涙(るい)

第57話

ー部室ー

田畑

きょうは無事に終わってよかったねぇ。


川鳥

本当にな。

小坂が転んだ時にはヒヤヒヤしたぜ。

でも浜谷のやつがやってくれたおかげで、一つのパフォーマンスになっちまったもんな。


田畑

そうだね。

不幸中の幸いだ。



ガララララ


川鳥

田畑、お客さんみたいだぞ。


田畑

・・・?



清宮

はあっ・・・はあっ・・・。

田畑先輩・・・。


田畑

清宮・・・。



清宮

話したい事があります。



ー廊下ー


田畑

話したい事って何だ?


清宮

・・・中学の話です。


田畑

・・・!


清宮

あの時、あなたは当時の副部長の蜂峰さんに脅されていたんですよね?


田畑

お前・・・その話どこで聞いたんだ?


清宮

今岡先輩から聞きました。


田畑

百合のやつ・・・。


清宮

まさか、そんな事情があるとは知りませんでした。

私はあなたになんて言ったらいいのか・・・。


田畑

でも、独裁的なやり方をしたのは私だ。


清宮

でも、命令されていた。


田畑

お前の親友のチャンスを奪った!

あの娘(こ)の気持ちを踏みにじった・・・。


清宮

・・・それはあなたの意思でやった事じゃない。


田畑

いくらお前にそう言われても中学の時にやった事は消えないんだ!


清宮

・・・じゃあ、今日やった劇は?


田畑

・・・えっ?


清宮

中学にやってきた事が消えないとあなたは言いますが、田畑先輩が高校に入学してからやってきた事も消えない事実ですよね?


田畑

・・・それは。


清宮

田畑先輩。

もう自分の事を責めないでください。


田畑

清宮・・・。


清宮

前まであなたの事を責めた私が言えた話ではないですけれど。


田畑

・・・。


清宮

田畑先輩。

役決めの時はすみませんでした。

田畑先輩は中学の時の事を許せずにいると思います。

私も同じです。

役決めの時にあなたを責めた事を私は許せません。

だから、ここからやり直しませんか?


田畑

やり・・・直す?


清宮

はい、ここから。


田畑

いいのかな、私が。


清宮

誰も咎(とが)める人はいませんよ。


田畑

・・・うん、そうするよ。

清宮、協力してもらってもいいか?


清宮

もちろんです。


田畑

ありがとう。

じゃあまた明日部室でな。


清宮

はい。



スタスタスタ


田畑

百合・・・。


今岡

類・・・。



ポン



田畑

百合・・・ちょっとトイレ行ってくる。



今岡

・・・うん。




銀次郎

よしっ、浜谷、小坂帰ろうぜ!


浜谷

おう。


小坂

私、ちょっとトイレに寄ってもいいかな?


浜谷

おう、いいぞ。


小坂

ごめんね、すぐ戻るから。



ートイレ前ー

小坂

う〜っ。

早く行かないと。


今岡

小坂ちゃん。


小坂

あっ、今岡先輩。


今岡

ごめんね小坂ちゃん。

今、トイレ清掃中だって。

だから他のトイレの方を使ってもらっていいかな?


小坂

あっ、はい。

わかりました。


スタスタスタ



今岡

これで良いよね?

類。



ートイレ内ー

田畑



うっ、くふっ、ううっ、ふっ、ふう、うう、

うあ、ああ、ああああっ、うっ、


ぐすっ、ぐすぐす





今岡

・・・うん。



田畑は泣いた。今まで我慢した分だけ。外には今岡がトイレの入り口の横に背中を合わせて田畑の泣いた声を聞いてうなずいた。今までの苦悩や葛藤がこうして報われたのだ。

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