エバーグレーズ、フォーエバー(前編)

 ガイドブック片手にインターネットで情報を調べてはメモを取り、旅の候補地と「これだけは絶対に外せない、やってみたいこと」をリストアップする。

 相方と二人、リストとにらめっこしながら、あーでもない、こーでもないと話し合い、目的地とアクティビティ旅のお楽しみが決まれば、旅に必要な日数が割り出される。

 後は、必要な予約手配をオンラインで行うだけ。 


 これが我が家の「旅行計画の作法」。

 自分達の好きなように、ワガママ放題に、「世界でたったひとつ」の旅を組み立てる。手間と時間は掛かるが、出掛ける前からワクワク感がハンパない。


 日本では、安く気軽に楽しめることもあってか、旅行代理店が企画するパッケージツアーの需要はまだまだ多いだろう。公共交通機関を使ったツアーなら混雑する道を車で行かずとも遠方まで出掛けられるし、足腰の弱いお年寄りでもバスツアーなら辛い思いをしながら歩き回る必要もない。

 私が住んでいる地域がバージニア州の片田舎だからかもしれないが、不思議なことに、街中で旅行代理店を見かけたことがない。

「言われてみれば、そうだな」

 ……相方よ、今更やね。

「で、どうなん? アメリカにも旅行代理店ってあるんよね?」

「ひと昔前までは、あった。けど、最近はネット環境さえあれば個人で手配が出来るから、店舗を置く必要がなくなったんだろうなあ」


 なるほど。さすが、合理主義の国アメリカ。

 確かに、「Priceline」や「Trivago」などのOTA(=Online Travel Agent:実店舗を持たず、オンライン上のみで取引を行う旅行代理店)を利用すれば、かつては旅行代理店の窓口に頼っていたことが自宅のPCで簡単に出来てしまう。

 そりゃ、いらんわね、実店舗。


 

「旅の形」には、その国の実情や国民性が如実に現れる。 

 近隣の州へ行くなら、自家用車で移動する。

 遠出するなら、飛行機で移動し、現地でレンタカーを借りる。

 基本的に、アメリカでは「行きたい場所には自力で行く」のが当たり前。「どこかの誰かが勝手に企画したツアーに参加して、自由を束縛される旅」をしようなどとは思わない。

 アメリカでも観光地でツアーバスを見かけることがある。が、大抵は中国人旅行客の団体ツアーだ。大抵は、車体に漢字で何やらデカデカと書かれている大型バスなので、とっても目立つ。

「シニア向けのバスツアーなら、アメリカにもあるけどね」

 少し皮肉めいた口調で、相方がつぶやく。


 アメリカ人にとっての「ツアー」とは、専門知識や技術を持つ現地ガイドの案内で観光スポットを楽しむ時間を意味する。行政が保護する公園や史跡には、必ず専門ガイドや保護官レンジャーが常駐している。彼らは、その場所での楽しみ方を熟知しているプロフェッショナルだ。彼らの解説に耳を傾けることで、ガイドブックやインターネットからは得られない興味深い事実を知ることも多い。

 お値段が少々高いと感じても、アメリカの現地ガイド付きツアーはおススメなのだ。



 さて、「私を海に連れてって」の一言で、旅行先はフロリダに決定。そこで、ねてからの憧れを、声高に叫んでみた。

世界遺産の大湿原エバーグレーズを、エアボートで疾走したいっ!」


 PCの前で「あ、それいいね」と軽くうなずいた相方が、早速「Everglades, airboat tours」と打ち込み、検索結果が表示されたところで、ツアー会社のあまりの多さに呆然となった。エアボートが走るエリアや乗船人数、ツアー自体の時間も様々で、お値段もピンキリ。中には1時間で一人300ドル以上もする高額ツアーもあり、驚愕した。

 こうなると、関西人の血が騒ぐ。

 「お値段はなるべく抑えめ。かつ、充実した内容の、お得感あふれるツアー」を探し出そうと、相方と二人、それぞれのコンピューターと睨めっこすること数時間。利用客のレビューを参考に予算内でいくつか候補を選び出し、あーでもない、こーでもないと比較検討を続けた。

