この国は、アメフトとモフモフと大いなる矛盾で出来ている

 2月の第一日曜は、アメリカ全土が熱狂するプロフットボールリーグ(NFL)の優勝決定戦スーパーボウルの日――というのは、既出のエピソード『スーパーボウルの歩き方』でお伝えしたとおり。



 スーパーボウル開催日のスポーツバーは、贔屓チームのジャージを着込んだ客でごった返し、試合開始前から異様な熱気に包まれる。アドレナリン出しまくりのところにアルコールがどんどん注ぎ込まれるので、興奮した客の間で些細なことがキッカケとなり大乱闘に発展することも少なくない。

 「スーパーボウルは自宅で観戦する派」の人々は、午後も早いうちから自宅を解放し、友人や隣人達を招いて大量のアルコールとジャンクフードを山ほど消費しながら、夕刻の試合開始を待ち望む。

 「アメフトのルールはよく分からないけど、みんなでパーティー、楽しいな」的ノリでやって来る招待客も少なくない。



 ……というのは、昨年までのお話。


 パンデミック下の現在、例年どおりのお祭り騒ぎをするのは、とってもマズイ。そんなことはイヌでも分かる。



  

 1月15日。アメリカ疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、『イギリスで初めて確認された極めて感染力の強い新型コロナウイルスの変異種によって、3月までにアメリカ国内の感染者数および死者数が激増する可能性が高い』との予測を発表。


「ワクチン接種の進捗しんちょくが当初の計画より大幅に遅れてるのに、国民の不安に追い打ち掛けてどーすんねん」

 ニュースを観ながら思わずツッコミを入れたものの、「ヘタに隠したら、それこそ問題やね」と納得せざるを得ない。が、精神衛生上、とってもヨロシクない。

 現在、アメリカではワクチンの供給が需要に追い付かず、国内各地で接種の予約が次々と取り消されるというトンデモナイ事態が起きている。

 ワクチン接種の優先順位が比較的高い職種に就いている相方も、先月末に「近日中に接種予定」と言われながら、いまだ未接種。私などは優先順位最下位(=バージニア州全人口の37%にあたる、65歳未満で基礎疾患/既往症のない州民。要するに、普通に健康な人)なので、いつになったら順番が回ってくるのやら……



 2月3日。『アメリカにおける感染症研究の第一人者』ファウチ博士が、スーパーボウル観戦を口実に大規模なパーティー参加への危険性に触れ、「Just lay low and cool it.(波風を立てず、冷静に行動して欲しい)」と警告した。

 そりゃそうだ。

 こんな状況下で『お祭りイベントスーパーボウル』を強行して、ホンマに大丈夫なん? 国内各地で「集団観戦したら、集団感染しちゃいました」なんてことが起きたらどーすんねん……と、誰もが思っていたはずだ。



 NFL側も、それなりに対策を講じてはいた。

 コーチやスタッフ、控え選手に対してマスクの着用を義務付け、観客数をスタジアムの収容人数の20%に制限した。(とは言え、その数、2万5000人!)

 観客にはマスク、消毒ジェル、ハンドワイプなどが入った「コロナウィルス対策キット」が無料で配布された。

 ちなみに、このキット、外装が『第55回スーパーボウル(Super Bowl LV)』のロゴ入りだけに、試合終了後のオークションサイトで取引される可能性もあるやろなあ……と思っていたら、案の定、50ドルで出品されていた。うーん、せこい。


 試合会場となるフロリダ州タンパでは、「スーパーボウル期間中は、マスクなどで顔を覆うように」との行政命令が発令された。

 今更かよ、という気がしないでもないが、フロリダで生まれ育った相方に言わせれば、「フロリダは亜熱帯気候で湿度も気温も高いから、マスクに慣れていないアメリカ人にとっては、真夏の日本でマスクをするのと同じくらい不快なんだよ」


