賢者のお買い物

 年末年始は色々と買い足すものが多くて頭が痛い、と言う方に、アメリカのショッピング事情を紹介しよう。



 消費大国アメリカでは、ほとんどの商品が返品/交換可能だ。返品ルールは店によって若干違いはあるが、大抵の場合、レシートがあれば理由も聞かれず返品に応じてもらえる。


 これを逆手にとってなのか、アメリカ人の買い物の仕方はとても豪快だ。

 大人が乗り込んで三角座りできるほど大きなショッピングカートに、山ほどの商品を躊躇ちゅうちょなく放り込み、クレジットカードでさっさと支払いを済ませ、自宅に持ち帰ってゆっくりと吟味し、必要でないと判断したらさっさと返品する。

 返品理由は様々で、「サイズが合わない(試着したんとちゃうの?)」「好みに合わない(なら、なんで買った?)」から「思っていたものと違う」など、顧客側の一方的な事情が当然のようにまかり通る。

 返品される商品の状態も様々。開封後、箱が破れていても、中身が少し減っていても、全くお構いなし。袖を通してしまった洋服がちょっとほつれたり汚れたりしても素知らぬ顔。ただし、アパレルに関しては商品タグが付いていることが前提だ。


 四人の娘を持つ隣人などは、娘達の洋服を適当に(それも大量に)購入し、自宅で娘達に試着させ(絶対に商品タグを切らないのがポイント)、彼女達が気に入らなかったものは後日返品……この一連の流れを繰り返している。

「こんなの、誰でもしていることよ。店頭でどれにしようか迷って時間を無駄にするくらいなら、取りあえず全部買って、後でゆっくり考えれば良いの。賢く買い物しなきゃ、損するだけよ」


 要は、アメリカでは「返品可能期間」であれば「お客様の都合による返品」が無条件で可能なのだ。合理的と言えば合理的だけど、何か違う気がする……と感じる私は、日本人としての感覚がまだ鈍っていないのだ、と妙に安心したりもして。 

 このシステムを盾にして、家電をしばらく使っていたら壊れたから「欠陥商品」として返品したり、購入したマニキュアを全部の指に塗った後に「思っていた色と違う」とクレームをつけて返品する人がいる。中には、パーティー用ドレスやスキーウェアなどの季節商品を「レンタル」感覚で購入&返品するツワモノもいるらしい。日本で言う「理不尽な要求を繰り返す消費者モンスタークレーマー」も、アメリカでは「普通の買い物客」になってしまうのだから、恐ろしい。


 さて、返品された商品はどうなるのか?


 封を切っていない新品の商品はもちろんだが、一度使った物でも新品に近い状態であれば、そのまま店頭にちゃっかりと並べられる。「どう見てもこれ、欠陥品だよね?」的な状態で返品されたものを「おすすめセール品」として堂々と売り出す店もある。


 以前、箱に入った枕を買ったら、どう考えても誰かの頭の重みで凹んだような跡がついていて、ゾッとした。今思えば笑い話だが、その時は大パニック。

 アメリカで買い物する際、驚くほど値引きされた商品を手に取ったら、「お得やわ〜」と浮かれる前に、必ず欠陥がないか隅々まで確認して頂きたい。

 まあ、何かあったところで返品すれば良いんやけどね……



***

 


 クリスマスの翌日。


 もらったばかりのクリスマスプレゼントとレシートを手に、アメリカの人々は意気揚々とお店に向かう。

 「好みじゃない」あるいは「欲しかったものと違う」プレゼントを返品、あるいは本当に欲しかった商品と交換するために。


 プレゼント用に商品を購入する際、「ギフトレシート」が欲しい旨を伝えれば、商品名と返品ポリシーだけが書かれたレシートを発行してくれる。プレゼントに添えて贈るためだ。ギフトレシートに商品の値段は印刷されないので、プレゼントを渡す側は気まずい思いをせずにすむし、受け取る側も「なんで、これを私に……?」と心の中で思っても、取りあえず笑顔で「嬉しいわ、ありがとう」とお礼を述べておいて、その後、気兼ねせずに返品/交換すれば良いのだから、なんとも合理的。

 ただし、最近ではギフトレシートなどと言うまどろっこしいものより、初めからギフトカードを贈る人の方が多いようだ。ネットで商品の値段をいとも簡単に検索してしまう世代にとっては、「プレゼントの値段を知られるのは気まずい」と言う感覚は皆無なのかもしれない。



 ちなみに、我が家では誕生日やクリスマスの前になると、「これ、欲しいわあ」とか「これ、良さそうやん」などとお互いにアピール攻撃をする。相手の予算が分からないので、手軽なお値段のものから、結構なお値段のものまで、まんべんなく「これ、良いわあ」を繰り返すのだ。

 今年のクリスマスは、毎日お疲れなご様子の相方には「マッサージ機能付きフットバス」が。タイル張りの床が妙に冷え込むキッチンに不満も露わな私には「ミニヒーター」が、サンタさんから届けられた。アメリカ南部も、冬はそれなりに寒いのだ。



 ロマンティックのカケラもない超機能的なクリスマスプレゼントが、新年早々、大活躍することになろうとは、この時は夢にも思わず──


(2018年1月7日 公開)

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