 最終的に選んだのが『Captain Jack’s Airboat Tours』の『Total Everglades Combo』。3つのツアーを一緒に申し込むとオンライン予約特典の割引が適用され、費用は一人90ドルちょっと。利用客のレビューも好感を持てるものばかりだったので、早速予約することに。

 どんなツアーなのか興味が湧いた方は、『Captain……』の部分をコピペしてググって頂きたい。簡潔な説明文と多様な写真で構成されたHPがとても分かりやすかったのが、この会社に決めたポイントだ。


 何事においても「簡潔」「分かりやすい」ってホントに大事。



***



 オーランドを離れ、フロリダ半島最南端に向かってハイウェイを南下する。

 目指すは「広大な沼沢地エバーグレーズ」。


 エバーグレーズ大湿地帯の総面積は約2万平方キロメートル。そう言われてもピンとこなかったので調べてみた。「四国四県がすっぽり余裕で入るくらいの大きさ」だとか。むっちゃデカイやん。

 世界最大級のマングローブ林を有し、乾季には大草原となるエバーグレーズ大湿地帯は、様々な希少種や絶滅危惧種の動植物の生息域であり、野鳥の宝庫としても知られている。その南端に位置する『エバーグレーズ国立公園』は、世界でも珍しい「生命の保護」を目的とした公園として「世界自然遺産」に登録されている。ラムサール条約により指定された、地球上で3ヶ所しか存在しない「国際的に重要な湿地」の一つであり、ユネスコの「国際的生物圏保護区」にも登録されている……

 要するに、「むちゃくちゃ貴重なんやから、一度は行ってみなはれ!」的な場所なのだ。


 エバーグレーズ国立公園の総面積は6,105平方キロメートル。これまたピンとこないので調べてみたら、「茨城県がすっぽりと入る大きさ」。ちなみに、フロリダ州の面積は170,306平方キロメートル。北海道の約2倍強の大きさだ。これで全米第22位なのだから、アメリカの国土のデカさはケタ違いだ。

 公園内は生態系保護のため、観光用エアボートの使用は禁止されている。公園内の移動は陸上は専用トラムに乗るか、徒歩でのトレッキング。水上ではエンジンを使わないカヤックやカヌーを使用することになる。エアボート・ツアーは保護区域外で行われている。

 


 さて、私達が予約したツアー発着の目的地までは、車で約3時間半の道程だ。

 オーランドを出て30分も走ると、ハイウェイに沿って茂る雑木林の向こうに、点々と低木の生えた沼地のようなものが見え隠れするようになった。アメリカ南部特有の「スワンプ」と呼ばれる湿地だ。ナビゲーションで航空写真の画面を使用していると一目瞭然だが、中には大河のように地平線の彼方まで広がっている巨大なものもある。

 牧草地と森林だらけのバージニアとは全く違う光景にしばし見とれている間に、車の外の風景が徐々に変化して、それまで緑濃い針葉樹ばかりだったハイウェイ沿いに、背が低くずんぐりとしたパームツリーが立ち並ぶようになった。

 が、その姿は予想していたものと微妙に違う。

「なんか、変。パームツリーってのは、もっとこう、すらりと背が高くて、茶色の実がって……」

「それは外来種。今、周りに見えてるのがフロリダの原生種だよ。ついでに言うと、ココナッツは生らない」  

 相方曰く、住宅地や観光スポットに植えられているものは、殆どが見目の良い外来種なのだとか。南国のビーチにお決まりの、青空に向かって細い幹をすっくと伸ばした「ココナッツパームツリー」は、新大陸征服の時代にスペイン人が船旅の食料として持ち込んだのが定着したものだ。

 小柄でずんぐりした幹と、長毛種の猫の尻尾のようにふさふさと豊かな葉を持つフロリダのパームツリーは、素朴ながら愛らしい姿をしている。こんもりと茂る葉が大地に落とした木陰には、のんびりと居眠りする牛達の姿もあって、何とも言えずのどかな風景だ。


 やがて、東南アジアのジャングルを彷彿させるパームツリーの林が延々と続く道路脇に、『Panther Crossingパンサーに注意』の黄色い標識が目立つようになる。