 タンパの皆さま、お疲れサマ。



***



 さて、我が家のスーパーボウル当日。

 相方は朝からテンション上がりまくり。


 それもそのはず。今年の出場チームのひとつは、彼がこよなく愛する『タンパ・ベイ・バッカニアーズ(Tampa Bay Buccaneers)』だ。

 このチームの本拠地は、相方の故郷フロリダ州タンパ。そして、今年は「スーパーボウル史上初、チーム本拠地での試合開催」とあって、タンパっ子としては、ドキドキ、ワクワクが止まらないそうな。アメフトには全く興味がない私には理解し難いが、とにかくスゴイことらしい。

 東部標準時(EST)午後6時30分の試合開始まで、ウキウキ、そわそわし続けるつもりなんだろか……落ち着け、相方。

 

「ああ、そうだ。キミのお気に入りの番組、午後2時のスタートだよ。で、ハーフタイム・ショーは午後8時30分頃」

 朝食後。愛犬と愛猫の運動会に上機嫌で付き合っていた相方が、ふと思い出したように口にした言葉に、今度は私がドキドキ、そわそわする番だ。

 私のお目当は、1年に1度だけ、スーパーボウル当日の午後2時から放送される超人気番組。

 「モフモフ最高」「寝ても覚めてもモフモフのことばかり考えてるの」というモフモフをこよなく愛する人々をターゲットに、「アニマル・プラネット」が世界最大級の動物モフモフチャンネルの誇りをかけて製作した特別番組──


 それが、『パピーボウル(Puppy Bowl)』だ!


 英語で「puppyパピー」とは、生後1年未満の子犬のこと。

 その名のとおり、『コロコロ、ふわふわ、存在自体が癒しの子犬達にアメフトをさせたら、超絶カワイイ場面がてんこ盛りなはず!』という魂胆が見え見えの映像を、3時間に渡って放送し続けるという、まさに「モフモフ・キラー」的番組なのだ。

 ちなみに、今年で開催17回目。

 パピーボウルの放送は午後2時から5時まで。スーパーボウルの開始時刻は午後6時半なので、パピーボウル視聴後に夕食の支度を始めても、開会式まで余裕で間に合う計算だ。

 

「でも、子犬達にアメフトをさせるって、どういうこと?」


 そんな疑問を抱いた方のために、ザックリと解説しよう。

 『Team Ruffわんわんチーム』と『Team Fluffもふもふチーム』の二手に分かれた子犬達が、子犬サイズのフットボールフィールドで、ボールに見立てた玩具おもちゃを奪い合い、エンドゾーン(=フィールドの両端にあるエリア)まで玩具を運ぶことが出来れば、見事、タッチダウン! 得点ゲットだ!

 ……というのが理想的な試合風景。が、選手が無邪気な子犬だけに、人間が思い描くようには絶対に動いてくれない。それがパピーボウル最大の売りであり、人気の秘訣でもある。


 仲間とじゃれ合いながら、フィールド中を転げ回ったり。

 ゴールポストに巻かれた緩衝材に咬みついて、ポストから引き剥がしたり。

 ボール代わりの玩具を抱えたまま、座り込んで動かなくなったり。

 審判(=人間)の目を盗んで、フィールドの片隅にぴーっとお漏らしたり……


 縫いぐるみのようなモフモフ達が、好き勝手やりたい放題。つたない足取りで懸命に走り回る姿は、とてつもなく愛らしい。無愛想な相方でさえ、ついニヤけてしまうほど。

 ユニフォーム代わりに、チーム名がプリントされたバンダナを巻いたパピー達の凛々しい姿に、キックオフ前からテレビの前でメロメロになるモフモフ好きさん達も多いとか。

 そんな子犬達の姿を見てみたいと思った方は、『Puppy Bowl』でググって過去の試合映像をご覧あれ。動画検索がオススメ。



「モフモフは好きだけど、犬より猫が好きなの」

 そんな方でも、心配ご無用。子猫達による『ハーフタイム・ショー』が用意されている。

 フィールドに設置された舞台の上で、BGMに合わせてのパフォーマンスを繰り広げる──そんな子猫達が超絶カワイイ! 猫好きに絶対オススメの映像は、こちら!

