悠遠列車 《Ture End ver.》
姫宮 柚
第1話 少女の旅
こちらは、悠遠列車でございます。
一方通行の旅行列車でございます。
こちらの列車はプライベートな指定席と道のりの風景が有名でございます。
それから終点の絶景はまだ公開されたことなく、さらに人を惹きつける魅力となりました。
そういう理由もありまして、切符の値段は非常に高いものになりました。
高値にも関わらず、乗客は絶えませんでした。列車も運転し続けました。
列車が発車後、ガタンゴトンという音が聞こえ、車内にも小さな揺れを感じられる。
それは、列車が古かったり出来が悪かったりするという訳ではなく、乗客に旅の雰囲気を楽しませるために、わざとそうしているだけ。
それに、発車した時から気付いたけど、この車両には一人の少女しか乗っていないようだ。
一人客は珍しくない。プライベートな車両だから、一つの車両には一人の客しかいない。
だが、その少女はそわそわしているように見える。一人旅だからなのか?
少女は不安そうに窓の外を眺めている。私はゆっくりと近付いた。
「こんにちは。」
突然見知らぬ男から声を掛けられたからか、少女は少しビックリしている。でもすぐ私の声に反応した。
「あ……こ、こんにちは。」
「ここに座ってもいいかな?」
「ど、どうぞ!」
少女の向かい側の席に座ると、私は少女の方へ目を向けた。
少女は緑色の春服を着ていて、小さな鞄を掛けている。
紐の緩さからして、大して物が入っていないようだ。それ以外の荷物は見当たらない。
どうやら、少女は旅のために、十分な準備をしていないようだ。
「一人旅かな?」
当たり前の事実だが、切り口としてまずそれを聞いてみた。
「そ、そうです……。」
少女は言い終わって、はっとなった。
「あの、あなたは……車掌さん、ですか?」
「うん? ああ、違うよ。」
「そうですか……。」
「この列車って、終点までどれくらいかかるか知ってますか?」
「確か、5時間くらいかな。」
「5時間……。」
少女はそう呟くと、窓の方へ向いた。時折、手首を触っていた。
「大体半分を超えた時に、切符の確認が行われるから、それでわかるんじゃないかな。」
少女は私を見て、驚いた表情をしている。
「切符の確認?」
「そうだが、どうかしたか?」
「ああ、いえ。このような一等車だと、切符確認はないと思っていましたので。」
「まあ、忙しい時に切符の確認は行わないと思うから、そこは安心していいよ。」
「はい。」
少女は俯き、手首をじっと見つめている。
「もし退屈だったら、話でもする?」
「え? はい!」
少し予想外だったか、少女はパッと顔を上げ、微笑んだ。声も少し裏がえるほどだった。
「あっ、ご、ごめんなさい……ちょっと久しぶりに家族以外の人と話すものだから……、つい、……。」
自分の失態に気付き、少女は頬を赤らめて謝った。かわいい子だな。
「ふーん。じゃあ何を話そうかな……良かったら、君の話を聞かせてくれないかな。」
「私の話…ですか?」
「そう。君の小さい頃からの話。少々失礼かもしれないが、私は人の話を聞くのが好きでね。」
「あ……はい。ではあなたのお話は?」
「私? 平凡な人生さ。そんなつまらない事はとうに忘れたよ。」
「え? そんな……不公平です……。」
少女は少し落ち込んだが、すぐに何かを思い付いたみたいで、笑顔をこちらに向けた。
「では……答えを当ててみてください。」
「答えを……当てる?」
「そうです。」
少女は悪戯っぽく笑った。
「では、あなたが訊いた二つ目の問題を覚えていますか?」
「二つ目の問題……。」
私は記憶の中を掘り返した。
一つ目は確か“ここに座ってもいいかな?”で、二つ目は……あ、“一人旅かな?”だったか。」
「正解です! 一人旅をしています。小さい頃から、あまり友達がいなかったので。」
「友達がいない?」
「最初の質問ですっ。私は何故、友達がいないのでしょうか?」
「え?」
「聞きたいことがあれば、お答えしますよ。もし答えを当てたら、私の話を教えます。」
「なるほど。」
面白いゲームだ。少し付き合ってもいいか。
「では、もう一度繰り返しますね。小さい頃からあまり友達がいませんでした。
「友達って、人間のことか?」
「あのー、その質問……おかしくないですか。」
それはそうだ。一般的に友達というと、もちろん人間のことだ。
「友達って動物のこと?」
「うーん…違います。あまり動物と遊ぶ機会がなかったもので…。」
「友達って……まさか、幽霊のことか!?」
「えええ! ゆ、幽霊!?」
少女は明らかに泣きそうな声を出している。
「いえいえいえいえ……そのようなものは存在しません!」
思っていた通りの反応だ。
「友達って、おもちゃのことか?」
「うーん…違います。おもちゃは付き添ってくれるけど、話せませんから…。」
「友達がいないのは。自分のせい?」
「……はい。」
沈黙の後、少女は頷いた。
「友達がいないのは、私自身が悪いんです……。」
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