 フロリダ・パンサーは、アメリカ大陸に広く生息する大型ネコ科動物ピューマの亜種だ。絶滅危惧種に指定されているため、フロリダ州法とアメリカ連邦法によって保護されている。肉食だが臆病なため、辺りが寝静まった頃にハイウェイを横切ることはあっても、人間の生活圏に姿を現すことは滅多にないという。ネコ科だけのことはある。


 木々に囲まれた以外、何もない道路をひたすら南下する。ファストフードショップはおろか、コンビニもない。レストエリアさえないので、トイレ休憩にはガソリンスタンドを利用するしかない。

 目的地まであと1時間程になった頃。いつの間にか、パームツリーのジャングルが、背の高い針葉樹林に呑み込まれるようにして姿を消した。

 「沼杉サイプレス」だ。沼沢地で根元が水没した状態で自生するサイプレスは、エバーグレーズに近づいている証拠でもある。


 不思議なことに、ハイウェイのはたに車を止めてのんびりと釣竿を垂らしている男達の姿を見かけるようになった。

 「ハイウェイ沿いの人工水路の小川クリークに棲む魚を狙っているんだよ」と相方が教えてくれた。「小さい頃、友達や弟と一緒に、日が暮れるまであんな風にして釣りをしたんだ」そうな。

 釣り人が身につけているのは、なんと、水着(いや、下着?)だけ。しかも、ぴっちぴちのブリーフタイプ! ラテンの血を引く男達は、パンツ一丁の姿まで情熱的だった。


 参考までに、我が家の相方はアイルランドとドイツの血を引き、日頃からボクサータイプを愛用している。ブリーフタイプ、いつか履かせてみたい。却下されるだろうけど、機会があれば「お願いだから、一度は履いてみて」と、可愛らしくお願いしてみよう。



***



 オーランドを出発して、およそ3時間。周りの風景が背の高い草原に変わった頃、目的地に到着。

 ハイウェイはがらがらだったので、相方は制限速度を超えてかなり飛ばしていたようだ。ハイウェイの制限速度は時速65マイルから75マイル。アメリカでは制限速度を10マイル以上超えるとスピード違反で捕まるので、要注意。

 ツアー会社の看板が掲げられた大きな駐車場には、既に沢山の車が停まっていた。予約したツアーの出発時刻には1時間以上の余裕があったものの、とりあえず受付を済ませることにした。


 青空の下、真っ赤に塗装されたエアボートが停泊する船着き場にのぞむ場所に、オフィスらしき小屋が建てられていた。個人経営の小さな会社のようだ。

 窓口でオンライン予約した旨を伝えると、愛想の良いお姉さんが「20分後に出発するボートに間に合うから、そっちに変更出来るけど、それで良いかしら?」と、ニッコリ。こちらから言うまでもなく気を利かせてくれたお姉さんに、相方もニッコリ。気が利いて仕事も早い、笑顔の素敵な南部美人サザンベルだった。


 エバーグレーズを横断するハイウェイの側には、「エアボートツアー」の看板を掲げるツアー会社が至る所に並んでいる。雨季(=5月から11月)は蚊や害虫が多く、虫除け対策をしても被害が絶えないため、オフピークシーズン。この時期なら予約なしでもツアー参加は可能らしい。が、うだるような暑さの中、窓口に貼られた小さな価格表を確認するためだけに車を停めて一軒一軒回るより、自宅のPCの前で悩む方が効率が良いのは確かだ。

 エバーグレーズの観光シーズンは乾季。その時期に訪れる場合は事前に予約をしておくのが無難だ。

 

 

  エアボートは、船体後部に取り付けられた巨大なプロペラと航空機や自動車用の大出力エンジンによって進む、平底のレジャーボートだ。水中にスクリューがないので、エバーグレーズのように水深が浅く(約15~30cm)水草が生い茂る水面でも、全く問題なく走行出来る。エンジンの出力次第では 、陸上走行も可能な優れモノだ。

