夜の花香
カゲトモ
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「かんぱーい」
八分目まで酒の入った杯を目線の高さにまで上げる。手のひらにすっぽり収まる可愛らしい御猪口ではなく、でかでかと酒蔵の名前の入ったぐい飲みで日本酒を頂く。
ミケが手に入れた幻の日本酒だ。
「っあぁ、美味いっ」
口に含んだ瞬間、ふわぁっと芳醇な香りが広がり、のどごしはサラッとしているのに後口はフルーティ。これはまずいぞ、スルスル飲んでしまう。
「本当に美味しいわねぇ」
「日本酒なのにワインみたいな」
「あーそれ、それわかる」
「ボトルもおしゃれだし」
「素敵よねぇ」
ボトルは透き通った濃いブルー。つるん、とした透明感が酒のイメージにピッタリだ。ラベルは和紙で作られていて、一つ一つ手作りで仕上げているそう。作られる量が少ないこの酒は毎年抽選で販売されるのだが、エントリーしても俺は一度も手に入れられていない。しかも直売店以外から手に入れようとすると、プレミアが付いていてかなりの高額になる。今まで口に出来たのは人生で五回ほどだ。それなのにどうして。
「ふふふ、お客様から頂いたのよ」
「えー、なんで」
「なんでって、なんでもよ。好きなんだけど、なかなか飲めなくて~って言ったら手に入れてくれたの」
「なんで!」
こんな良い酒をミケなんかに!
「酷いわね。そのおかげで飲めているのに」
「だって、こんな良い酒」
タダでくれるなんて。高いだけの酒じゃなくて、運がなければ手に入れられない酒なのに。
「なんでも、お客様の亡くなったお爺様が収集家だったらしくて、そのなかにこれがあったんですって」
「え? まじで」
「まじよ、オオマジ。しかもそのお客様は日本酒が苦手なのよ」
「まじか」
ラベルに目をやる。製造年月日は去年のものだ。素直に言ってはいけないとは思うが、心の中で言わせてくれ。俺にこの酒を飲ませてくれてありがとう。
「本当に美味い」
「ねぇ、日本に生まれてよかったわねぇ」
「うん」
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