文字通り俺に全てを与えてくれる事になる、世界樹の聖霊との出会いだった。

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