『Kitty Halftime Show - Puppy Bowl | Animal Planet』(https://www.animalplanet.com/tv-shows/puppy-bowl/videos/kitty-halftime-show)

 フニャフニャに癒されること間違いなし。



 可愛い子犬と子猫の姿に魅了される3時間は、あっという間に過ぎて行く。

 が、この『パピーボウル』、ただカワイイだけではない。


 実は、パピーボウル出演のために集められた全てのモフモフが、全米各地の動物保護施設アニマル・シェルターで新しい家族に引き取られるのを待つ「保護犬」や「保護猫」なのだ。



***



 アメリカの家庭に欠かせないもの。それが、ペットの存在だ。


 アメリカペット用品協会(American Pet Products Association)の2020年度の調査によれば、アメリカでは67%の家庭が1匹のペットを所有しているのだとか。日本も3世帯に1世帯がペットを飼育している時代だが、1世帯で多数のペットを飼っている家庭が多いアメリカは、世界でも圧倒的な飼育頭数を誇る「ペット大国」なのだ。

 「ペットは家族の一員」という認識なので、大型犬でも室内飼いが当たり前。起きてから寝るまで、何をするのも、どこへ行くのも、愛するキミと一緒じゃないとダメ……と言う犬好きが、アメリカにはゴロゴロいる。「アメリカを歩けば、犬を連れた犬好きさんにあたる」と言っても過言ではない。

 そんなアメリカでは、動物愛護に関する動きも日本よりずっと進んでいる。


 店頭に陳列された小さなショーケースの中から、生後数か月の可愛らしい子犬や子猫達が、潤んだ瞳でこちらを見つめている――日本のペットショップではお馴染みの光景も、アメリカではほとんどお目にかからない。狭い陳列ケースの中に生きた犬や猫を閉じ込めて商品として販売する行為は、「動物に対する虐待」と考える人が多いからだ。

 この国では「動物虐待」は決して許されない犯罪であり、時に、刑務所に収監されることさえある重罪なのだ。


 アメリカは州によって法律が異なるため、バージニア州での『犬の飼い主の責務』に関する条例をいくつか挙げてみよう。


・犬を屋外につなぐ場合、飼い主の目が届く場所で、15フィート(≒4.5メートル)以上、又は、犬の体長の4倍以上の鎖やロープを使用すること。飼い主不在の状態で犬を屋外につないだまま放置すれば、「飼育放棄」と見なされる。


・極寒や猛暑、すなわち、外気温が32℉(=0℃)以下、あるいは85℉(≒29.5℃以上)の中、犬を屋外につないだまま放置すれば、「虐待」と見なされる。


・公共の場で、リーシュ(=leash:犬の引き綱。アメリカ英語)を付けずに飼い犬を連れて歩けば、「飼育放棄」と見なされる。


・自宅の庭に出す際、コマンド(=声による指示や命令)だけで犬をコントロールするのが難しい場合、リーシュを使用しなければ、「危険行為」とみなされる。


 上記のような「虐待」や「飼育放棄」、「危険行為」を目撃した一般市民が動物保護団体に通報すれば、飼い主は団体の捜査官(いわゆるアニマル・ポリス)への協力を余儀なくされる。場合によっては「動物虐待の犯罪者」として逮捕される可能性も否めない。

 自分のコマンドに絶対的自信がないのなら、自宅の敷地内であっても、囲いのない庭先ではリーシュの着用が不可欠だ。


「あら、ウチの子は大丈夫よ~。私の言うことはちゃんと聞くし、とっても良い子だから、咬んだりしないわよ~」

 そんな親バカな飼い主はどこの国にも存在する。条例に違反していることさえ知らない人もいるのだから、困ったものだ。


 我が家の近隣でも、飼い犬を庭で放し飼いにしている家庭が実に多い。「アメリカン・ピット・ブル・テリア(通称ピットブル)」をリーシュも付けずに好き勝手にさせているやからもいる。