 仕事柄、船舶免許を持つ相方に「これ、運転出来る?」と聞いてみた。

「前進は出来るけど、止まれないだろうから、ちょっと無理」

 停泊しているエアボートを眺めていた相方が苦笑する。

 なんと、エアボートにはブレーキが付いていないらしい。なので、減速や停止は、操縦者の腕次第なのだとか。

「僕らのエアボートを運転するキャプテンが、ベテランであることを祈るよ」

 乗る前から不安をあおるようなことを言わないで頂きたい。



 私達が予約した『Total Everglades Combo』は、エバーグレーズの3つの生態系を体験出来るツアーだ。

 1つ目の『Mangrove Airboat Tour』の目的地は、マングローブが生い茂る湿地帯。

 淡水と海水の混ざり合う場所に生息するマングローブ。その水辺には、淡水に棲むアリゲーター(=比較的、温和な性格)と、海水に棲むクロコダイル(=かなり凶暴で危険)が共存している。これは世界でもかなり珍しいのだとか。


 ツアーの出発時間になり、私たちの名を呼んでボートに手招きしたのは、カーキのサファリシャツとハーフパンツを履き、白髪混じりの金髪をポニーテールにした、長身でちょい悪オヤジ風のキャプテンだった。ベテランのオーラがにじみ出ていたので、一安心。

 乗船客は、他に中東系とおぼしき男性が3人。紅一点の私に遠慮してか、ちょっと癖のある英語で「お先にどうぞ」と言ってくれたので、二列並んだ座席の前方を陣取った。座席から手を伸ばせば水面に届きそうで、爪先を伸ばすと船首に届きそうなくらい、小さなボートだ。

 エアボートはプロペラの騒音がバカでかいため、乗船中は備え付けのヘッドフォンを着用する。走行中は後部操縦席に居るキャプテンの声は聞こえないが、見どころのポイントになるとボートを停泊させ、湿地帯の動植物について詳しく分かりやすく、とっても丁寧に解説してくれた。

 なんせ、相方を除くツアー客全てが非英語圏の出身だったもので……こういった気遣いが出来るのも、ベテランのガイドならではだ。


 両岸から突き出たマングローブの木々がトンネルのように生い茂る狭い水域を、ボートはゆったりとした速度で進んで行く。トンネルを抜けると、青空と白い雲を映し込んだ鏡のような水面が広がり、その両岸に緑濃いマングローブ林が浮かぶ幻想的な光景が現れた。

 と、突然、ボートがぐんぐんとスピードを増し、物凄い速さで疾走し始めた。弧を描くように船体を右に左にと大きく揺らしながら水面を滑走する。まるで水上ジェットコースターだ。水飛沫を全身に浴びて、あまりの爽快感に思わず「ひゃあああっ!」と嬉しい叫び声を上げると、キャプテンは気を良くしたのか、益々スピードを上げてボートを走らせる。

 雨のような水飛沫が容赦なく降り注ぎ、サングラスが濡れて前が見えなくなるわ、急カーブする度に大波に襲われて足元は水浸しになるわ……いやもう、笑いが止まらない程、ずぶ濡れになった。私はアウトドアサンダルを履いていたので濡れても平気だったが、相方はスニーカーだったので、投げ出されそうな揺れに耐えるため、浸水した床の上で足を踏ん張ろうと四苦八苦。ツアー参加の注意事項に「爪先が覆われた靴を着用のこと」とあったから、わざわざサンダルからスニーカーに履き替えたのがあだとなった。

 エアボートに乗る際は、アウトドアサンダルかマリンブーツをおススメする。

 

 走り屋のような操縦の腕を充分に見せつけてくれたキャプテンは、ガイドとしての腕前もなかなかだった。

 正午過ぎのツアーだったので、「自然界の動物は昼間は草陰で寝ているから、ワニを見つけるのは至難の業なんだよ」と断りを入れておきながら、しっかりと鼻先と目を水面に出して居眠りしているワニを発見。起こさないようにエンジンを切って、そっと近づいていく。

 ワニとの距離、約1メートル。

 寝惚けているのか、こちらを見つめているのに全く動こうとしない。ワニに気を取られていると、キャプテンが「木の上を見て」とささやいた。水面に突き出た枝の上で追いかけっこをするようにじゃれながら、3匹のアライグマが姿を見せた。そのうちの1匹は、ワニの頭上にある枝の先までやって来ると、水面に浮かぶワニをじっと見下ろしながら揶揄からかうように枝を揺らし始めた。

