1、秘密は必ず守ります。
高校3年生【第1話】
「あのっ…」
声が裏返った。情けない。
気を取り直して軽く咳払い。隣のクラスとはいえ、同学年のやつに話しかけるだけでこんなに緊張したのは初めてだった。
「あの、佐伯奏美さん、」
言い直した言葉はばくばくいう心臓の割には落ち着いていて、そのことに自分でほっとする。
「……何。急ぐんだけど」
「君さ、去年…、あの、小説! “失われた世界”、書いた作者さんだよね?」
「………………そうだけど」
黒髪か翻った。ずっとあらぬ方向を向いていた彼女がやっとこっちを見ている。
彼女の返事はさらに、そこからたっぷり5秒ほどは遅れた。
「あなたは?ここまで何をしにきたの、」
「いや、僕は全然、…あなたの本が好きですって伝えたくてここまで」
…
勢いでそう口にした。
けれどその告白は素直すぎることに気がつき
恥ずかしさに襲われてどこを見ていいかわからず、ただ自分のつま先を見つめていた。
そんな僕を見つめる彼女の視線を僕はしっかり感じてて、そのはずなのに
もう一度顔を上げた時、彼女はそこに
いなかった。
「逃げられ…た?」
逃げられたのだ。間違いなく。
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