 ピットブルはアメリカで闘犬として作られた犬種で、攻撃性と闘争本能が非常に強い。イギリスでは『危険犬種』として繁殖、販売はもとより、所有することさえ禁じられているほど。愛犬サスケと散歩中、リーシュなしで走り回る彼らに出くわした時などは、本当にヒヤヒヤものだ。

 大型犬のサスケは、自分の背中にも届かないサイズの犬など相手にしない。が、鋭い牙を剥き出しにして吠えまくる見知らぬ犬を前にすれば、「ママを守らなきゃ!」とばかりに臨戦態勢に入る。飼い主としては生きた心地がしないので、本当に無責任な飼い方はやめて頂きたい。

 を守るためにも、『リーシュなし、ダメ、ゼッタイ』を徹底すべし。リーシュなしの状態で逃げ出した飼い犬が、興奮状態で歩行者に襲い掛かってケガをさせ、飼い主は逮捕、犬は殺処分となったケースも少なくないのだから。


 ペットに関する条例は、同じ州内でも居住するカウンティ(=county:州政府下の行政組織)や市によって微妙に異なる。なので、アメリカでペット、特に犬を飼うのなら、とってもややこしい条例をきちんと理解する必要がある。

 それでも犬と暮らしたいと思ったら。

 アメリカ人はまず、近隣のアニマル・シェルターへと足を運ぶ。

 様々な理由で行き場を失い、心に傷を負った犬や猫達の中から、「新しい家族」を迎えるために。



 我が家には犬と猫がいる。

 犬のサスケは推定2歳7ヶ月、猫のシュリは推定9ヶ月の頃に、自宅近くの「動物虐待防止協会 (Society for the Prevention of Cruelty to Animals= SPCA)」が運営するシェルターから譲り受けた。

 だから、一番可愛いとされる「子犬/子猫だった頃」の彼らの姿を、私達は知らない。それでも、相方と私にとっては、何よりも大切な存在であり、世界一カワイイ「ウチの子達」だ。


 サスケは秋田犬とオーストラリアン・シェパードの血を引くミックス犬。黒に近い焦げ茶色の体毛に、胸元と脚先がちょこんと白いのがチャームポイント。一見するとジャーマンシェパードに見えなくもないので、彼をよく知らない人は「イカツイ警察犬みたいで、近寄ると咬み付かれそう」と思うそうな。

 確かに、人見知りな上に警戒心が強く、見ず知らずの人が近付けば例外なく威嚇するので、番犬としては申し分ない。でも、相方と私の前では、とっても甘えん坊な「可愛い小さなベイビー」だ……まあ、飼い主の贔屓目も多分にあるのだけれど。


 サスケを飼い始めてから、「アメリカ人って、ホンマ、犬好きな人が多いわあ」と感じることが多くなった。

 我が家に来たばかりの頃、サスケは2度ほど脱走し、リーシュなしでご近所を逃げ回った。その度に、どこからともなく現れた犬好きさん達の協力を得て、何事もなく帰宅を果たしている。

 サスケを連れて散歩の途中、通りすがりの車から「クールな犬だね。犬種は何?」と声を掛けられることも少なくない。何を隠そう、サスケは成人男性にモテモテなのだ。

 保護犬だったことを告げると、わざわざ車を道端に停めて「大変だったね。でも、今は幸せなんだね」と優しく撫でてくれる人もいる。バカでかいピックアップトラックを運転するイカツイ男達が、サスケを見つめながら口元をゆるゆるにして「可愛いなあ」とデレる姿を見るにつけ、「犬好きさんに悪い人はいない」とほっこりさせられる。

 

 アメリカ一有名な保護犬と言えば、バイデン大統領の愛犬メイジャーだろう。歴代大統領の多くがホワイトハウスで犬を飼っていたが、シェルター出身の犬が「ファースト・ドッグ大統領一家の犬」となるのは、今回が初めてだそうな。


「え? バイデン大統領の犬って、ジャーマン・シェパードだよね? シェルターって、捨てられた犬や猫が保護されている施設でしょ? そんなところに、あんなキレイな純血種の犬がいるの?」