 それを見て、キャプテンが呆れたような声を出す。

「ああやって遊んでいる間に、水面からジャンプしたワニにパクッとやられたヤツもいるんだよ。こらっ、ワニのエサになりたくなかったら、早く家に帰れよ!」


 私達がワニやアライグマの写真を撮っている間に、後方から別のエアボートがやって来た。突然、目の前のアライグマたちが、そそくさとマングローブの枝を伝ってそちらのボート目指して走って行く。

 そのボートから、アライグマに向けてエサらしきものが空中にばら撒かれるのが見えた。アライグマたちはそれを掴もうとボートにぐーんと近づき、愛嬌を振りまいている。ボートの乗客から歓声と拍手が上がった。

 その光景に視線を向けて、キャプテンが肩をすくめた。

「あれは悪い例。自然のバランスを崩す原因になるから、ネイチャーガイドが絶対にしちゃいけないことなんだ。だから、そんなにうらやましそうな顔で他のボートを見つめないでくれないかなあ」

 そう言って、悪戯いたずらっ子のような笑顔を浮かべたキャプテンが、ものすごーくカッコ良く見えた。

 


 約1時間のツアーを堪能し、ちょい悪オヤジのキャプテンに別れを告げて、次に向かったのは『Grassland Airboat Tour』のエアボートが発着する船着き場。マングローブが生い茂る湿地帯からは車で15分程の場所だ。

 「Grassland」は、「ソーグラス」と呼ばれるノコギリ状の葉を持つ背の高い草やアシが群生する湿地帯で、「草深い河(=River of Grass)」と呼ばれている。

「あれ? エバーグレーズって『広大な沼沢地』の意味やったよね? なのに、なんで『河』なん?」と気になった。


 私の疑問に答えてくれたのが、『Grassland Airboat Tour』のキャプテンだった。

 ヒップホップスターのような装いに身を包み、エアボートの爆音にも負けないくらい良く通る大きな声と軽妙な語り口で、エバーグレーズの成り立ちと、そこに息づく植物の生態を面白おかしく、時に真剣な眼差しで、ちょっと早口に解説してくれた。

 エバーグレーズの実態は、なんと、全長約160キロメートルの「大河」だと判明。名神高速で、大阪府高槻市から名古屋市をちょっと超えた辺りまで行けちゃう程の距離だ。エバーグレーズ北部に位置する巨大なオキチョビ湖(琵琶湖の約3倍)から流れ出た淡水が、ゆるやかに傾斜するフロリダ半島南部の大地を覆う大河となって、見た目では「河」だと分からない程ゆっくりと、這うような速度で動きながら、最終的に半島南端のフロリダ湾へと流れ込んでいるそうだ。


 Grasslandでは、遥か彼方まで広がる水上の草原の合間を縫うように、こんもりとしたマングローブの小島が点在している。ちょい悪オヤジほどスピード狂ではないのか、このキャプテンのエアボートは思いの外ゆっくりと、滑るように「草深い河」を移動していく。

 河なので、水は常に流れている。湿地帯の水が驚くほど澄み切っているのもそのおかげだ。時折、涼やかな水飛沫を浴びながら、水鳥が水面を掛けて飛び立つ姿を目にしたり、水面に揺れる水草をぼんやりと眺めたり……ここだけ時間の流れが違うような、ゆったりと、のどかな開放感に浸る事が出来た30分間だった。

  

 2つのツアーを終えて、次のツアーまでは30分程時間があったので、ツアー会社が運営する小さなショップでお土産を探したり、冷たい飲み物で喉を潤しながら、しばし休憩。



 もし、この2つだけでエバーグレーズ観光を終えていたなら、「むっちゃ楽しかった! エバーグレーズ最高! エアボート・ツアー、超おススメ!」と言う、何とも薄っぺらな感想と共に、次の目的地に出発していたはずだ。



 が、最後のツアーが全てを変えた。


(2018年10月2日 公開)

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