第5話 虚ろな情景

「それに私は……。私は手を彼の頬に当てました。ゆっくりと、彼の輪郭に沿って触れました。『私は……あなたが見えるようになるのかな?』。自分の願いを彼にぶつけ、彼は唖然としました。『もう一回手術を受けてみる。自分の目で、あなたを見たい……。』。『手術は成功すると思う?』。私は手を下ろし、とても小さい声でそう言いました。見えなくとも、私は彼の喜びを感じました。彼は私の手を握り、『絶対成功するよ。』そう言いました。彼の声はまだ震えてるけど、今度は興奮からの震えでした。」

「ふーん、自分のことを心配してくれる友達っていいね。」

「そうですね。」

少女は昔を懐かしんでいた。

「『目が見えるようになったら、色んな所を回ろう。』。『好きな本をいっぱい買ってあげるから、それから……。』。私が後悔するのを恐れているのか、彼は興奮気味に、今後のことを話しました。彼の声は、まるで光のようでした。とてもとても小さな光だけど。私の心の闇を振り払うには、十分な明るさでした。あの時は本当に凄く暖かかったです。それこそ、時が止まれば良い程の。目には見えないけど、今でもあの時の風景が思い描けます。それはきっと、私の人生の中で、一番美しい場面です。あとで両親に話したら、既にこの事を知っていたそうです。それに、私が決めて良いって言ってくれました。どうやら、私は事前に私の両親と話したらしい。彼は手術費を出すと言いました。うちの両親には断られたけど。」

「良い人だ。私だったら絶対に断らないな。」

「でも、自分に出来る事は人に頼らない方が良いと思いますよ?」

「ふーん、まさか説教されるとは。」

「その後、病院で色々な手続きをしました。そしたら家で待っていれば良いと言われました。」

「……君に合う角膜は見つかった?」

「えっと……それについては私も良く分かりません。でも…先生は家で待っていればいいと……。彼はこの手術を凄く気にしているらしく、何度も家に居るように念を押されました。しかも、その間は私と会わないって、邪魔したくないって。少し寂しかったけど、彼は約束してくれました。手術が終わったら、目を開けた瞬間に、必ず目の前に居るって。ただ待っているのは辛かったけど、彼の約束を思い出しながら、時間はすぐに経ちました。」

「手術の日が来たんだね?」

「はい。先生から連絡が来たので、両親は私を病院まで連れて行ってくれました。最初はまだ不安だったけど彼との約束のお陰で、緊張も無くなりました。そして……手術はすぐに終わりました。起きたら、目に包帯が巻かれていたけど、前の手術のような苦しい感じは無くなりました。病院で数日間安静にしていたら、包帯を取る日がやって来ました。」


「あの日は、手術が終わった後、初めて目を開ける日でした……。」

「少年の顔が見えたんだね?」

「……。」

「うん?」

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