 そんな疑問を抱いた方も多いかと思う。

 

 アメリカでも、「犬を飼うなら、絶対にこの犬種って決めてたの。だからブリーダーから購入したのよ」という飼い主は意外に多い。ライセンスを持つ商業ブリーダーからの購入は違法ではないからだ。

 とはいえ、わざわざ高いお金を出して購入されたはずの純血種の犬が、保護施設に収容されるケースも少なからずある。「家族と犬の相性がどうしても合わないから」「トイレの失敗、噛み癖、無駄吠えが多過ぎるから」という人間側の勝手な言い分で見捨てられるのは、純血種でも変わりない。

 

 「引っ越し先のアパートの品種制限(breed restrictions)に引っ掛かるから、もう飼えないんだ」というのも、良く聞く話だ。アメリカで賃貸住宅を借りる際、家主が設けた「危険な犬種リスト(aggressive breed list)」に自分が飼っている犬が含まれていれば、それを理由に入居を断られても文句は言えないからだ。

 危険な犬として挙げられるのは、ピットブルやイタリアンマスティフ、ロットワイラー、ジャーマンシェパード、ドーベルマン、シベリアンハスキー、チャウチャウ、秋田犬、グレートデーンなど。どれも攻撃的な性格で知られているため、たとえミックス犬であっても、これらの犬の血を引いていれば品種制限の対象となる。

 バイデン大統領の愛犬メイジャーは、どこからどう見ても純血のジャーマンシェパードだ。我が家のサスケは秋田犬の血を引いている。メイジャーやサスケがシェルターに収容された理由の一つは、もしかすると、この「危険な犬」というレッテルのせいだったのかもしれない。


 逆を言えば、シェルターでも純血種の犬や猫に出逢える可能性がある、ということだ。「純血種っぽい」子なら、可能性はもっと高くなるはずだ。


 我が家の愛猫シュリは、シェルターに保護された直後、生後約9か月から1年くらいと診断されたため、施設の一番奥にある成猫用の部屋に入れられていた。おかげで、どこからどう見てもシャム猫なのに、収容されてから2週間の間、誰の目にも留まらなかった。猫が欲しくてシェルターを訪れる人のほとんどが、子猫用の部屋にしか足を運ばないからだ。

 あれから数年が経ち、スベスベだったお腹にはモッサモサの毛がうずを巻き、全体的にふっくらとして毛足も長くなった。引き取った頃は細面だったのが、今では大福餅みたいに真ん丸な顔。「やっぱ、長毛種の血が混じってたんやね」と思うのだけれど、行きつけの動物病院では「シャム猫」と認定されているため、担当医から健康診断の度に「シュリちゃんはふっくらしてて可愛いんだけど、シャム猫だからねえ。もう少し体重を落とさないとねえ」と言われ続けている。

 先生、ウチの子、純血のシャム猫やないと思うんですけどねえ。シャム猫やったら、もっとこう、シュッとしてて、運動神経も良くて……(以下、省略)。



 さて、話をシェルターに戻そう。

 バレンタインデーやサンクスギビング、クリスマスなど、「無償の愛」を示すべき日が近付く度に、アメリカ国内の至る所で『Clear the Shelters(シェルターを空っぽにしよう)』と銘打ったキャンペーンが展開される。

 ローカルニュース番組では動物保護施設で引き取り手を待つ犬や猫の動画や写真を紹介し、「今日のイチオシは、この子です! 興味のある方はシェルターまでご連絡をお願いします!」とテレビの前の視聴者に語り掛ける。


 『パピーボウル』も、そうした動物愛護活動の一環だ。今年は、アメリカ各地のシェルターから集められた70匹の子犬達が「選手」として出場した。


 テレビ画面に映る愛らしいモフモフ達の姿を見つめているうちに、一つの疑問がムクムクと湧き上がったので、相方に聞いてみた。

「子犬や子猫なんて見てるだけでもカワイイんやから、わざわざパピーボウルに出さんでも、引き取り手なんて直ぐに見つかると思うんやけど……?」

だよ。『ペットは欲しいけど、シェルターの犬猫は雑種ばかりで可愛くない』って思い込んでいる人もいるからね。『こんなに可愛い子達がシェルターで待ってるなら、行ってみる価値はあるね』と思わせるための、戦略。シェルターに足を運ぶ人が増えれば、今まで人目を引かなかった子達の引き取り手が現れる可能性も高くなるだろうしね」


 なるほど、そういうことか。

 「No-kill(殺処分ゼロ)」「Adoption Guarantee(養子縁組確約)」を掲げた動物保護団体のシェルターでさえ、譲渡率は90%。残り10%は、自然治癒が見込めない病気や加齢、「ペットとして飼うには危険すぎる」などので、残念ながら、殺処分となる。

 対して、試合に登場したモフモフ達の引き取り率は、過去16回のパピーボウルでいずれも100%。テレビの効果って、やっぱりスゴイ。



 サスケも、やむを得ぬ理由で捨てられた。

 元飼い主が「家庭の事情で、これ以上飼えなくなったから」とシェルターに持ち込んだ時には、すでに感染症の症状が表面に現れた状態だったという。感染が発覚した時点で的確な治療を施せば助かる病気だったにもかかわらず、だ。

 シェルターは、投薬治療や手術が必要な病気を持つペットも、決して拒まず受け入れる。動物病院ではないので治療は施せないが、せめて、その子が最期の時を迎えるまで精一杯生きられるよう、心を込めて世話をする。

 サスケもまた、治療を施されぬまま、シェルターのおりの中で一生を終えるはずだった。病状が進み、「これ以上の苦しみを与えるのは酷だ」と獣医から判断されて安楽死を迎えるその日を、ただ待ちながら……



 運命の出逢いって、本当にあるのだと思う。

 


***



 スーパーボウルの試合終了後。


 勝利の喜びに酔いしれる選手と観客達の姿がテレビ画面に映し出された瞬間、「ああ、やっぱりね」と、思わず苦笑いした。


 皆さん、はずれてますよ、マスク。

 ソーシャルディスタンスって、ご存じ?



 その翌朝。


 地元チームの優勝に舞い上がったファン達が、過密状態、ノーマスクのまま街中に繰り出し、祝勝パーティーを始める姿がニュース番組で放映された瞬間、「はあああ、やっぱりね……」と、またも苦笑い。


 皆さん、密集、密接、ノーマスクはヤバイでしょ。

 パンデミック下だってこと、ご存じ?




 そして、2月9日。いよいよ、前大統領の2度目の弾劾裁判が始まった。

 この日、弾劾裁判の合憲性をめぐる採決では、賛成多数で合憲とされたものの、民主党(Democratic Party:現政権)と共に賛成票を投じた共和党(Republican Party:前大統領が所属するのはコチラ)議員は、たったの6人。トランプ氏の有罪評決を下すには、少なくとも17人の共和党議員の賛成を得る必要があるというのに、だ。

 裁判初日から、彼の有罪が確定される見込みは極めて低く――



 2月13日。トランプ元大統領、二度目の弾劾裁判で再び無罪確定。



 「やっぱりね」としか言いようがない。


 アメリカ議会よ、大丈夫か?

 「無罪判決」を受けた彼が調子に乗って、狂信的な支持者達と共に、再びおバカな行動に出ないとも限らない。その時は、彼を無罪にしたキミ達が全責任を負うんやからね。そんなことはイヌでも分かるよね……


 

 世の中が、またもやイヤな方向に動き出したような気がする。

 もはや、モフモフの癒しの力だけではアメリカを救えない。



 ここはやはり、ファウチ博士の警告の言葉を以ってめくくるべきだろう。


 『Just lay low and cool it』

 (頼むから、アホなことせんと、ええ子でおってね)


 ──Anthony S. Fauci, M.D. (アメリカ合衆国の医師、免疫学者)


(2021年2月14日 公開)

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